品川はみな鳥のような人たち
小野裕三
「Which station in the Yamanote line do you think I like most? (山の手線の駅の中で一番好きなのはどこだと思う?)」
日本が好きで、何回も訪れているアメリカ人の友人が、そう聞いてきた。
ぽぽな 「No idea. Which one? (わからないな。どこ?)」
友人「Shinagawa!(品川!)」
ぽぽな 「Why?(どうして?)」
友人「Because its kanji characters are cool. It has 3 squares and 3 lines in it!(だって、見た目がいいから。四角が3つと線が3本でしょ!)」
なるほど、「品」は四角が3つで、「川」は、縦棒が3本。日本語を知らない人にとっては、文字の形がまず目に止まるのだろう。覚えやすい駅だと聞いて納得。他にもそう思っている人がいるかな、とネットで検索してみると、アメリカ人同士が「3 boxes and 3 lines(箱3つと線3本)」と呼んで、待ち合わせ場所によく使うという話題を見つけた。
そんな意外な面から、外国人にも有名な品川。江戸時代に整備された、日本橋を起点に伸びる五街道(東海道、中山道、日光街道、奥州街道、甲州街道)の一つである、江戸幕府のあった江戸・日本橋から朝廷のあった京都・三条大橋まで続く東海道沿いの、53の宿場町、いわゆる東海道五十三次の一つとして栄えた。
品川、と聞くと旅の気分が立ち上がるのは宿場町としの歴史があるからだろう。
京都に向けて日本橋を出発して初めての宿場町が品川だ。日本橋からは2里(約8キロ)。交通手段の発達した現在と違い、自分の足だけが頼りの、遠い昔の旅人たちの心を思ってみる。おそらく、まずは一つめの宿場に辿り着けたことへの安堵と感謝、それと共に、心には旅への期待がみなぎっていて、体力はまだ十分あり、まだ疲れを知らぬ心と体は先に進みたくてしょうがない。ここで宿を取らずに次の川崎宿までの2里半(約10キロ)に歩を進めるかもしれない。
品川は、旅の初めの要所として、古来、そんな風のように軽やかなエネルギーを呼び込んできた場所なのではないか。SHI-NA-GA-WAと声にしても、SHIの響が風を思わせる。
旅の気分と、風のような軽やかなエネルギーを品川感というならば、それに満ち溢れる句といえば「にもつは絵馬風の品川すぎている 阿部完市」、そして掲句である。
品川はみな鳥のような人たち
「春はあけぼの。」(「枕草子」清少納言)に見られるのと同じ、省略のきいた体言止めからくる読後の余韻。「しながわは/みなとりのような/ひとたち」の五・八・四の句跨りが生む浮遊感。飛翔を想起させる〈鳥のような人たち〉。全てが品川感。
〈品川はみな鳥のような人たち〉ならば、次の宿場町の「川崎は」、その次の「神奈川は」、その次の、、、と想像してみるのも楽しい。歌川広重による浮世絵木版画の連作『東海道五拾三次』さながらに。
そういえば、無季の句である。かつて芭蕉は、去来に「発句も四季のみならず、恋、旅、離別等、無季の句もありたきものなり」(「去来抄」向井去来)と語ったというが、掲句は旅の句として軽やかにある。
筆者にとっての品川は、何といっても東海道新幹線への乗換駅。次に〈鳥のような人たち〉の一人となるのが、そう、旅人になるのが楽しみだ。
(月野ぽぽな)
【執筆者プロフィール】
月野ぽぽな(つきの・ぽぽな)
1965年長野県生まれ。1992年より米国ニューヨーク市在住。2004年金子兜太主宰「海程」入会、2008年から終刊まで同人。2018年「海原」創刊同人。「豆の木」「青い地球」「ふらっと」同人。星の島句会代表。現代俳句協会会員。2010年第28回現代俳句新人賞、2017年第63回角川俳句賞受賞。
月野ぽぽなフェイスブック:http://www.facebook.com/PoponaTsukino
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