直立の八月またも来りけり 小島健【季語=八月(秋)】


直立の八月またも来りけり()

小島健

作者の深い思いと詩魂が結晶した〈直立の八月〉が強く心に響き、読んだとたんに、この〈八月〉が、1945年の太平洋戦争終結に始まる〈八月〉であることが伝わってくる。

8月6日は広島原爆の日(広島忌)、8月9日は長崎原爆の日(長崎忌)、そして8月15日は終戦記念日。8月6日には広島市の平和記念公園にて、8月9日には長崎市の平和公園にてそれぞれ平和記念式典が、8月15日には、東京都の日本武道館にて、全国戦没者追悼式が毎年行われ、それぞれの式典では、原爆死没者、戦没者の霊を慰めるため参加者一同が起立し、黙祷が捧げられる。

〈直立の八月〉の〈直立〉からは、黙祷する日本中の人々の姿が見え、黙祷に込められた、一人一人の戦争への記憶や体験を巡る、言葉では言い尽くせない思いの深さや嵩が押し寄せてくる。

黙祷を捧げる人々は日本国でだけでなく、また日本人だけではない。ここニューヨークでも、毎年8月に広島と長崎での原爆死没者を追悼し、宗教の枠を超えて世界平和を祈る会、Interfaith Peace Gathering(インターフェイス・ピース・ギャザリング)が行われている。

平和な世界を願わない日は無いが、8月はより強く願う月だ。筆者が生まれ育った国である日本と、長く暮らす国であるアメリカの間で起きた、かの戦争の歴史を思うからだろう。

直立の八月またも来りけり

そして今年で76回目の〈八月〉、筆者の大切な両国が共に平和であることを心より願う。そして、たった一つしかない奇跡の星、地球を共にする世界の国々が平和であることを心より願う。 

『山河健在』(角川書店、2020年)

月野ぽぽな


【執筆者プロフィール】
月野ぽぽな(つきの・ぽぽな)
1965年長野県生まれ。1992年より米国ニューヨーク市在住。2004年金子兜太主宰「海程」入会、2008年から終刊まで同人。2018年「海原」創刊同人。「豆の木」「青い地球」「ふらっと」同人。星の島句会代表。現代俳句協会会員。2010年第28回現代俳句新人賞、2017年第63回角川俳句賞受賞。
月野ぽぽなフェイスブック:http://www.facebook.com/PoponaTsukino



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