毛皮はぐ日中桜満開に
佐藤鬼房
日中に桜が満開になったという出来事には、ややファンタジックな印象がある。景はかなり鮮やか。満開の桜の中で毛皮を剥ぐ。剥がれる肉も時おり音を立てて、鮮明な赤なのだろう。
毛皮を剥いでいる人物をどう読むかで、一句の位置付けは変わりそうである。たとえば、屠殺や革製品の製造に関わってきた「賎民」をこの句の人物として考える場合、社会性俳句としてこの句を読むべきだという主張もありそうだ。
(安里琉太)
【執筆者プロフィール】
安里琉太(あさと・りゅうた)
1994年沖縄県生まれ。「銀化」「群青」「滸」同人。句集に『式日』(左右社・2020年)。 同書により、第44回俳人協会新人賞。
2020年10月からスタートした「ハイクノミカタ」。【シーズン1】は、月曜=日下野由季→篠崎央子(2021年7月〜)、火曜=鈴木牛後、水曜=月野ぽぽな、木曜=橋本直、金曜=阪西敦子、土曜=太田うさぎ、日曜=小津夜景さんという布陣で毎日、お届けしてきた記録がこちらです↓
【安里琉太のバックナンバー】
>>〔26〕あえかなる薔薇撰りをれば春の雷 石田波郷
>>〔25〕鉛筆一本田川に流れ春休み 森澄雄
>>〔24〕ハナニアラシノタトヘモアルゾ 「サヨナラ」ダケガ人生ダ 井伏鱒
>>〔23〕厨房に貝があるくよ雛祭 秋元不死男
>>〔22〕橘や蒼きうるふの二月尽 三橋敏雄
>>〔21〕詩に瘦せて二月渚をゆくはわたし 三橋鷹女
>>〔20〕やがてわが真中を通る雪解川 正木ゆう子
>>〔19〕春を待つこころに鳥がゐて動く 八田木枯
>>〔18〕あっ、ビデオになってた、って君の声の短い動画だ、海の 千種創一
>>〔17〕しんしんと寒さがたのし歩みゆく 星野立子
>>〔16〕かなしきかな性病院の煙出 鈴木六林男
>>〔15〕こういうひとも長渕剛を聴くのかと勉強になるすごい音漏れ 斉藤斎藤
>>〔14〕初夢にドームがありぬあとは忘れ 加倉井秋を
>>〔13〕氷上の暮色ひしめく風の中 廣瀬直人
>>〔12〕旗のごとなびく冬日をふと見たり 高浜虚子
>>〔11〕休みの日晝まで霜を見てゐたり 永田耕衣
>>〔10〕目薬の看板の目はどちらの目 古今亭志ん生
>>〔9〕こぼれたるミルクをしんとぬぐふとき天上天下花野なるべし 水原紫苑
>>〔8〕短日のかかるところにふとをりて 清崎敏郎
>>〔7〕GAFA世界わがバ美肉のウマ逃げよ 関悦史
>>〔6〕生きるの大好き冬のはじめが春に似て 池田澄子
>>〔5〕青年鹿を愛せり嵐の斜面にて 金子兜太
>>〔4〕ここまでは来たよとモアイ置いていく 大川博幸
>>〔3〕昼ごろより時の感じ既に無くなりて樹立のなかに歩みをとどむ 佐藤佐太郎
>>〔2〕魚卵たべ九月些か悔いありぬ 八田木枯
>>〔1〕松風や俎に置く落霜紅 森澄雄
【セクト・ポクリット管理人より読者のみなさまへ】