横ざまに高き空より菊の虻
歌原蒼苔
期待していた残暑も戻らないまま、九月も十日が過ぎようとしています。時の速さに浮足立って、朝から何にも手につかないのは、私だけかもしれませんが、人がみな我より暇に見ゆる日よ。そんな、独りよがりな金曜ですよ。
そういえば、昨日は重陽の節句で、重陽の節句は菊の節句。なんだけれども、その当日に出すにはちょっと違うんじゃないかなというタイプの菊の句。
横ざまに高き空より菊の虻
菊の句なのだけれど、菊は形容詞的に置かれていて、主役は虻。「横ざま」ではあるのだけれど、その横ざまな軌道がどこからやってきたかと言えば、高き空より来たのである。
この軌道は見えたというよりは、聞いたり、感じたりといったものに近そうだ。虻の出現を見て、そういえばこっちの方から来たなというような具合。その印象は、まず近距離である「横ざま」が句の中に現れて、次に「高き空より」とその直前の遠景が描かれるためだろう。
形容詞的ではあるけれど、虻の終着は「菊」。決して動的ではない菊の花に、ぴたりと現れる虻の大胆な動きが、常識的でなく描かれる。この型破りこそが実感、臨場感となって伝わるのだろう。
作者は、まだ「俳都」でなかった頃の松山に明治八年に生まれ、はじめ藤野古白に、古白没後は子規に師事した。日露戦争に従軍ののち、韓国の大邱に渡った。
どうも落ち着きを強要されているようで、あまり居心地のよくないこの季節、こんな句があるとすこし窮屈さも和らぐ。みなさんにも和らいだ週末になりますように。
『ホトトギス同人句集』(1938年)
(阪西敦子)
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【執筆者プロフィール】
阪西敦子(さかにし・あつこ)
1977年、逗子生まれ。84年、祖母の勧めで七歳より作句、『ホトトギス』児童・生徒の部投句、2008年より同人。1995年より俳誌『円虹』所属。日本伝統俳句協会会員。2010年第21回同新人賞受賞。アンソロジー『天の川銀河発電所』『俳コレ』入集、共著に『ホトトギスの俳人101』など。松山市俳句甲子園審査員、江東区小中学校俳句大会、『100年俳句計画』内「100年投句計画」など選者。句集『金魚』を製作中。
【セクト・ポクリット管理人より読者のみなさまへ】