蝌蚪乱れ一大交響楽おこる
野見山朱鳥
はじめまして、藤本智子と申します。
三月の間、「ハイクノミカタ」コーナーの水曜日を担当させていただきます。
よろしくお願いします。
まず正直に申し上げて、私は俳句についていまだにわからないことだらけです。
技巧等の難しいことはよくわかりません。句集や評論の類も仕事にかまけてほとんど読めていません。俳壇の流行(そもそも、そのようなものがあるのかどうか)もわかりません。
右も左もわからない私ですが、わからないなりに、昔から「好きだなあ」と思う俳人がいます。
野見山朱鳥(1917-1970)です。
どうして好きなのか、何がどうすごいのかということを、上手く説明できる気がしません。句集を捲っては「すごい」「やばい」「好き」等、大好きなアイドルもしくはアニメキャラクターを前に興奮しすぎてほとんど思考停止に陥り、褒め言葉の語彙を著しく欠いたオタク(俗に言う「語彙力のないオタク」)のようなことを思っています。事実、私は語彙力のないオタクそのものです。
そんな私が直感的に「好きだ!」と感じた野見山朱鳥の俳句をこのコーナーでいくつか取り上げていきたいと思っています。
「コイツ、わからないなりにそれらしいことを一生懸命言おうとしているんだなあ」と、生温かく、薄目で見守ってくださると幸いです。
蝌蚪乱れ一大交響楽おこる
私はこの句を一目見て堪らず「ヒェッ」と悲鳴にも似た声を漏らしました。誇張ではありません。すごい。もう、すごすぎて言葉にならない。なんなんだこのセンスは……。
おたまじゃくしの姿を音符に見立てたものなのでしょう。それ自体はとくに珍しい比喩ではないと思います。ただ、そこに「一大交響楽」という言葉が置かれたことでおたまじゃくしの数のおびただしさ、小さな命の動きがありありと目に浮かびます。生々しくて怖いくらいに。
池にポンと小石を投げ込んだところ、そこにいたおたまじゃくしが驚いてウワァ〜ッと縦横無尽に動き回る、そんなイメージです。
この句から、もうひとつ別の俳人の句を思い出します。藤田湘子(1926-2005)の「音楽を降らしめよ夥しき蝶に」です。ここでの「音楽」も、交響楽のような大規模な演奏のイメージです(あくまでも私個人のイメージですが)。
夥しき命の躍動と交響楽は親和性が高いのでしょうか。
昨年の十月、作曲家・伊福部昭の音楽のみを演奏するコンサートを観に行きました。伊福部昭と言えば「ゴジラのテーマ」が最も有名だろうと思います。
しかし、私が一番好きな伊福部昭の曲は「シンフォニア・タプカーラ」(または「タプカーラ交響曲」)です。その曲が演目にあるのを見て、急いでチケットを取ったのです。
タプカーラとはアイヌ語で「立って踊る」の意味。アイヌ民族の儀式としての舞のことを指します。力強い演奏からはアイヌ民族の逞しさ、あらゆるものに魂が宿っている(=カムイ)と考えるアイヌ民族ならではの、すべての命への畏敬の念が感じられます。
(YouTubeで「シンフォニア・タプカーラ」を検索すると、さまざまな交響楽団による演奏動画がアップされているのでご存知ない方はぜひ聴いてみてください)
朱鳥の蝌蚪の句も湘子の蝶の句も、つまるところ命への畏敬が交響楽(音楽)という言葉に託されているように思えてならないのです。
それではまた次週、お付き合いいただけますと幸いです。
(藤本智子)
【執筆者プロフィール】
藤本智子(ふじもと・ともこ)
1990(平成 2)年広島県生まれ。「南風」会員。
第9回龍谷大学青春俳句大賞短大・大学生部門最優秀賞。
第7回・第9回石田波郷新人賞奨励賞。
2020年10月からスタートした「ハイクノミカタ」。【シーズン1】は、月曜=日下野由季→篠崎央子(2021年7月〜)、火曜=鈴木牛後、水曜=月野ぽぽな、木曜=橋本直、金曜=阪西敦子、土曜=太田うさぎ、日曜=小津夜景さんという布陣で毎日、お届けしてきた記録がこちらです↓
【2022年3月の火曜日☆松尾清隆のバックナンバー】
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【2022年2月の火曜日☆永山智郎のバックナンバー】
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>>〔4〕おそろしき一直線の彼方かな 畠山弘
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>>〔2〕ミシン台並びやすめり針供養 石田波郷
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【2022年1月の火曜日☆菅敦のバックナンバー】
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【セクト・ポクリット管理人より読者のみなさまへ】