ハイクノミカタ

鯖買ふと決めて出てゆく茂かな 岩田由美【季語=鯖・茂(夏)】


鯖買ふと決めて出てゆく茂かな

岩田由美

昨年、俳人協会の第7回新鋭俳句賞準賞をいただいた。これまでにいくつか賞には応募していたが、はじめての受賞であり、素直にうれしかった。東京で公開選考会が行われたが、遠方であることと自分が予選通過しているかどうかも不明であったことを理由に、参加はしなかった。(後日、ホームページで選考会の様子が配信された。遠方からの応募者にとって、大変ありがたかった。)

受賞の一報を受けたのは神戸のジュンク堂書店。知らない番号からの着信があり、俳人協会の担当理事である今井聖さんから「決まりました、準賞です!」とお伝えいただいた。驚きもあり、書店という場所もあり「はぁ。」と小声で返したら、「うれしくないんですか。」と言われたような気がする。

 賞に応募する理由は諸々あるが、選考委員の方々がどのように自作を読んでくださるかを知りたいということに尽きる。今回の選考委員は、岩田由美さん・遠藤由樹子さん・野中亮介さんの三名。欠点も含めて具体的に自分の句を挙げて議論してくださるのはとても刺激的であり、なにより勉強になった。

掲句は岩田さんの第一句集『春望』の中の一句。一読、波多野爽波の〈大根買ふ輪切りにすると決めてをり〉を思い出した。爽波の句は「輪切り」まで言ってしまう面白さがあるが、掲句は「鯖」と「茂」の相性がなんとも絶妙である。どちらも季語であり、安易に重複させるのは躊躇されるが、「鯖」が主季語の「茂」をより生かしているように思われる。健康的な夏の景が鮮やかに浮かんでくる。

常原 拓


【執筆者プロフィール】
常原 拓(つねはら・たく)
1979年 神戸市生まれ
2016年 「秋草」入会 山口昭男に師事
2023年 第7回俳人協会新鋭俳句賞準賞
2024年 第一句集『王国の名』

第7回俳人協会新鋭俳句賞準賞受賞の「秋草」所属の中堅俳人。
待望の第一句集。

常原拓句集『王国の名』

四六判変型上製
200ページ
2000円(税別)

ISBNコード
978-4861985805


2020年10月からスタートした「ハイクノミカタ」。【シーズン1】は、月曜=日下野由季→篠崎央子(2021年7月〜)、火曜=鈴木牛後、水曜=月野ぽぽな、木曜=橋本直、金曜=阪西敦子、土曜=太田うさぎ、日曜=小津夜景さんという布陣で毎日、お届けしてきた記録がこちらです↓



【2024年6月の火曜日☆常原拓のバックナンバー】
>>〔5〕早乙女のもどりは眼鏡掛けてをり 鎌田恭輔
>>〔6〕夕飯よけふは昼寝をせぬままに 木村定生

【2024年6月の水曜日☆阪西敦子のバックナンバー】
>>〔124〕留守の家の金魚に部屋の灯を残し 稲畑汀子

【2024年6月の木曜日☆中嶋憲武のバックナンバー】
>>〔1〕赤んぼころがり昼寝の漁婦に試射砲音 古沢太穂
>>〔2〕街の縮図が薔薇挿すコップの面にあり 原子公平

【2024年5月の火曜日☆常原拓のバックナンバー】
>>〔1〕今年の蠅叩去年の蠅叩 山口昭男
>>〔2〕本の背は金の文字押し胡麻の花 田中裕明
>>〔3〕夜の子の明日の水着を着てあるく 森賀まり
>>〔4〕菱形に赤子をくるみ夏座敷 対中いずみ

【2024年5月の水曜日☆杉山久子のバックナンバー】
>>〔5〕たくさんのお尻の並ぶ汐干かな 杉原祐之
>>〔6〕捩花の誤解ねぢれて空は青 細谷喨々
>>〔7〕主われを愛すと歌ふ新樹かな 利普苑るな
>>〔8〕青嵐神社があったので拝む 池田澄子
>>〔9〕万緑やご飯のあとのまたご飯 宮本佳世乃

【2024年5月の木曜日☆小助川駒介のバックナンバー】
>>〔4〕一つづつ包むパイ皮春惜しむ 代田青鳥
>>〔5〕しまうまがシャツ着て跳ねて夏来る 富安風生
>>〔6〕パン屋の娘頬に粉つけ街薄暑 高田風人子
>>〔7〕ラベンダー添へたる妻の置手紙 内堀いっぽ

