青嵐神木もまた育ちゆく 遠藤由樹子【季語=青嵐(夏)】


青嵐神木もまた育ちゆく

遠藤由樹子


神木というと、屋久島の縄文杉のような巨木を思い浮かべるが、必ずしも大きな木ばかりではない。神木が老木である場合、その神木から採取した穂木を接木などで育て、それを植えて後継の神木とすることなどが行われているようだ。

掲句はかなり大きくなってはいるが、いまだ生長途上にある神木だろう。神社を囲む森の向こうからざーっと音を立てて風が吹いてくると、つぎつぎと大木の枝が揺れ、やがてまだ若い神木がひときわ大きくしなやかに揺れる。

季語「青嵐」の本意はやはり青葉を揺らす生命力であろう。大きな杉の木がゆっくりと揺れては戻る光景は、生命エネルギーをあたりに振りまいているような印象を受ける。神木ならなおさらだ。

言うまでもなく神木は人々の崇敬の対象だが、まだ若い神木はむしろ希望の象徴なのではないか。人が世代を継いで生きてゆくかぎり、神木もまたその勇姿を現しつづける。人と神木は、ただ崇敬する-されるという関係にとどまらず、ともに永遠に育つものだという認識を得て、とても豊かな気持ちになった。

「寝息と梟」(朔出版、2021年)所収。

鈴木牛後


【執筆者プロフィール】
鈴木牛後(すずき・ぎゅうご)
1961年北海道生まれ、北海道在住。「俳句集団【itak】」幹事。「藍生」「雪華」所属。第64回角川俳句賞受賞。句集『根雪と記す』(マルコボ.コム、2012年)『暖色』(マルコボ.コム、2014年)『にれかめる』(角川書店、2019年)


【鈴木牛後のバックナンバー】
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>>〔1〕立ち枯れてあれはひまはりの魂魄   照屋眞理子


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