犬去れば次の犬来る鳥総松
大橋越央子
半分を過ぎた頃から、急に日が過ぎるのが遅くなった気がする一月、本格的な寒がやってまいりました。
とにかく、安全を第一に暮らそうとしているのですが、寒いのもだめだし、かといって乾燥するのもだめだし、気にしすぎてストレスをためてもだめだし、ゆったり過ごして寝不足になるのもだめだし、もうどうしたらいいのでしょうか、しかも、今年は占星術的には「水星逆行」に入ってしまったそうで、いろいろ盛りだくさんな金曜ですよ。
松の内の終わるころに飾りを焼くのがどんど焼きだが、飾りを取るほかに門松もはずす。その門松のあとに置くものがあることをご存じだろうか。そう、鳥総松(とぶさまつ)だ。
といっても、近年、門松は商業施設などで見ることはあっても、個人宅で見かけることは少なくなって、商業施設は終わった後の鳥総松までは付き合ってはくれない。だってもう、そこにはバレンタインデーが迫っているから。
しかし、どうだろうか。鳥総松を出している百貨店が、庭園があると聞けば、立派な門松やクリスマスツリーより、好事家の注目を浴びそうなものだ。東京メトロあたりが、沿線・鳥総松特集をやってくれないかしら。
犬去れば次の犬来る鳥総松
とは言ってみたものの、だめかもなあ。だって、犬しか来ないんだもの。
句はお馴染み『ホトトギス同人句集』より。この句集が出た時の越央子の住まいは東京市小石川区。そこそこの町並ではあろうけれど、そのころの小石川の鳥総松を訪れる犬は飼い犬だろうか。飼われていない犬が、自由意思によって来ているようなところもある。犬は鳥総松が「樵夫が大樹を切り倒した後に、山神を祭るため梢の枝を一本切り株に挿したことに由来(※きごさいより)」していることを知ってやってくるわけでもあるまい。なんとなく、自分のテリトリーに起きた変化を察知し、我が範疇に入れんとして来ているのだろう。くんくん。
この鳥総松、門松をしまってから何日置いておくものかはよくわからなかった。そんなぼやっとしたところも、松過ぎの一景らしい。あーあ、また行っちゃった。
この力の抜けたおかしさが、松過ぎの体には必要なのかもしれない。
立春(および水星逆行を抜ける)まであと2週間。蔓延防止重点措置の終わりまではさらに10日間(予定)。あまりいろいろに振り回されずに何とかやり過ごせますように。
『ホトトギス同人句集』(1938年)
(阪西敦子)
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【執筆者プロフィール】
阪西敦子(さかにし・あつこ)
1977年、逗子生まれ。84年、祖母の勧めで七歳より作句、『ホトトギス』児童・生徒の部投句、2008年より同人。1995年より俳誌『円虹』所属。日本伝統俳句協会会員。2010年第21回同新人賞受賞。アンソロジー『天の川銀河発電所』『俳コレ』入集、共著に『ホトトギスの俳人101』など。松山市俳句甲子園審査員、江東区小中学校俳句大会、『100年俳句計画』内「100年投句計画」など選者。句集『金魚』を製作中。
【セクト・ポクリット管理人より読者のみなさまへ】