初燈明背にあかつきの雪の音髙橋千草【季語＝初燈明（新年）】　

2023.01.10
ハイクノミカタマンスリーゲスト

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初燈(とう)明(みょう)背にあかつきの雪の音)

髙橋千草(ちぐさ)
（北海道俳句年鑑2022より）

　今回は雪について書いてゆく。

　掲句は、北海道の結社「壺」主宰の髙橋千草氏の句。燈明のやさしい光と雪の美しさが丁寧に描かれている。新年の朝の落ち着いたよろしさがあるように思う。雪の音という把握は雪国、殊に北海道に住む人間ならではの把握ではないか。

　北海道人にとって、「雪」は特別な季語ではないだろうか。北海道の冬は非常に長く、ほとんどの時間が雪によって覆われている。12月ともなれば、雪が積もり続けてとけなくなった状態、「根雪」に突入する。長いときはGWまで雪が残っている。私は、2019年に北海道の旭川市へやってきたのだが、11月に初雪が降ったことが衝撃的で、今でも忘れない。ただ、4年も生活をしていると雪にも慣れてしまい、感動はおろか、鬱陶しささえ感じてしまう。北海道俳句年鑑を読んでいる中でも、雪の句が多く読まれている。「雪と一緒に暮らす」、そのくらい、道民にとっては身近な存在である。

　しかし、北海道に来てから、雪について納得がいかないことがいくつかある。

　1つ目は、雪かきの時間である。こんなに無駄な時間はない。

　11月末から3月末ごろまで、ほぼ毎日雪が降る。そのたびに、雪かきや雪下ろしをしなければいけない。雪かきに費やす平均時間を調べてみたところ、30分前後が約40％、1時間前後が25％というデータを見つけた。私は、「この30分の積み重ねで、人生どのくらいの時間を無駄にするのだろう」と考えてしまう。北海道の5か月間の冬の中で、少なくとも60日間は雪かきをするとして、毎年30時間ほどの時間を道民は失っているのである。東京にいれば、こんなことはあるまい。私なら、この30時間を睡眠へ回したい。

　2つ目は、大雪警報の基準の違いだ。北海道はとてつもなくゆるい。

　近頃、大雪警報が発令とのニュースをよく耳にする。先日、山形で発令されていたが、山形市では「12時間の降雪の深さ30㎝以上」が発令基準のようだ。ちなみに東京では、「12時間の降雪の深さ10㎝以上」だ。この大雪警報の基準は、各地ごとに規定されているそう。ちなみに、北海道旭川市では「12時間の降雪の深さ40㎝以上」、札幌市は「6時間の降雪の深さ30㎝以上」なのである。山形も雪国だと思うが、なぜ北海道はこんなにもゆるいのか。雪のスペシャリストばかりが住んでいるとでも思っているのか…。もちろん、北海道では、どれだけ雪が降ろうと、仕事が休みになることはない。（※個人的経験と見解）

　このように、北海道の冬は、損ばかりしているように感じる。雪が少ないと喜んでしまう私がいて、道民の心になりつつあるなと実感している。

　雪の悪口を沢山書いてきたが、悪いことばかりではない。先日、ビールを飲もうと思い、冷蔵庫を開けたが、冷やすのを失念していた。６缶パックが暖かい部屋の中でぬるいままだった。こんな時に便利なのが、「雪」だ。缶を雪へ突っ込み、10回ほどゆっくり回転させてあげれば、キンキンのビールが出来上がる。2本目は、1本目を飲む間に、雪へ挿しておけばいい。雪のありがたさと言えば、このくらいだろう。酔っぱらって、2本目を雪に挿したことを忘れると大変なことになるが…。

　北海道に来てすぐの頃、こんなことを教わった。「冷蔵庫には、凍ると困るものをいれるんだよ」と。当時、本当に同じ日本なのか？と思った記憶がある。

　昨日、Amazonで頼んだお茶のペットボトル24本入りが、玄関前に置かれていた。3日ほど家を空けていたため、玄関前に配達してくれたのだろう。開けてみたところ、もれなく24本凍り付いていた。

（鈴木総史）

【執筆者プロフィール】
鈴木総史（すずき・そうし）
平成8年（1996）東京都狛江市生まれ、26歳。
北海道旭川市在住。現在、製薬会社の営業（MR）として勤務。
平成26年（2014）、第17回俳句甲子園をきっかけに俳句をはじめる。
平成27年（2015）3月、「群青」入会。櫂未知子と佐藤郁良に師事。本格的に作句を開始。
令和元年（2019）、転勤に伴い、北海道旭川市へ移住。
令和3年（2021）10月、「雪華」入会。橋本喜夫に師事。
令和4年（2022）、作品集「微熱」にて、第37回北海道新聞俳句賞を最年少受賞。
令和5年（2023）1月より、「雪華」同人。
現在、「群青」「雪華」同人。俳人協会会員。