杜甫にして余寒の詩句ありなつかしき
森澄雄
(『季題別森澄雄全句集』)
森澄雄の余寒を詠んだ句には「かんばせに余寒のありて雛かな」(『天日』)という森澄雄らしい(と筆者が感じる)句もあるのだが、こちらの句の主たる季感は雛にあるだろう。掲句の方は、あっさりとした懐旧の句。「にして」という言い方からすると、杜甫に「余寒の詩句」があることを見出し、かつて読んだ杜甫の作品(とそのころのこと)を懐かしんでいる、という風情であろうか。
杜甫の余寒を詠んだ詩をWebで検索して見ると、「題張氏隠居」という詩にあたった。おそらく、これのことだろう。してみると、澄雄には、張氏のごとく世を離れて暮らす無欲な友でもいたのだろうか、などと想像するとちょっとたのしい。
季語「余寒」については、角川『図説大歳時記』も、『俳句大歳時記』も、解説では国内の古典をあげるのみであるが、講談社『カラー図説日本大歳時記』に、この杜甫の詩の一節「間道余寒歴氷雪」をあげ(題の記述なし。解説は山本建吉)、その他作例があるという。そこであらためてWeb検索してみて、あたったのは清の詩人と伊達政宗くらいであったが、きちんと調べれば他にもでてくるのだろう。
さて、掲句は森澄雄生前最後の句集『深泉』所収句。引用元の季題別全句集は、調べものにはとても便利なのだが、「余寒」の隣の「春寒」に「春寒は蘇東坡にもありなつかしき」(『花間』)があるのが目にとまってしまって、おやおや、となってしまった。
(橋本直)
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【執筆者プロフィール】
橋本直(はしもと・すなお)
1967年愛媛県生。「豈」同人。現代俳句協会会員。現在、「楓」(邑久光明園)俳句欄選者。神奈川大学高校生俳句大賞予選選者。合同句集『水の星』(2011年)、『鬼』(2016年)いずれも私家版。第一句集『符籙』(左右社、2020年)。共著『諸注評釈 新芭蕉俳句大成』(明治書院、2014年)、『新興俳句アンソロジー 何が新しかったのか』(ふらんす堂、2018年)他。
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