夏山に勅封の大扉あり
宇佐美魚目
どっしりした句である。大部分が名詞で仕立てられている点からもそう思うし、5・5・7(5・5・5・2と読む人もいるかもしれない)の句またがりで読ませた最後の「あり」が、字数合わせ的に足して流したというのではなく、まことにずっしりと「あり」という言葉の通りに「大扉」の存在を示す働きを果たしていることもそう思える一因なのかもしれない。
季語の「夏山」が半端ではない働き方をしている。「勅封」という普段見慣れない名詞も、「大扉」の「大」という形容も、上五を華奢に据えてしまったら悪目立ちしてしまうような措辞だ。だが、「夏山」という言葉によって立ち上がる空間の広がり、気温・湿度・明暗などの体感、「夏」という季節の重量感が、「勅封の大扉」の閉ざされてから永らく経てきたであろう膨大な時間、その時間によってもたらされた「大扉」な重厚な質感を、はなはだ「実景らしく」読者に飲み込ませる。季語が並々ならぬ威力を発揮している句と思う。
(安里琉太)
【『魚目句集』(2013)はこちら↓】
【執筆者プロフィール】
安里琉太(あさと・りゅうた)
1994年沖縄県生まれ。「銀化」「群青」「滸」同人。句集に『式日』(左右社・2020年)。 同書により、第44回俳人協会新人賞。
2020年10月からスタートした「ハイクノミカタ」。【シーズン1】は、月曜=日下野由季→篠崎央子(2021年7月〜)、火曜=鈴木牛後、水曜=月野ぽぽな、木曜=橋本直、金曜=阪西敦子、土曜=太田うさぎ、日曜=小津夜景さんという布陣で毎日、お届けしてきた記録がこちらです↓
【安里琉太のバックナンバー】
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【セクト・ポクリット管理人より読者のみなさまへ】