はなびらの垂れて静かや花菖蒲
高浜虚子
一幅の日本画のように切り取られた花菖蒲の美しさ。風もなく、静止したはなびらが虚空に浮かぶ。
花菖蒲はあやめやかきつばたに比べてはなびらが大きいので、「垂れて」の一語が花菖蒲の存在感を表わしている。
一見見分けにくいあやめ、かきつばた、花菖蒲だが、花弁の元のところを見ると判別がつけやすい。あやめは綾目模様で、杜若は白、花菖蒲は黄色。あやめだけが乾燥したところに咲く。
花の区別ならこれでつくのだが、紛らわしいのは作品の上での判別。昔は「菖蒲」と書いて「あやめ」と読んでいたので、「あやめ」とあっても詠まれている花が実際にはあやめなのか花菖蒲なのか、紛らわしいのだ。
「なつかしきあやめの水の行方かな 虚子」は咲いている場所から思うときっと花菖蒲の姿だろう。
(日下野由季)
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【執筆者プロフィール】
日下野由季(ひがの・ゆき)
1977年東京生まれ。「海」編集長。第17回山本健吉評論賞、第42回俳人協会新人賞(第二句集『馥郁』)受賞。著書に句集『祈りの天』、『4週間でつくるはじめてのやさしい俳句練習帖』(監修)、『春夏秋冬を楽しむ俳句歳時記』(監修)。
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