さわやかにおのが濁りをぬけし鯉
皆吉爽雨
週末に体調を崩した。リハビリ代わりに散歩したいところだがまだ暑くて体力的にも無理がかかりそう。そこで懸案の部屋掃除に着手した。不要な書類がどっさりでてきた。いつもこの整理法ではいけないと改善を試みるのだが根本的な解決には至らず。とはいえ、ゴミにしかならないプリントも大歳時記もペン一本もすべて自分が持ち込んできたものだ。贈り物だとしても、それを部屋に置くと決めたのは自分。部屋の乱れは心の乱れだ。最近陥りがちだったネガティブ思考はこの部屋が呼び寄せていたのだよ、とこの名言を残した人に言われそうなところである。
そしてそれらを処分した時の解放感に今浸っているところなのだ!日々片付けていくのが理想だがまとめて作業したらそれはそれですっきり感が大きい。テトリスのI型のピース(I‐テトリミノというらしい)で4列消しを決めたかのようだ。わが家の残りのテトリス、年内に完勝するぞ!
さわやかにおのが濁りをぬけし鯉
季語は「さわやか(爽やか)」だが、この句からは「秋水」「水澄めり」も見えてくる。透明な水の底を泳ぐ鯉。底に触れた瞬間に砂が巻き上がり、水が濁る。そこをさらに泳いで抜け出る瞬間にさわやかさを感じたのだ。「さわやかに」は「ぬけし」にかかっており、すっと泳ぎ抜ける姿が呼び起こす爽快感を描いている。
俳句は切れが大事と「さわやかや」にしてしまうと、泳ぎ終わった鯉がさわやかということになり、動きがなくなる。鯉の泳ぎへの感動を表現するには「に」で鯉の動きに視線を集めたい。この句では「に」が鯉の姿を生き生きと立ち上がらせているのだ。
さてこの手の句に出会ったら今週も仮名遣いの話をせずにはいられない。漢字を使っているのは「濁」と「鯉」の2文字のみ。さわやかなひらがなの世界の中で濁っているのは「濁」の漢字のみだ。「鯉」は主体なので特性が違う。「鯉」の模様の衣装(水着)を着て、「濁」という濁った箇所をすっと抜けてきたところというわけだ。ひらがな表記が生み出す余白もさわやか。
音読してみると上五と下五はSやKの音が風を呼び、中七の真ん中あたりに「が」「ご」と濁音が集中している。通しで読んでみると音も濁りを抜けているのだ。さわやかだ。
自分で濁らせたところを抜けてさわやかというのが心地良い。最近身辺が濁ってるなあ、抜けたいなあと思ったら少しずつペースアップするのもいいけど一気に駆け出してみた方がきっとさわやかなのである。
『皆吉爽雨句集』(1968年刊/角川書店)「緑蔭抄」昭和十九年より。
(吉田林檎)
【執筆者プロフィール】
吉田林檎(よしだ・りんご)
昭和46年(1971)東京生まれ。平成20年(2008)に西村和子指導の「パラソル句会」に参加して俳句をはじめる。平成22年(2010)「知音」入会。平成25年(2013)「知音」同人、平成27年(2015)第3回星野立子賞新人賞受賞、平成28年(2016)第5回青炎賞(「知音」新人賞)を受賞。俳人協会会員。句集に『スカラ座』(ふらんす堂、2019年)。
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【セクト・ポクリット管理人より読者のみなさまへ】