雲の峰ぬつと東京駅の上　鈴木花蓑【季語＝雲の峰（夏）】

2022.06.28
ハイクノミカタマンスリーゲスト

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雲の峰ぬつと東京駅の上)

鈴木花蓑
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「ホトトギス」昭和5年10月号より。

　鈴木花蓑は、「ホトトギス」の4Ｓ時代の前の時代、大正10年代に「西の泊雲」「東の花蓑」と並び称され、村上鬼城や杉田久女、日野草城、鈴鹿野風呂らと「ホトトギス」の巻頭争いを繰り広げていた。花蓑は愛知県半田市の出身で、俳句と出会ったのちに名古屋の裁判所に務めに出て、その後東京に転勤した。この句が詠まれた昭和5年は花蓑49歳、「ホトトギス」の同人に推挙され、半田の俳誌「アラミ」の選者となるなど各地の句会へ趣き、指導を行っていた。

　東京駅から「ホトトギス」発行所のある丸ビルまでの間の道のりの光景であろう。東京駅を出て振り返ったのか、東京駅へ向かっている際に仰いだのか、何れにせよ東京駅の上に、幾層にもなる入道雲が湧き起こっていた。それを「ぬつと」と直感的に捉えた。

　現在の丸の内でも見られる光景であるが、昭和５年であれば丸の内、大手町界隈に高いビルは少なく、相対的に東京駅が荘厳であったであろうし。東京駅から皇居までの行幸通りも広々としていたであろう。また、東京湾からの風も感じられたのではないか。

　花蓑は「団栗の葎に落ちてくゞる音」「紫陽花のあさぎのままの月夜かな」と言った、対象を時間をかけて見る俳句が有名だが、掲句は忙しく慌ただしく行き交う暮しの中で一瞬浮んだ詩情を瞬間的に切り取ったものであろう。

　「仕事」「家庭」と「俳句」にそれぞれ言訳しながら日々の生活を送っている身としても、掲句のように日常から一瞬湧き起こった詩情をものにしていくことを忘れないようにしていきたいと思う。

（杉原祐之）

【執筆者プロフィール】
杉原祐之（すぎはら・ゆうし）
1979年東京生まれ、東京・国分寺市在住。「慶大俳句」を経て、2001年「惜春」「山茶花」に入会、「惜春」を退会し、「夏潮」に参加。2021年「夏潮」にて「黒潮賞」を受賞。現在は、「山茶花」同人、「夏潮」運営委員。俳人協会会員。句集に『先つぽへ』（2010年）、『十一月の橋』（2022年）。

【杉原祐之さんの自選10句】

水鉄砲撃つて喜び撃たれて喜び

海女小屋の電気メーター回りをり

叱られに会社へ戻る秋の暮

去年今年なくレーダの回るかな

風鈴や妻の名をさん付けで呼ぶ

装甲車洗ふも御用納かな

グッナイと霧の中へと消えてゆく

辞めさうな後輩とゆく年忘れ

水のなき十一月の橋渡る

部下のみな在宅勤務四月馬鹿

【杉原祐之さんの最新句集『十一月の橋』はこちら↓】