大空に自由謳歌す大花火
浅井聖子
先週の日曜日、そして今週の日曜日と、アメリカにはイベントが目白押し。
毎年6月の最終日曜日、ニューヨークではプライド・パレード(Pride parade)が行われる。今年は、6月27日だった。これは、性的少数者(セクシャル・マイノリティSexual Minority)、いわゆるLGBTQ+(エル・ジー・ビー・ティー・キュー・プラス)の文化を讃えるイベントだ。
1969年6月28日、ニューヨークで起こり、性的マイノリティーの人権獲得運動の発端となった、「ストーンウォールの反乱」(Stonewall Riot)にちなみ、アメリカをはじめ世界各地で、6月は「プライド月間」(Pride Month)とされている。「プライド(誇り)」には、「自分の性的指向や性的アイデンティティに誇りを持とう」という意味が込められている。
筆者の職場であるコミュニティーセンターも、「ストーンウォールの反乱」の舞台となったバーであり、LGBTQ+の聖地とされる、ストーンウォール・インの近くということもあり、ロビーは「プライド・フラッグ」と呼ばれる虹色の旗や電飾で華やかだった。この「プライド・フラッグ」はLGBTQ+のシンボル。1970年代に、性的マイノリティーに圧倒的支持を受けていた、女優ジュディー・ガーランドが、映画「オズの魔法使い」の中で歌う「虹の彼方に」(Over the Rainbow)にちなむという。
ストーンウォール・インの位置する、ニューヨーク、グリニッジ・ビレッジを練り歩き、街を虹色に染めるプライド・パレードは「プライド月間」の最後を飾る大イベントだ。新型コロナウィルス感染拡大予防のため、去年は中止され、今年はヴァーチャルで行われたが、「ストーンウォールの反乱」から50周年となった2019年のパレードは、約15万人の参加、約300万人の観衆を得て深夜まで続いたという。
そして、今週末7月4日は、アメリカの「独立記念日」(Independence Day)。1776年にアメリカ独立宣言が公布されたことを記念する祝日だ。11月の感謝祭、12月のクリスマスと並んで、アメリカの最大の祝日の一つ。今年は日曜日に当たるため、翌日月曜日が振替休日となる。この週末、人々はバーベキュー、ピクニックなどをして家族や友人と楽しい時を過ごす。
ここ十数年、筆者はこの時期に日本に帰省していたため、アメリカの、またニューヨークのこれらのイベントは新鮮。新型コロナウィルス感染予防のためイベントの規模は縮小されてはいるものの、おそらく経済が再開した解放感も手伝っているのだろう、街をゆく人々からのエネルギーは大。
そうそう、独立記念日の全米各地で行われる花形は打ち上げ花火。アメリカ独立宣言の翌年、1777年に始まったという。ニューヨークの花火は、4台の発射台を使い壮大なことでも有名だ。南北に細長いマンハッタン島の東側を流れるイースト・リバーと、西側を流れるハドソン・リバーのどちらで行われるかが、毎年話題になる。
筆者が思い出すのは、20年以上前のイースト・リバーの花火。川沿いの高速道路、フランクリン・D・ルーズベルト・イースト・リバー・ドライブ、通称FDR(エフ・ディー・アール)は、歩行者天国になり、そこには身動きもできないほどの人だかり。その人いきれの中で見上げた、鮮やかな花火の色、形。体に響く打ち上げの轟音。それらが高層ビルに幾度も反映、反響し、マンハッタン島は大きな万華鏡と化した。
さて、掲句は、10年前に始まった「北米伊藤園新俳句グランプリ」の初回の最優秀賞作品。作者はアメリカ在住。
大空に自由謳歌す大花火
「自由」を感じそれを「謳歌」できるのは、その反対の状況や感情をあらかじめ体験し、知っているからこそのことだろう。「OOzorani jiyuuOukasu OOhanabi」の「O」音の大らかさが、英語圏における感嘆の声である、「Oh!」にも通じ、一句に解放感を満たす。さらに「自由謳歌す」の表現と、多彩で鮮やかな花火の映像が、人種や性的アイデンティティなど、多くの面での多様性が特徴であり、「自由の国」と呼ばれるアメリカの気分を余すことなく伝えている。
(月野ぽぽな)
【執筆者プロフィール】
月野ぽぽな(つきの・ぽぽな)
1965年長野県生まれ。1992年より米国ニューヨーク市在住。2004年金子兜太主宰「海程」入会、2008年から終刊まで同人。2018年「海原」創刊同人。「豆の木」「青い地球」「ふらっと」同人。星の島句会代表。現代俳句協会会員。2010年第28回現代俳句新人賞、2017年第63回角川俳句賞受賞。
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