血を分けし者の寝息と梟と　遠藤由樹子【季語＝梟（冬）】　

2023.01.25
ハイクノミカタマンスリーゲスト

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血を分けし者の寝息と梟と)

遠藤由樹子

残念ながら、いまだ野生のフクロウを見たことも、鳴き声を聞いたこともない。野鳥観察をしているといっても、基本的に自転車で行ける範囲なので、せいぜい家から十数キロの平地。見られる鳥の種類は限られる。

しかし、季節を問わず、繰り返し同じ場所に通っていると、ときおり思いもかけない鳥に出会うこともあり、そういう時の嬉しさ、気分の高揚は、大人になってからはめったに経験しない類のものだ。だからまた、週末になると似たような場所へ、いそいそと鳥を探しに行く。

フクロウの仲間で筆者が見たことがある野鳥は、アオバズクのみ。これは偶然の出会いではなく、毎年、アオバズクが営巣に来る樹を知っているためだ。その時期に、その場所に行けばたいてい見ることができる。運が良ければ巣立ち直後の雛も。

その樹がどこにあるか、ネットなどにはっきりとした情報が出ているわけではないが、地域で野鳥を見ている人は、ほぼ全員、口コミで知っている。バーダーの情報網は怖ろしい。入れ替わり立ち代わり人間が現れ、アオバズクにとっては迷惑な話だと思う。一瞬も気の休まる暇がないだろうが、雛がある程度成長するまではその樹を離れられないのだから仕方がない。野生の生き物にとって、子育ては常に自分の命を危険にさらしながらの難事業だということが感じられる。

掲句は『寝息と梟』（朔出版、2021）所収。句集の表題句となっている。

「血を分けし者」は、辞書的な意味で言うと血縁者で、必ずしも親子とは限らないが、この句の場合は、母親が子供の寝息を聞いていると読むのが自然だろう。その景を想像すると、「慈しみ」「母性」というようなキーワードが浮かんでくる。けれども、そこに梟が配されることにより、句の手触りがすこし変わってくる。梟に含まれる様々なイメージから、健やかに眠る子供を見守る母性の温かさだけではなく、「血を分ける」ということの神秘性、そして生物としての生々しさが際立って感じられるようになっている。

（岡田由季）

【執筆者プロフィール】
岡田由季（おかだ・ゆき）
1966年生まれ。「炎環」同人。「豆の木」「ユプシロン」参加。句集『犬の眉』（2014年・現代俳句協会）。第67回角川俳句賞。ブログ　「道草俳句日記」

【岡田由季さんの自選10句！】

間取図のコピーのコピー小鳥来る

鵙の来るまでは庭木のぼんやりす

鴨を見る傘に十六本の骨

鵯鳴くやもうすぐ絵本ばらばらに

自転車の行きも帰りも鳧の鳴く

椋鳥をばらまいてゆく風一陣

市役所に掛かる垂れ幕鴨来たる

水鳥に会ふときいつも同じ靴

翡翠の声と色とが別々に