季すぎし西瓜を音もなく食へり 能村登四郎【季語=西瓜(秋)】


(とき)すぎし西瓜を音もなく食へり

能村登四郎


夏と言えば西瓜や花火というのが、世間一般のイメージであろうが、いずれも歳時記上では秋の季語に分類される。「西瓜」が秋とされ、しかしそれが実際の季感からかけ離れているという感覚は、存外古くからの感覚のようである。

https://twitter.com/musashinohaoto/status/1556597946275495937?s=20&t=vslnVq8HOD4bkFuaAYZkEg

この句の「季すぎし西瓜」は、盆も終わってしばらく経った、九月十月の西瓜のように思う。変に採れてしまった人から譲り受けたのか、あるいはなんだか不意に食べたくなって旬を過ぎていると知りつつも買ったのか、ともかくそういう、身も赤というよりは朱色がかって汁気の引いた美味しくなさそうな、そんな西瓜を口にしている。

「音もなく」というのは、俳句に使われやすく少し便利な措辞で警戒してしまうが、この句の「季すぎし西瓜」に対しては的確な把握だと思う。水分が失せて味も半端な、それで食感も弱い、そういう「季すぎし西瓜」の特徴がよく出ている形容と思う。「季すぎ」と言いつつも季感がよく現れている。

「音もなく」をどう読むかというのは少し迷う。音を立てて齧り付くような勢いの良い旬の西瓜の食べ方と比して秋わびしく食べている、とか、それほど食べたくないものを食べている気乗りしない心持ちが出ている、とか、そういうふうに読む向きもあろうが、ひとまずは西瓜の食感の素直な形容ととった方が「季すぎし西瓜」の効きも良いし、丈が高い句になるのではないか。そういう物の手触りのあとに、どのみちそういう心持ちの想像はついてくるように思う。

安里琉太



【どーん!『能村登四郎全句集』(2010年)↓】


【執筆者プロフィール】
安里琉太(あさと・りゅうた)
1994年沖縄県生まれ。「銀化」「群青」「」同人。句集に『式日』(左右社・2020年)。 同書により、第44回俳人協会新人賞


2020年10月からスタートした「ハイクノミカタ」。【シーズン1】は、月曜=日下野由季→篠崎央子(2021年7月〜)、火曜=鈴木牛後、水曜=月野ぽぽな、木曜=橋本直、金曜=阪西敦子、土曜=太田うさぎ、日曜=小津夜景さんという布陣で毎日、お届けしてきた記録がこちらです↓



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