枯野ゆく最も遠き灯に魅かれ　鷹羽狩行【季語＝枯野（冬）】

2022.12.06
ハイクノミカタマンスリーゲスト

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枯野ゆく最も遠き灯に魅かれ)

鷹羽狩行

保育所の頃に母の故郷福井県から広島県に引っ越して以降は、夏休みなどの長期休暇は必ず福井県で過ごすことにしていた。おそらくそれは子どもながらに頑固者であった筆者の要望によるものであったのであろう。

小学校の頃に福井県の祖母の家で長期休暇中のことである。引っ越して既に数年が経っていたので、近所で遊べる友達は３人ほどであった。そのほんの僅かな友人が外出などしていると遊び相手がおらずとにかく退屈した。グズグズとはぶてて両親や祖父母を困らせていた日のことである。

グズりの止まない頑固者を見かねた母が突然ある提案をした。「山田かまち展覧会に行ってみよう」それまで美術館などに親しみがあったわけではない。母からの提案に急速に涙が乾いていった。「山田かまち」も「展覧会」も正体不明のまますぐに出掛けることとなった。

山田かまちは、昭和35年に生まれ、17歳でエレキギターによる感電死で短い生涯を終える。その間にいくつもの詩と絵画を残した。殴り書きでむき出しの言葉や、色彩豊かな絵の数々。その時の衝撃は今でも忘れることが出来ない。生まれてはじめて「言葉」に感動し、心を掴まれたのだから。

特に衝撃を受けたのは、「感動しろ　感動しろ！　感動しろ　感動しろ！」などの激しい言葉と絵が混じったような作品であった。それらの作品の前に立つと全身に電撃が流れ身体を掴まれたまま身動きが出来ないようになってしまった。そしてここでも頑固者が本領発揮する。「これメモに書いて！家に帰っても読みたい！」腱鞘炎の母が泣きながら小さなメモ帳に手書きすることを気の毒がりながらも「これも書いて！これも！こっちも！」と、ほぼ全ての詩をメモに取らせた。今思えば拷問である。しかし拷問も永遠ではない。順路の出口にやっとさしかかったその時。出口の販売コーナーに、あろうことか山田かまちの詩集が売っていた。しかしここで詩集を買ってしまっては、母の涙が無駄になる。勿論…買ってもらった。母もヤケクソになっていたことだろう。

詩集を買ったので、母が手書きで書いてくれたメモ帳は必要なくなってしまった、かに思えたが、そのメモ帳は存分に活用した。帰りの車の中で狂ったように言葉を書きなぐりはじめたからだ。完全なる山田かまちの真似である。しかしこの真似がその後大人になっても続いた。詩とは程遠いものである。人に見せるつもりもなかった。とにかくひたすらに白紙を埋めるように落書きを続けた。
山田かまちからの影響は相当のものであった。てっきり自分も同じ年齢で死ぬのではないかと信じていたほどである。

最近になってふと山田かまちを思い出したのだが、無意識の内に目頭が熱くなった。インターネットで画像検索しながら思い出していると、ふと頭に音楽が流れてきた。クレズマーというジャンルの音楽だ。

勿論人によって聴こえ方はそれぞれであるが、筆者には爆発的な狂気のようなものを感じる。楽しそうでもあるし悲しみの旋律にも聞こえる。しかし、アップテンポで複数の楽器が同じ旋律を狂いなく演奏する時などは、プログレッシブロックバンド「イエス」の「燃える朝焼け」などを彷彿させる。

クレズマーの中で特別好きなアーティストやお気に入りの楽曲があるわけではない。クレズマーであれば何でもいいから聴いていたい。そんな日がたまにある。

最後に季節外れの夏の句を引くことをお許しいただきたい。

山百合の白の鮮烈爆破点　鷹羽狩行

（赤松佑紀）

【執筆者プロフィール】
赤松佑紀（あかまつ・ゆうき）
昭和59年福井県生まれ、広島県在住。音響専門学校在学中にCDデビュー。現在はＷＥＢデザイン会社専務取締役。「香雨」同人。俳人協会会員。
平成25年「狩」入会。平成31年「香雨」入会。令和2年同人。第一回「香雨」評論賞エッセイ部門受賞。令和3年第三回「香雨」新雨賞受賞。令和4年第十回俳句四季新人賞受賞。第三回「香雨」評論賞評論部門受賞。

2020年10月からスタートした「ハイクノミカタ」。【シーズン1】は、月曜＝日下野由季→篠崎央子（2021年7月〜）、火曜＝鈴木牛後、水曜＝月野ぽぽな、木曜＝橋本直、金曜＝阪西敦子、土曜＝太田うさぎ、日曜＝小津夜景さんという布陣で毎日、お届けしてきた記録がこちらです↓