雲の中瀧かゞやきて音もなし 山口青邨【季語=瀧(夏)】


雲の中瀧かゞやきて音もなし

山口青邨


家電量販店をぶらついていると、テレビコーナーの大量の画面に同じ映像が流れていることがある。金子兜太の「二十のテレビにスタートダッシュの黒人ばかり」などは正しくそういう光景であろう。世界的なスポーツの大会の様子が、多分中継で流されており、その中で「黒人」がフォーカスされる。しかしなんとも象徴的というか、ともすればまなざしが欲望するものに対する風刺的な切り取り方とも感じられる。そういうまなざしが欲望するもののあり様にいささか時代がかったものを感じ、そういうことからこれらのテレビはブラウン管かもしれないと思いがうっすら湧いてくる。

一方、青邨の句は4Kテレビっぽい。というのも、今日の家電量販店のテレビコーナーには4Kテレビが並んでいて、それを売るために流される映像は、たとえば世界のどこかにある巨大な滝とかシャチがしなやかに泳ぎ去る海の世界とか鳥瞰で捉えた森林とかそんな調子の、4Kテレビの画素の細やかさや迫力をこれでもかと打ち出すようなものが多い。この句の迫力や景はそういう種類の壮大さのように思う。

実際、この句は海外での旅吟で「アルプス行き インターラーケンよりユングフラウに登る七句」という前書きがある。雲の高さから落ちる滝だから、日本の滝というよりは海外の壮大な滝という感じがする。「音もなし」は、それほどに高い滝なので地に達するまでに滝自体が霧散してしまうのだろう。シュタウプバッハの滝などを思えばいいだろうし、もしかすればそれを詠んだのかもしれない。

上五中七下五のそれぞれの入りが名詞から始まっていて、なんとも単調に響きそうな書き方ではあるが、持ってくる名詞のインパクトや下五の措辞の意外性などで最後まで力強く押し切ったような印象である。

安里琉太



【執筆者プロフィール】
安里琉太(あさと・りゅうた)
1994年沖縄県生まれ。「銀化」「群青」「」同人。句集に『式日』(左右社・2020年)。 同書により、第44回俳人協会新人賞


2020年10月からスタートした「ハイクノミカタ」。【シーズン1】は、月曜=日下野由季→篠崎央子(2021年7月〜)、火曜=鈴木牛後、水曜=月野ぽぽな、木曜=橋本直、金曜=阪西敦子、土曜=太田うさぎ、日曜=小津夜景さんという布陣で毎日、お届けしてきた記録がこちらです↓



安里琉太のバックナンバー】

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>>〔4〕ここまでは来たよとモアイ置いていく 大川博幸
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