絵杉戸を転び止まりの手鞠かな 山崎楽堂【季語=手鞠(新年)】


絵杉戸を転び止まりの手鞠かな

山崎楽堂(やまざき・がくどう)まさとし))


ひゃー、もう七日ですよ。

みなさん、正気、保ってますかー。私はとっくに失ってますよー。

それにしても、一度休んだあとの始動がこんなにつらいものとは。それでも今年の年末年始は日付が短くて、休みは短い方だったはずなのに。学習しない、学習しない。

と、思って、ふと違う考え方もあると気づく。今年の日取りが辛いのは、土日が三が日に重なって、三が日に付随する休みがなかったこともあるけれど、土日が三が日に重なることのもう一つの辛さは、明けた後の一週間が長いってことなんだ。たとえば、土日が休みのあとの月火水が三が日であれば、出社しても木金を働けば次の土曜なのに。

あー、年明けから四日も働いたし、(東京は)めちゃくちゃ寒かったし、気圧のせいなのかあかんべしても結膜真っ白だし、今年の巨人の様子もだいたいわかったし(前週参照)、感染者数も倍々だし…。

しかし、しかしだ、三が日が土日で良かったことのひとつは、四日間という約一週日を働いた最後の金曜日が、(関東の数え方であっても)まだ松の内だと言うこと。ワンウィークデー松の内終わりイエー!というわけで、もうだいぶウイークデーモードですが、正月の句を。

 絵杉戸を転び止まりの手鞠かな

手鞠は持っていない。けれど、割と好きだ。人の形をした古今東西の飾りものがあまり好きではなくて、人間から遠ざかれば遠ざかるほどいいので、ああいう幾何学的な飾りは眺めていられる。

山崎楽堂は明治十八年一月十九日和歌山生れ、今月誕生日があって生誕137年を迎える。〈垣にして高き薔薇や銀閣寺〉〈鯉遠き古藻に()るゝ金魚かな〉〈人の背に剥げし壁かなとろゝ汁〉など、不思議な質感というか遠近感というかを持った作品が気になっていたところ、建築学科卒とあって、なんとなく、なるほどと思われる。

句の手鞠は飾られているだけではなくて、誰かか何かの手(前足?)によって触れられ転がっている。動きのある手鞠、rollin’手鞠、正月らしい。それが転がって杉戸、杉板で作られた戸板に当たって止まったというだけ。絵杉戸の「絵」に、かすかな華やかさがあるのみ。であるけれど、それこそが正月でもなければ、目を止めない瞬間なのではないか。別の言い方をすれば、そこに目を止めることこそが、正月ではないか。なんでもないそれが、正月の特殊性ではないか。

だから、一度元の慌ただしさ、元の異常さに戻ってしまったのちに振り替えるその瞬間は、なんだかものすごくしあわせではないか。

さあ、明日から世間は三連休、わが家の周りは店屋が休みから戻ってくる週末。お使いに行こう、温かいものを作って食べよう。

『ホトトギス同人句集』(1938年)

阪西敦子


【阪西敦子のバックナンバー】

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【執筆者プロフィール】
阪西敦子(さかにし・あつこ)
1977年、逗子生まれ。84年、祖母の勧めで七歳より作句、『ホトトギス』児童・生徒の部投句、2008年より同人。1995年より俳誌『円虹』所属。日本伝統俳句協会会員。2010年第21回同新人賞受賞。アンソロジー『天の川銀河発電所』『俳コレ』入集、共著に『ホトトギスの俳人101』など。松山市俳句甲子園審査員、江東区小中学校俳句大会、『100年俳句計画』内「100年投句計画」など選者。句集『金魚』を製作中。



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