鶯や米原の町濡れやすく加藤喜代子【季語＝鶯（春）】

鶯や米原の町濡れやすく)

加藤喜代子
（「霜天」）
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米原は主要な道が交差する交通の要である。だから何度か駅には降りたはずであるし、もちろん名前もよく知っている。しかし町のことと言えば記憶には残ってはおらず、さてどんな町なのだろうと掲句を読んで思った。

調べてみると観光としては伊吹山や醒井宿がある。そう言えば醒井宿には行ったことがある。水のきれいな梅花藻の有名なところで、確か駅から宿場町が続き、いい町であったと記憶している。作者は米原のどんなところを散策したのだろうか。実はこの作者は、私がつくばに越してから十年余り句会を共にした人で、私の憧れの俳人であった。波多野爽波に学び、田中裕明氏に師事していた作者。田中裕明氏に会うために作者は鎌倉から毎月京都へ通ったという。そんな折に米原へも立ち寄ったのだろうか。

鶯の声が響く中、米原の町は静かに旅人を受け容れ、変わらぬ佇まいを見せてくれる。俳句に地名を詠みこむのは、なかなか難しいが、この「米原」は響きのせいもあるのだろうか、不思議としっとりとした余韻を残す。伊吹山からの豊かな水が流れるこの一帯は、正に「濡れやすく」と表現されるにふさわしい。

残念ながら、作者はこの三月に天寿を全うされた。それでも残された作品は瑞々しく、いつまでも褪せることはないだろう。

（大西朋）

【執筆者プロフィール】
大西朋（おおにし・とも）
1972年大阪府生まれ。つくば市在住。2005年朝日カルチャーセンター名古屋教室にて、宇佐美魚目に師事。2006年「晨」入会。2010年「鷹」入会、小川軽舟に師事。2016年、第４回星野立子新人賞受賞。2017年、第一句集『片白草』上梓。2018年同句集で第41回俳人協会新人賞受賞。東京四季出版「俳句四季」にて「俳句へのまなざし」を連載中。「鷹」同人、「晨」同人、俳人協会幹事。

【大西朋の自選10句】

身仕度のものの五分や桃の花
暁の枕つめたし雉子鳴く
江ノ電のワイパー小さし卯波見ゆ
片白草魚に声のなかりけり
かはほりのきゆつと縮みし眼かな
爛壊なき虫の骸や桐一葉
子守唄うたふにも似て林檎剝く
風邪はやりはじめの町のぬるき風
生きてゐるうちもつめたき海鼠かな
閉ぢ込めておけぬ智恵子よ冬の蝶

2020年10月からスタートした「ハイクノミカタ」。【シーズン1】は、月曜＝日下野由季→篠崎央子（2021年7月〜）、火曜＝鈴木牛後、水曜＝月野ぽぽな、木曜＝橋本直、金曜＝阪西敦子、土曜＝太田うさぎ、日曜＝小津夜景さんという布陣で毎日、お届けしてきた記録がこちらです↓