年を以て巨人としたり歩み去る
高浜虚子
ひやー、大晦日ですよ、大晦日。
みなさん、正気、保ってますかー。私はとっくに失ってますよー。
それでも、一年は過ぎてゆきます。去年の元旦にハイクノミカタで「去年今年貫く棒の如きもの」について書いてから、もう一年。一年かあ…。2020年頭に予想した2020年末の姿は大いに裏切られたのだけれど、2021年頭において今日について予想することもなかなか困難だった。というより、一年前は予想することを放棄していたのかもしれない。一年後を予想することに、あんまり意味が感じられなかったからかもしれない。現れることに応じて持てる力を使うことしか、できなかったからかもしれない。かもしれないが続くのは、もう一年前のことなんて思い出せないからなんだけれど。
年を以て巨人としたり歩み去る
「年を以て巨人としたり」とは、一年というものが巨人と言える、巨人と捉えられる、あるいは考えられる、感じられるそんな年が、今、歩み去っていきますよ、のしのし、というところだろう。
句は大正二年十二月発行所句会にて。虚子にとっての大正二年も変動の一年だった。前年の雑詠再開から、創刊二百号を迎える『ホトトギス』で原石鼎、前田普羅を押し出したり、「守旧派」を宣言して俳壇に復帰とされたり、「春風や闘志抱きて丘に立つ」を発表したりした年。
その虚子のプレッシャーと瞬発的行動力と、私の個人的な先の見えなさと慌ただしさは、比べようもないけれども、今年の終わりには、これまでよりも、この句に寄り添えるような気がしている。
もちろん虚子の波乱や変革がこの先も続くことを私たちは知っているし、オミクロン株もその先のコロナウイルスもどうなっていくのかわからない。そうだけれど、すくなくとも正体のわからない何かよりも、「巨人」とわかったほうが、気が楽なんじゃないかとこの句は思わせてくれる。なんだ、巨人かよ、やれやれ、歩み去ってゆくよという安堵と一抹の寂しさ。
そんな特殊解釈は試験には出ませんが、でも本当にそんな気が少しするのは、ちょっとこの句に近づけたからだろう。間違っててもいい、なんかいろいろあったおかげで、すこし虚子の句が近く感じられましたよという年の終わり方は悪くない。
はー、巨人、今年もお疲れさんでした。場所によって寒波到来の正月になりそうですが、みなさま、安全な年越しを、そして、次なる巨人とのいい出会いを。
『五百句』(1937年)
(阪西敦子)
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【執筆者プロフィール】
阪西敦子(さかにし・あつこ)
1977年、逗子生まれ。84年、祖母の勧めで七歳より作句、『ホトトギス』児童・生徒の部投句、2008年より同人。1995年より俳誌『円虹』所属。日本伝統俳句協会会員。2010年第21回同新人賞受賞。アンソロジー『天の川銀河発電所』『俳コレ』入集、共著に『ホトトギスの俳人101』など。松山市俳句甲子園審査員、江東区小中学校俳句大会、『100年俳句計画』内「100年投句計画」など選者。句集『金魚』を製作中。
【セクト・ポクリット管理人より読者のみなさまへ】