春雪の一日が長し夜に逢ふ 山田弘子【季語=春雪(春)】


春雪の一日が長し夜に逢ふ

山田弘子(やまだ・ひろこ)

何かの延長や、何かの数の多さを押し隠すように、今週東京には雪が降った。といって、特別なことではなくて、例年この頃、太平洋岸は急に冷え込んで、雪が降ったりする。

立春のあとに雪が降って思うのは、あれから何年たったのかなということ。山田弘子の亡くなった前後もそういう日々の中にあった。あれから十二年。

通夜の日は、霙であったか、雪であったか。祖母の葬式以来、ひさびさに踏み入れた中勝寺はぬかるんでいた。寒さと、白い息と、降るものと、いろいろで、ずっと視界の定まらない中に、いつか見たことのある弘子の娘さんの悲痛な面差しが見える。『円虹』継承を言ったのは、この日だっただろうか、翌日のことだったろうか。

春雪の一日が長し夜に逢ふ

昭和五十八年(1983年)、弘子四十八歳の句。「逢」という漢字も、感じも、あまり得意ではない分を差引いても(「この出逢ひこそクリスマスプレゼント」しかり、相当こじらせている)、やはり好きな一句。春雪を正面から捉えながら、現実に飛躍したのちの動作がさらに春雪を色濃く縁取る。

果たして雪の日は、だいたいにおいて永いものかもしれないけれど、冬の雪は春への歩み、冬を使い切るための雪。春の雪はその差し戻る感じを含めて、きっとさらに永いのだろう。そして、冬の雪の後には、人に会う予定もあるまい。

夜に会う予定があってこその春の雪の一日の永さ。あの春の一日は永くてものすごく辛かったけれど、思い返せば思いもよらないことが、そこでは始まっていたのかもしれない。

跡形もなきとは春の雪のこと

同じく三年後、昭和六十一年(1986年)の山田弘子の句。あの日も、あの日々も、跡形もないのだけれど、それでも確実に降ったものはあったのだと今では思える。

春雪の日の翌日、磨かれた春の空に。よい三連休になりますように。

『螢川』(1984年)、『こぶし坂』(1990年)

阪西敦子


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【執筆者プロフィール】
阪西敦子(さかにし・あつこ)
1977年、逗子生まれ。84年、祖母の勧めで七歳より作句、『ホトトギス』児童・生徒の部投句、2008年より同人。1995年より俳誌『円虹』所属。日本伝統俳句協会会員。2010年第21回同新人賞受賞。アンソロジー『天の川銀河発電所』『俳コレ』入集、共著に『ホトトギスの俳人101』など。松山市俳句甲子園審査員、江東区小中学校俳句大会、『100年俳句計画』内「100年投句計画」など選者。句集『金魚』を製作中。



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