輝きてビラ秋空にまだ高し　西澤春雪【季語＝秋空（秋）】

2022.10.11
ハイクノミカタマンスリーゲスト

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輝きてビラ秋空にまだ高し)

西澤春雪

松本で開催されるイベントで最も知られているのはセイジ・オザワ松本フェスティバル、旧称サイトウ・キネンフェスティバルだろう。こちらへ来るまでは私の知識はそんな程度だった。が、いざ住んでみると、大小のイベントがちょこまかと週末ごとに行われているのだ。それらは年に一度の大きな音楽祭のように県外からの観光客を視野に入れたものではなくて、地元のための催事のようだ。先月は松本城内の公園でクラフトビールフェスティバルがあった。勇んで出かけたところ、連休でもあり押すな押すなの賑わいで早々に退散し、よそで飲み直して飲み過ぎる、という地元経済への貢献をしたばかりだ。その他にもストリート・パフォーマンスも結構やっているようで、散歩に出たら広場でお兄さんが梯子を高く積み上げた天辺で懸垂をして喝采を浴びている場面に出くわすこともある。今月は今日まで演劇フェスティバルが開催されていて、見たい芝居もあったのにうかうかしているうちにチケットを買いそびれてしまった。先ほど買物に出たらその見たかった芝居のチラシが舗道に落ちていた。今日の松本は昼過ぎから晴れたのだが、一日風が強かった。あのチラシもどこかの店先か誰かの手からいったんは天高く舞い上がったのだろうか。掲句を読みながらそんなことを思った。

先週に続き『信濃句集』より引いた。今回は復刊第5号1978年刊。巻末の名簿によると作者西澤春雪は上田在、「七曜」所属とある。掲句の前後の「稲を刈る退職教師鎌切れず」、「蝗追ふ児の背に蝗止まりおり（旧かな新かなの混在は原文まま）」から推測するにこの句も町ではなく里の景色を思い描くのが相応しいのだろう。遮るもののない澄んだ空に吹き上げられたビラはその薄っぺらさ故に落ちる気配もなく、秋日を受けて燦然と輝いている。農具の展示即売会だったり秋祭の案内だったりするようなビラを眩しむつつ応援したくなってくるから不思議。

ところで、1978年というのはフォーリーブスとキャンディーズが解散し、サザンオールスターズとYMOがデビューした年なのですね。サンシャイン60が開館し、ヤクルトが初優勝したのもこの年。本句集刊行委員会代表の宮坂静生率いる「岳」が発足したのも1978年なのでありました。特に何のオチもありませんけれど。

（『信濃句集　復刊第5号』長野県俳人協会発行　1978年）

（太田うさぎ）

【執筆者プロフィール】
太田うさぎ（おおた・うさぎ）
1963年東京生まれ。現在「なんぢや」「豆の木」同人、「街」会員。共著『俳コレ』。2020年、句集『また明日』。

2020年10月からスタートした「ハイクノミカタ」。【シーズン1】は、月曜＝日下野由季→篠崎央子（2021年7月〜）、火曜＝鈴木牛後、水曜＝月野ぽぽな、木曜＝橋本直、金曜＝阪西敦子、土曜＝太田うさぎ、日曜＝小津夜景さんという布陣で毎日、お届けしてきた記録がこちらです↓