氷上と氷中同じ木のたましひ
板倉ケンタ
私の父は繊維会社に勤めながら、プライベートでアマチュアバンドを組みブルースギターを弾いている。四六時中家でブルースやソウルなどのブラック・ミュージックのレコードをかけ、それに合わせてギターを弾いている父に、幼い頃から影響を受けてきた。園児の頃のお気に入りのカセットテープは、ドラゴンボールとレイ・チャールズ。大好きなアニメと並べる程までにブラック・ミュージックを身近に感じていた。小学生の頃にギターを始め、中学生になると父のブルースバンドにベーシストとして参加し、毎晩のように一緒にステージに上がるなど、父からの影響は大きかった。父の聴いていたブルースマンは数え切れないが、中でも特に好きなミュージシャンがいる。アルバート・コリンズもその一人であり、ブルース界ではどちらかというと有名なBBキングなどよりも好んで聴いて憧れていた。
ここからは、可能であればyoutubeを再生し、実際の音を聞きながら読み進めて欲しい。
聴いていただくとわかる通り、アルバート・コリンズといえば、まずその特徴的な音色にオリジナリティがある。ピックと呼ばれる爪のようなものを使わず、自らの指で引っ掛けるように弦を弾くのだが、ピックを使用するよりもむしろ音色が硬く、アイスピッキングとも呼ばれる。つまり氷のように硬い音を弾くギタリストなのだ。BBキング等と聴き比べると明らかに音が凍っているように感じられるのがわかるだろう。
試しに同じ形のギターを指で弾いてみたが、全く似た音色にはならなかった。指で弾くとピックで弾くよりもむしろ音色が柔らかくなってしまうのである。アルバート・コリンズに憧れるギター弾きは一定数いるが、なかなかこの音色を完全に再現出来る人はいないようだ。つまり、この音色を聴けばアルバート・コリンズだとすぐ認識出来るわけである。一音だけで自己を認識させるミュージシャンは稀有だといえるだろう。また、曲名も「coldcoldfeeling」「frosty」「iceman」「icepickin’」等氷をイメージさせる物が多く、バンド名も「icebreakers」と氷のイメージを前面的に押し出している。ブルース界で氷と聞けば、即アルバート・コリンズの音が脳内で再生されるのだ。
そして、通常スローなテンポのバラードでは「泣きのギター」などと表現されるギターソロを弾くギタリストが多いのだが彼は違う。スローでもテンションが高く楽しそうに聴こえる。聴衆を楽しませようという気持ちがたった一本のギターから伝わってくる。
アルバート・コリンズが来日した際に、父はコンサートを観に行ったそうである。信じられない程長いギターケーブルを引き摺って客席を練り歩きながらプレイしていたという。まさにエンターティナーだ。しかし、1993年11月24日アルバート・コリンズは帰らぬ人となった。バックステージでエンターティナーがどのような素顔を見せていたのかはわからない。今はただ残された映像と音源から元気を貰っている。
「俳句」11月号 角川俳句賞候補作品「彼岸の雲」より
(赤松佑紀)
【執筆者プロフィール】
赤松佑紀(あかまつ・ゆうき)
昭和59年福井県生まれ、広島県在住。音響専門学校在学中にCDデビュー。現在はWEBデザイン会社専務取締役。「香雨」同人。俳人協会会員。
平成25年「狩」入会。平成31年「香雨」入会。令和2年同人。第一回「香雨」評論賞エッセイ部門受賞。令和3年第三回「香雨」新雨賞受賞。令和4年第十回俳句四季新人賞受賞。第三回「香雨」評論賞評論部門受賞。
2020年10月からスタートした「ハイクノミカタ」。【シーズン1】は、月曜=日下野由季→篠崎央子(2021年7月〜)、火曜=鈴木牛後、水曜=月野ぽぽな、木曜=橋本直、金曜=阪西敦子、土曜=太田うさぎ、日曜=小津夜景さんという布陣で毎日、お届けしてきた記録がこちらです↓
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【セクト・ポクリット管理人より読者のみなさまへ】