秋山に箸光らして人を追ふ
飯島晴子
以前紹介した「親の箸」の句もそうだが、晴子の句からは、箸が人間と自然のちょうど間にあるような印象を受ける。もわもわと量感豊かな紅葉の中で、細くくっきりと箸のうごきが見える。箸の艶も見える。「箸光らして人を追ふ」とはどういうことだろう。私の中では、人を追う途中、腹ごしらえをしているというところが想像される。しかも「光らして」なので、薄暗い山宿での食事を思う。かつ、箸で人をつまみあげるような、そういうイメージも重なってくるのである。
(小山玄紀)
【執筆者プロフィール】
小山玄紀(こやま・げんき)
平成九年大阪生。櫂未知子・佐藤郁良に師事、「群青」同人。第六回星野立子新人賞、第六回俳句四季新人賞。句集に『ぼうぶら』。俳人協会会員
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【小山玄紀のバックナンバー】
>>〔28〕ここは敢て追はざる野菊皓かりき 飯島晴子
>>〔27〕なにはともあれの末枯眺めをり 飯島晴子
>>〔26〕肉声をこしらへてゐる秋の隕石 飯島晴子
>>〔25〕けふあすは誰も死なない真葛原 飯島晴子
>>〔24〕婿は見えたり見えなかつたり桔梗畑 飯島晴子
>>〔23〕白萩を押してゆく身のぬくさかな 飯島晴子
>>〔22〕露草を持つて銀行に入つてゆく 飯島晴子
>>〔21〕怒濤聞くかたはら秋の蠅叩 飯島晴子
>>〔20〕葛の花こぼれやすくて親匿され 飯島晴子
>>〔19〕瀧見人子を先だてて来りけり 飯島晴子
>>〔18〕未草ひらく跫音淡々と 飯島晴子
>>〔17〕本州の最北端の氷旗 飯島晴子
>>〔16〕細長き泉に着きぬ父と子と 飯島晴子
>>〔15〕この人のうしろおびただしき螢 飯島晴子
>>〔14〕軽き咳して夏葱の刻を過ぐ 飯島晴子
>>〔13〕螢とび疑ひぶかき親の箸 飯島晴子
>>〔12〕黒揚羽に当てられてゐる軀かな 飯島晴子
>>〔11〕叩頭すあやめあざやかなる方へ 飯島晴子
>>〔10〕家毀し瀧曼荼羅を下げておく 飯島晴子
>>〔9〕卯月野にうすき枕を並べけり 飯島晴子
>>〔8〕筍にくらき畳の敷かれあり 飯島晴子
>>〔7〕口中のくらきおもひの更衣 飯島晴子
>>〔6〕日光に底力つく桐の花 飯島晴子
>>〔5〕気を強く春の円座に坐つてゐる 飯島晴子
>>〔4〕遅れて着く花粉まみれの人喰沼 飯島晴子
>>〔3〕人とゆく野にうぐひすの貌強き 飯島晴子
>>〔2〕やつと大きい茶籠といつしよに眠らされ 飯島晴子
>>〔1〕幼子の手の腥き春の空 飯島晴子
【セクト・ポクリット管理人より読者のみなさまへ】