とんぼ連れて味方あつまる山の国 阿部完市【季語=とんぼ(秋)】


とんぼ連れて味方あつまる山の国

阿部完市

昭和の子どもの遊びがテレビで取り上げられていて「ゴム跳びの何が面白いのか」という話になった。あんなに面白いものはない。まずは二人(ゴム係と仮に呼ぶ)の足首にゴムを渡し、歌に合わせて足をひっかける。ゴム係と交替でチャレンジし、足首の高さで成功したら膝、膝に成功したら腿とだんだんレベルアップしていく。出来る出来ないがはっきりしており、出来た時の達成感が気持ち良い。

端で見ている男の子には何をやっているのかわからなかったようだ。考えてみると地味な遊びである。見ている人には伝わりにくいけれど面白いからやってみたらいいのに。

基本的にはゴム跳びと呼んでいたが転校生の子はゴム段と呼んでいた。その子がいる時はなんとなくゴム段と呼んだ。跳ぶ時には「自分の分、1回、2回、3回」と唱えていた。ウィキペディアには「アルプス一万尺」や「さくまのキャンロップ」に合わせて、とあった。そういえば「キャン、キャン、キャンロップ」とも歌っていたような?

子どもの頃の遊びではゴム跳びも面白かったが、一番盛り上がったのは「ケイドロ」だった。「ドロケイ」とも言ったが、どちらかに統一する理由がないので言い出しっぺが言った方に合わせていた気がする。警察と泥棒、つまり敵と味方に分かれるというだけでなく警察に捕まって牢屋に入った仲間を助けることが出来るというのも盛り上がった要因の一つであった。大逆転があるとどんな場面でも盛り上がる。

とんぼ連れて味方あつまる山の国

敵と味方に分かれるタイプの子どもの遊びであろう。多少の差異はあるかもしれないがケイドロと考えても良さそうである。次々とくる仲間たちがとんぼを連れてきた。とんぼも味方になってくれているのだ。とんぼはよく人についてくるのでそれを「連れて」と見立てた。

「山の国」が子どもたちの遊びの王国をさしているようで場面の指定として申し分ない。「海の国」「風の国」「川の国」もありそうだが、それでは抽象的な世界になってしまう。山の国には間違いなくガキ大将がいるはずだ。普段は乱暴だけど仲間が危機に陥った時には命がけで助けてくれる…などというのは昭和への楽観的幻想だろうか。私の幼少の頃にはガキ大将はいなかったし、いたとしても認識できていなかった。

令和の今、あれだけの大人数であんな遊びを出来る場所はどれほどあるのだろうか。そもそも人数が集まらない。当時はとりあえずそこにいる人みんなに声をかけ、名前もよく知らない子とも遊んでいたのに。年齢の離れた弟や妹は「おみそ」といって鬼ごっこで捕まっても鬼にならないルールだった。俳句を知った今はとんぼを見ているだけで充分楽しめる。

『絵本の空』(1969年刊)所収。

吉田林檎


【執筆者プロフィール】
吉田林檎(よしだ・りんご)
昭和46年(1971)東京生まれ。平成20年(2008)に西村和子指導の「パラソル句会」に参加して俳句をはじめる。平成22年(2010)「知音」入会。平成25年(2013)「知音」同人、平成27年(2015)第3回星野立子賞新人賞受賞、平成28年(2016)第5回青炎賞(「知音」新人賞)を受賞。俳人協会会員。句集に『スカラ座』(ふらんす堂、2019年)


【吉田林檎さんの句集『スカラ座』(ふらんす堂、2019年)はこちら ↓】



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