お障子の人見硝子や涅槃寺
河野静雲
みるみるあたたかくなるこの頃に体も頭もついていかない。
そんなときは、旅の本と着物の本と海外探偵ものに戻る。とはいっても、多少は買い物欲の出るこの時期のこと、馴染みのある世界の新たな本を買い込んで、知っている世界にどっぷり閉じこもるのが、わたしにとってのこの時期のバランスだ。
釈迦の入滅の日である「涅槃」は旧暦2月15日。新暦で2月に涅槃会を修するところも、ひと月遅れの3月15日に修するところもある。なお、2022年旧暦の2月15日は3月17日、旧暦は月によってカウントされる暦であれば、3月17日の月の出から、18日の月の出までが旧暦2月15日、つまり今日に当たる。
というわけで、掲句はこの毎週毎週開いている「ホトトギス同人句集」で最も多くの涅槃の句を残している河野静雲の句。
河野静雲は時宗の僧侶で、藤沢の遊行寺にいたときにホトトギスで俳句を始めたという。涅槃だけでなく、彼岸、花御堂、甘茶、夏書、夏行、安居、十夜など、仏教の題をとった句が多い。静雲の句にそれらの季題はしっくりと溶け込み、特に作られたという照りのようなものがない。それを暮らしとした人独特の視点なのだろう。
お障子の人見硝子や涅槃寺
実は「人見硝子」という言葉は、調べたけれどよくわからなくて、雪見障子の硝子部分のように、障子にはめ込んだ硝子のことだと解釈した。困り果てて「人見硝子」と検索すると、岡山にある硝子商店がヒットするのだけれど、静雲が岡山に住んでいたという記録は見つけられなかった。
句は内外のどちらからの視点だろうか。内側からであれば、涅槃会に集う人々の通り過ぎる姿が見え、外からであればあまり中は見えないながら、自分が位置する屋外の光の明るさと、屋内の暗い中に整えられる涅槃会の様子が対比的に捉えられる。硝子は年間を通して障子にはまっている。けれど、涅槃のこの時期の空気の中に、あるバランスを導いてくれる。
週末に本と一緒に買い込んだ苦みのある野菜類、そういえばあまりまだ食べられていない。週末は、せめて自分にできることを。
『ホトトギス同人句集』(1938年)
(阪西敦子)
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【執筆者プロフィール】
阪西敦子(さかにし・あつこ)
1977年、逗子生まれ。84年、祖母の勧めで七歳より作句、『ホトトギス』児童・生徒の部投句、2008年より同人。1995年より俳誌『円虹』所属。日本伝統俳句協会会員。2010年第21回同新人賞受賞。アンソロジー『天の川銀河発電所』『俳コレ』入集、共著に『ホトトギスの俳人101』など。松山市俳句甲子園審査員、江東区小中学校俳句大会、『100年俳句計画』内「100年投句計画」など選者。句集『金魚』を製作中。
【セクト・ポクリット管理人より読者のみなさまへ】