春星や言葉の棘はぬけがたし
野見山朱鳥
怪我の多い生涯を送ってきました。
これはご存じ『人間失格』(太宰治)のパロディでありおふざけですが、冗談を抜きにしても私は生まれてこのかた怪我ばかりしている気がします。脳震盪、骨折、縫うほどの怪我等、枚挙にいとまがない。痣や擦り傷はしょっちゅうです。つい先日も自宅の階段で転んで、いま右肩に大きな青痣ができています。痛いです。それもこれもすべて私が注意力散漫なせいなのですが。自損で済んでいるだけまだマシだと思うことにします。
痣や傷、骨折程度の怪我ならまだいいんです。時間とともに痛みは引いていきますし、痕も薄くなっていきます。
身体の傷以上に治りが遅いもの、程度によっては一生治らないもの、それはやはり「心の傷」でしょう。「心の傷」は目に見えないので厄介です。傷を負った原因さえ目に見えないことがあります。たとえば他人の心ない発言が棘となり、グサリと胸に刺さっていつまでも抜けない……。珍しい話ではありません。
私の胸にも、とある「言葉の棘」が刺さったままです。
ここから先はただの愚痴になりますが聞いていただけますか。(「他人の愚痴なんてわざわざ聞きたくないよ!」という方はどうか読み飛ばしてくださいませ。)
大学生のころに、とある俳句の大会の大学生部門で最優秀賞をもらったことがあります。私は俳句甲子園の出場経験がなく(※私と同世代の俳人には俳句甲子園出場経験者の方が多いので、当時強烈な「俳句甲子園未出場コンプレックス」を抱えていました。)、結社にも所属していませんでした。もちろんまったくの初心者というわけではなく、大学のゼミナール活動で週一回の句会に参加していましたが。三日坊主の私が未だに俳句を続けることができているのは、その当時の担当教授に俳句の「いろは」と「面白さ」を叩き込んでいただいたおかげです。
話が少し逸れました。とにかく、受賞がはちゃめちゃに嬉しかった、ということです。
それから数年後、私の過去の受賞を知るとある人物(以下A氏とする)が、A氏の知人に私を紹介する際、次のように言いました。
「フジモトさんは〇〇(大会名)で最優秀賞を取ったことがあるんだよ。まあ、過去の栄光だけどね……」
過去の栄光だけどね……
過去の栄光だけどね……
過去の栄光だけどね……(エコー)
えっ、ちょっと待ってくれ。最後のひと言余計じゃないか!?
もちろんこれは私の心の中の声です。そのとき私は「えへへ、どうもどうも。過去の栄光にいつまでもしがみついているド素人に毛の生えたような俳人です」という卑屈な笑顔を浮かべてその場をやり過ごしていた……かどうか、正直覚えていません。あまりにショックすぎて。
もしも私がA氏に会うたびに「私は受賞者なんだぜ、どや!」と自慢しまくっていたというならば、鬱陶しがられて嫌味たっぷりに「過去の栄光」呼ばわりされてしまうのも仕方のないことだと思います。でも、そんなことをした覚えはないんです。ええい、思い出したらまた腹が立ってきたわい。言葉の棘は抜けがたし。
「栄光」を過去にすることなく、年々更新し続けることができたらいいんでしょうけど、こればかりはなかなか……。
俳句のことが嫌いにならない程度に、マイペースに続けていくことにします。
それではまた次週、お付き合いいただけますと幸いです。
(藤本智子)
【執筆者プロフィール】
藤本智子(ふじもと・ともこ)
1990(平成 2)年広島県生まれ。「南風」会員。
第9回龍谷大学青春俳句大賞短大・大学生部門最優秀賞。
第7回・第9回石田波郷新人賞奨励賞。
2020年10月からスタートした「ハイクノミカタ」。【シーズン1】は、月曜=日下野由季→篠崎央子(2021年7月〜)、火曜=鈴木牛後、水曜=月野ぽぽな、木曜=橋本直、金曜=阪西敦子、土曜=太田うさぎ、日曜=小津夜景さんという布陣で毎日、お届けしてきた記録がこちらです↓
【2022年3月の火曜日☆松尾清隆のバックナンバー】
>>〔1〕死はいやぞ其きさらぎの二日灸 正岡子規
>>〔2〕菜の花やはつとあかるき町はつれ 正岡子規
>>〔3〕春や昔十五万石の城下哉 正岡子規
>>〔4〕蛤の吐いたやうなる港かな 正岡子規
【2022年3月の水曜日☆藤本智子のバックナンバー】
>>〔1〕蝌蚪乱れ一大交響楽おこる 野見山朱鳥
>>〔2〕廃墟春日首なきイエス胴なき使徒 野見山朱鳥
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【2022年2月の火曜日☆永山智郎のバックナンバー】
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>>〔3〕ひざにゐて猫涅槃図に間に合はず 有馬朗人
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【2022年1月の火曜日☆菅敦のバックナンバー】
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>>〔3〕鉄瓶の音こそ佳けれ雪催 潮田幸司
>>〔4〕嗚呼これは温室独特の匂ひ 田口武
【2022年1月の水曜日☆吉田林檎のバックナンバー】
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>>〔2〕嚔して酒のあらかたこぼれたる 岸本葉子
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【2021年12月の火曜日☆小滝肇のバックナンバー】
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