【2024年4月の火曜日☆阪西敦子のバックナンバー】
>>〔119〕初花や竹の奥より朝日かげ    川端茅舎
>>〔120〕東風を負ひ東風にむかひて相離る   三宅清三郎
>>〔121〕朝寝楽し障子と壺と白ければ   三宅清三郎
>>〔122〕春惜しみつゝ蝶々におくれゆく   三宅清三郎
>>〔123〕わが家の見えて日ねもす蝶の野良 佐藤念腹

【2024年4月の水曜日☆杉山久子のバックナンバー】
>>〔1〕麗しき春の七曜またはじまる 山口誓子
>>〔2〕白魚の目に哀願の二つ三つ 田村葉
>>〔3〕無駄足も無駄骨もある苗木市 仲寒蟬
>>〔4〕飛んでゐる蝶にいつより蜂の影 中西夕紀

【2024年4月の木曜日☆小助川駒介のバックナンバー】
>>〔1〕なにがなし善きこと言はな復活祭 野澤節子
>>〔2〕春菊や料理教室みな男 仲谷あきら
>>〔3〕春の夢魚からもらふ首飾り 井上たま子

【2024年3月の火曜日☆鈴木総史のバックナンバー】
>>〔14〕芹と名がつく賑やかな娘が走る 中村梨々
>>〔15〕一瞬にしてみな遺品雲の峰 櫂未知子
>>〔16〕牡丹ていっくに蕪村ずること二三片 加藤郁乎

【2024年3月の水曜日☆山岸由佳のバックナンバー】
>>〔5〕唐太の天ぞ垂れたり鰊群来 山口誓子
>>〔6〕少女才長け鶯の鳴き真似する  三橋鷹女
>>〔7〕金色の種まき赤児がささやくよ  寺田京子

【2024年3月の木曜日☆板倉ケンタのバックナンバー】
>>〔6〕祈るべき天と思えど天の病む 石牟礼道子
>>〔7〕吾も春の野に下りたてば紫に 星野立子


【セクト・ポクリット管理人より読者のみなさまへ】

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • follow us in feedly

関連記事

  1. 大風の春葱畠真直来よ 飯島晴子【季語=春葱(春)】
  2. 芹と名がつく賑やかな娘が走る 中村梨々【季語=芹(春)】 
  3. 膝枕ちと汗ばみし残暑かな 桂米朝【季語=残暑(秋)】
  4. けさ秋の一帆生みぬ中の海 原石鼎【季語=今朝秋(秋)】
  5. えりんぎはえりんぎ松茸は松茸 後藤比奈夫【季語=松茸(秋)】
  6. 肩へはねて襟巻の端日に長し 原石鼎【季語=襟巻(冬)】
  7. こほろぎや女の髪の闇あたたか 竹岡一郎【季語=蟋蟀(秋)】
  8. 何故逃げる儂の箸より冷奴 豊田すずめ【季語=冷奴(夏)】

おすすめ記事

  1. 卯月野にうすき枕を並べけり 飯島晴子【季語=卯月(夏)】
  2. 【春の季語】鳥の妻恋
  3. ふくしまに生れ今年の菊膾 深見けん二【季語=菊膾(秋)】
  4. 【結社推薦句】コンゲツノハイク【2024年2月分】
  5. 【春の季語】葱坊主
  6. 鳥を見るただそれだけの超曜日 川合大祐
  7. 麦からを焼く火にひたと夜は来ぬ 長谷川素逝【季語=麦からを焼く?】
  8. 【読者参加型】コンゲツノハイクを読む【2022年8月分】
  9. 春林をわれ落涙のごとく出る 阿部青鞋【季語=春林(春)】
  10. 【冬の季語】枯野

Pickup記事

  1. 一番に押す停車釦天の川 こしのゆみこ【季語=天の川 (秋)】
  2. 田に人のゐるやすらぎに春の雲 宇佐美魚目【季語=春の雲(春)】
  3. 「パリ子育て俳句さんぽ」【12月18日配信分】
  4. 義士の日や途方に暮れて人の中 日原傳【季語=義士の日(冬)】
  5. 神保町に銀漢亭があったころ【第116回】入沢 仁
  6. 神保町に銀漢亭があったころ【第25回】山崎祐子
  7. 尺蠖の己れの宙を疑はず 飯島晴子【季語=尺蠖(夏)】
  8. 渡り鳥はるかなるとき光りけり 川口重美【季語=渡り鳥(秋)】
  9. 秋めくや焼鳥を食ふひとの恋 石田波郷【季語=秋めく(秋)】
  10. 夏潮のコバルト裂きて快速艇 牛田修嗣【季語=夏潮(夏)】
PAGE TOP