肩へはねて襟巻の端日に長し 原石鼎【季語=襟巻(冬)】


肩へはねて襟巻の端日に長し

原石鼎


先日始まったテレビドラマ「ミステリと言う勿れ」が面白い。人を喰ったタイトルだけれど第一話を見た限りでは堂々たるミステリーで、お定まりの犯人当てからの一捻りがあるストーリーも苦味が効いていてこれからが楽しみだ。原作の漫画をポチるべきかドラマに集中するべきか、を悩む日々なのであります。

でもって、襟巻。菅田将暉演じる主人公の大学生が、殺人事件の容疑者として連日警察署に呼ばれて取り調べを受けるのだが、毎回毎回異なるマフラーを巻いて現れる。しかも巻き方も凝っていて、滅茶滅茶可愛い。真似をしたくなったのは私だけではない筈。

マフラーやストールの巻き方は近年どんどん凝ってきて、ミラノ巻、ニューヨーク巻、アフガン巻あたりはまだしも、ポット巻だ、ウィンディ巻だ、クロス結びだ、と覚えきれない。巻き方を動画で学ぼうとすると、それぞれの巻き方に向く素材だの、巻くときにちょっと襞を寄せてこなれ感を出しましょうだの、ぶきっちょな私にはもうお手上げ。菅田将暉くんの真似をしようなんて土台高望みであったか、と溜息と共に動画を閉じるのであった。

 肩へはねて襟巻の端日に長し

これは肩に半周巻いただけのあっさりとしたもの。先日、濃紺のスカートに同色のチェックのマフラーをこの巻き方をして颯爽と街を行く女性を見かけた。垢抜けた人はシンプルな装いでも十分目立つのだ。石鼎が書き留めた人物も、恐らく女性と思うが、そのような姿だったのだろう。去り際にぱっと肩にかけたマフラーに日が当たる。それは一つの決意を固めた後ろ姿だったのかもしれない。

『現代日本文學大系95 現代句集』筑摩書房より)

太田うさぎ


【執筆者プロフィール】
太田うさぎ(おおた・うさぎ)
1963年東京生まれ。現在「なんぢや」「豆の木」同人、「街」会員。共著『俳コレ』。2020年、句集『また明日』


【太田うさぎのバックナンバー】

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>>〔51〕少女期は何かたべ萩を素通りに    富安風生
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>>〔30〕江の島の賑やかな日の仔猫かな   遠藤由樹子
>>〔29〕竹秋や男と女畳拭く         飯島晴子
>>〔28〕鶯や製茶会社のホツチキス      渡邊白泉
>>〔27〕春林をわれ落涙のごとく出る     阿部青鞋
>>〔26〕春は曙そろそろ帰つてくれないか   櫂未知子
>>〔25〕漕いで漕いで郵便配達夫は蝶に    関根誠子
>>〔24〕飯蛸に昼の花火がぽんぽんと     大野朱香
>>〔23〕復興の遅れの更地春疾風       菊田島椿
>>〔22〕花ミモザ帽子を買ふと言ひ出しぬ  星野麥丘人
>>〔21〕あしかびの沖に御堂の潤み立つ   しなだしん

>>〔20〕二ン月や鼻より口に音抜けて     桑原三郎
>>〔19〕パンクスに両親のゐる春炬燵    五十嵐筝曲
>>〔18〕温室の空がきれいに区切らるる    飯田 晴
>>〔17〕枯野から信長の弾くピアノかな    手嶋崖元
>>〔16〕宝くじ熊が二階に来る確率      岡野泰輔
>>〔15〕悲しみもありて松過ぎゆくままに   星野立子
>>〔14〕初春の船に届ける祝酒        中西夕紀
>>〔13〕霜柱ひとはぎくしやくしたるもの  山田真砂年
>>〔12〕着ぶくれて田へ行くだけの橋見ゆる  吉田穂津
>>〔11〕蓮ほどの枯れぶりなくて男われ   能村登四郎
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>>〔9〕暖房や絵本の熊は家に住み       川島葵 
>>〔8〕冬の鷺一歩の水輪つくりけり     好井由江
>>〔7〕どんぶりに顔を埋めて暮早し     飯田冬眞
>>〔6〕革靴の光の揃ふ今朝の冬      津川絵里子
>>〔5〕新蕎麦や狐狗狸さんを招きては    藤原月彦
>>〔4〕女房の化粧の音に秋澄めり      戸松九里
>>〔3〕ワイシャツに付けり蝗の分泌液    茨木和生
>>〔2〕秋蝶の転校生のやうに来し      大牧 広
>>〔1〕長き夜の四人が実にいい手つき    佐山哲郎


【セクト・ポクリット管理人より読者のみなさまへ】

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