人の日の枯枝にのるひかりかな
飯島晴子
人の気配も、獣の匂いも感じさせない。静かな自然の中での人日、という詠みぶりはよくあるものだが、この句はまず、枯枝に「のる」という措辞に、ひかりに対する極めて鋭敏な把握が感じられるところがよい。「のる」という言葉からは、一定の重量を持ちつつも、枝に負荷をかけないぎりぎりのところに留まる光の様相が見えてくる。冬の日差の柔らかくも薄い感じが見えてくるのである。そして「のる」からは、ここで描いている枝が水平に近いことまでわかる。枯枝の質感が見えてくるかと言われるとそうでもなく、どちらかといえば、光で枝の表面が白くなっている様子そのものの方がクローズアップされる感じがする。その妙な見え方によって、一句全体が気分としてニュートラルで、案外無表情な句になっているところがまた面白いのである。
(小山玄紀)
【執筆者プロフィール】
小山玄紀(こやま・げんき)
平成九年大阪生。櫂未知子・佐藤郁良に師事、「群青」同人。第六回星野立子新人賞、第六回俳句四季新人賞。句集に『ぼうぶら』。俳人協会会員
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【小山玄紀のバックナンバー】
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>>〔39〕白菜かかへみやこのなかは曇なり 飯島晴子
>>〔38〕新道をきつねの風がすすんでゐる 飯島晴子
>>〔37〕狐火にせめてををしき文字書かん 飯島晴子
>>〔36〕気が変りやすくて蕪畠にゐる 飯島晴子
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>>〔28〕ここは敢て追はざる野菊皓かりき 飯島晴子
>>〔27〕なにはともあれの末枯眺めをり 飯島晴子
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>>〔25〕けふあすは誰も死なない真葛原 飯島晴子
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>>〔23〕白萩を押してゆく身のぬくさかな 飯島晴子
>>〔22〕露草を持つて銀行に入つてゆく 飯島晴子
>>〔21〕怒濤聞くかたはら秋の蠅叩 飯島晴子
>>〔20〕葛の花こぼれやすくて親匿され 飯島晴子
>>〔19〕瀧見人子を先だてて来りけり 飯島晴子
>>〔18〕未草ひらく跫音淡々と 飯島晴子
>>〔17〕本州の最北端の氷旗 飯島晴子
>>〔16〕細長き泉に着きぬ父と子と 飯島晴子
>>〔15〕この人のうしろおびただしき螢 飯島晴子
>>〔14〕軽き咳して夏葱の刻を過ぐ 飯島晴子
>>〔13〕螢とび疑ひぶかき親の箸 飯島晴子
>>〔12〕黒揚羽に当てられてゐる軀かな 飯島晴子
>>〔11〕叩頭すあやめあざやかなる方へ 飯島晴子
>>〔10〕家毀し瀧曼荼羅を下げておく 飯島晴子
>>〔9〕卯月野にうすき枕を並べけり 飯島晴子
>>〔8〕筍にくらき畳の敷かれあり 飯島晴子
>>〔7〕口中のくらきおもひの更衣 飯島晴子
>>〔6〕日光に底力つく桐の花 飯島晴子
>>〔5〕気を強く春の円座に坐つてゐる 飯島晴子
>>〔4〕遅れて着く花粉まみれの人喰沼 飯島晴子
>>〔3〕人とゆく野にうぐひすの貌強き 飯島晴子
>>〔2〕やつと大きい茶籠といつしよに眠らされ 飯島晴子
>>〔1〕幼子の手の腥き春の空 飯島晴子
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