月代は月となり灯は窓となる
竹下しづの女
しばらく、夏休みをいただきました。松山に行ったり、東松山(埼玉県)に行ったりしていました。
というわけで、戻ってきた娑婆はすっかり秋の風、とすごい湿度…。
そして、ハイクノミカタ「愛の月曜」の湿度も相も変わらず…。かな女と久女が登場したとあれば、この人もお忘れなく。
月代は月となり灯は窓となる
出典『ホトトギス同人句集(1938年刊)』にはかな女、久女、しづの女の中で載っているのはしづの女だけ。久女はもちろんその2年前の同人削除によって同人ではなくなっていたためだ。
月が上がる前の空の白んでいくことをいう月代(つきしろ)。空に淡く広がった月光は月が昇るにしたがって、月そのものに集約されていく。一方、灯りとして見えていた点は、近づいてみれば窓の形を取り始める。
上方向、あるいは時間の経過としてあらわされる前半と、横方向の距離、あるいは同じだけの時間の経過としてあらわされる後半。ふたつの進行するベクトルが、片方は面から点へ集約され、片方は点から面へ形を変える。
一方で、「月光と灯」であったものが「月と窓」に変わる様は、時の経過とともに、どことなく夢から解き放たれたような、そうはいってもまだ十分に情緒のある現実世界に降り立ったのでもあるような。
光に満ちた季節は過ぎてしまったけれど、それでもまだ、十分に情緒ある日々が続きますように。
『ホトトギス同人句集』(1938年)
【おまけ】※最初に調べたときに季題の「月代」が出てこず、「さかやき」しか出てこなくて謎解きしてみたものです。「月代 俳句」で検索したら、あっという間に「きごさい」がでてきましたとさ…
月代は「さかやき」と読んで、武士が額をそり上げた部分のことを呼ぶ。額と思われていたものが月になって、灯と思っていたものが、窓となる。なかなか、初めから読み進めるのが難しい。
まずは後半を見よう。灯ほどの小さな点であったものが、(近づいてみれば)それは民家の窓だったということだろうか。「~となり~となる」というリフレインであれば、前後の構造には共通したところがあるのかもしれないと考えてみる。すると、誰かの月代、つまり月代をした人がいると思う方へ、人の面影へ寄っていけば、それは人ではなく月であったという構造が考えられる。
それが誰のことであったかはわからないけれど、もう最近では見ない月代をした誰かの面影へ寄ってみれば、それはただ月であったということ。灯と窓があるとすれば、それば家、つまりは家族にまつわる何かの思い出だったかもしれない。
「人と灯」であったものに近づけば、「月と窓」であったという変容。月下にありながら、どことなく夢から解き放たれたような、そうはいってもまだ十分に情緒のある現実世界に降り立ったのでもあるような。
夏休みは終わったけれど、それはそれなりにおもしろい、そんな週末となりますように。
(阪西敦子)
【執筆者プロフィール】
阪西敦子(さかにし・あつこ)
1977年、逗子生まれ。84年、祖母の勧めで七歳より作句、『ホトトギス』児童・生徒の部投句、2008年より同人。1995年より俳誌『円虹』所属。日本伝統俳句協会会員。2010年第21回同新人賞受賞。アンソロジー『天の川銀河発電所』『俳コレ』入集、共著に『ホトトギスの俳人101』など。松山市俳句甲子園審査員、江東区小中学校俳句大会、『100年俳句計画』内「100年投句計画」など選者。句集『金魚』を製作中。
【阪西敦子のバックナンバー】
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>>〔100〕おやすみ
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>>〔97〕七夕のあしたの町にちる色帋 麻田椎花
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【セクト・ポクリット管理人より読者のみなさまへ】