わが知れる阿鼻叫喚や震災忌 京極杞陽【季語=震災忌(秋)】


わが知れる阿鼻叫喚や震災忌

京極杞陽

今日は、1月20日金曜日、二十四節気の一つ「大寒」である。例年であれば、この時期が一年中で最も寒さが厳しい頃であるが、今年の平均気温は、平年より2、3度高いそうである。ただ、この週末から全国的に寒くなる予報なので、やはり大寒という気がする。また、今日は、「二十日正月(はつかしょうがつ)」と呼ばれ、この日を境に正月行事がほとんど終わりになる。西日本では、「骨正月(ほねしょうがつ)」とも言われ、正月用の塩鰤や塩鮭を骨になるまで食べ尽くすことより、こう呼ばれている。いずれにしても正月気分はもうお終いということである。

1月17日は阪神・淡路大震災が発生した日である。今から28年前、1995年1月17日午前5時46分、阪神・淡路大震災発生した時、筆者は淡路島にある社員寮の布団の中にいた。当日は三連休明けの火曜日で、筆者は前日の月曜日に東京の実家から淡路島へ戻り、その日の出勤を迎える早朝にこの地震に遭遇した。社員寮の八畳部屋に煎餅布団をひいて寝ていたのだが、揺れている間、その布団が半畳ぐらい上下にスライドしたのを記憶している。幸いにも社員寮を含め、周辺の住宅に大きな被害はなかったが、淡路島北部から神戸にかけて、甚大な被害が襲ったことは、マスコミが既報の通りである。あの日からもう28年の歳月が過ぎたと思うと、考え深いものがある。

わが知れる阿鼻叫喚や震災忌 京極杞陽

掲句は、1958年12月号「ホトトギス」巻頭の句である。この震災とは、1923年9月1日午前11時58分に発生した関東大震災のことである。この時、杞陽は学習院中等科に通う15歳である。東京の家屋は倒壊焼失、家族は一人の姉を除き、祖母、父母、弟妹らの計7人を失うことになる。掲句は、この震災経験から35年を経て綴った句である。「わが知れる」とは胸中に長く潜ませていたものを吐露する心情であり、最も悲惨な状況、混乱して泣き叫びたい心情を「阿鼻叫喚(あびきょうかん)」という仏語で表現し、震災の底知れない悲しみを詠んでいる。

今年、関東大震災発生から100年になる。この1世紀の間に日本全国のいたるところで地震が発生した。歳時記によっては、阪神・淡路大震災は「阪神忌」、その2ヶ月後の東日本大震災は「東北忌」、関東大震災は「震災忌」と呼ぶものもある。

語りつぐ杞陽ありけり震災忌 山田弘子

1995年3月、阪神・淡路大震災の2ヶ月後の句である。震災の経験を風化させず、後世に語りつぐべきである、そう思わせる句である。

《参考文献》
稲畑汀子・大岡信・鷹羽狩行 監修 『現代俳句大辞典』2005年 三省堂
山田佳乃著『京極杞陽の百句』2022年 ふらんす堂

塚本武州


【執筆者プロフィール】
塚本武州(つかもと・ぶしゅう)
1969 年、立川市生まれ。書道家の父親が俳号「武州」を命名。茶道家の母親の影響で俳句を始める。2000年〜2006年までイギリス、フランス、2011年〜2020年までドイツ、シンガポール、台湾に駐在。帰国後、本格的に俳句を習い、2021年4月号より俳誌『ホトトギス』へ出句。現在、社会人学生として、京都芸術大学通信教育部文芸コース及び博物館学芸員課程を履修中。神戸市在住。妻と白猫(ユキ)の3人暮らし。

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>>〔43〕炎天を山梨にいま来てをりて     千原草之
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>>〔32〕除草機を押して出会うてまた別れ   越野孤舟
>>〔31〕大いなる春を惜しみつ家に在り    星野立子
>>〔30〕燈台に銘あり読みて春惜しむ     伊藤柏翠
>>〔29〕世にまじり立たなんとして朝寝かな 松本たかし
>>〔28〕ネックレスかすかに金や花を仰ぐ  今井千鶴子
>>〔27〕芽柳の傘擦る音の一寸の間      藤松遊子
>>〔26〕日の遊び風の遊べる花の中     後藤比奈夫
>>〔25〕見るうちに開き加はり初桜     深見けん二
>>〔24〕三月の又うつくしきカレンダー    下田実花
>>〔23〕雛納めせし日人形持ち歩く      千原草之
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>>〔16〕ラグビーのジヤケツの色の敵味方   福井圭児
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>>〔5〕手を敷いて我も腰掛く十三夜     中村若沙
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