蝦夷に生まれ金木犀の香を知らず　青山酔鳴【季語＝金木犀（秋）】　

2023.01.17
ハイクノミカタマンスリーゲスト

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蝦夷(えぞ)に生まれ金木犀の香を知らず)

青山酔鳴(すいめい)
（『雪華』2023年1月号より）

　北海道に来て、かなり戸惑ったことがある。季語の体験が異なることだ。

　北海道では、四季が歳時記のとおりに進んでいかないのだ。いわゆる北海道の冬には、「花」が無い。雪以外のものは、なべて滅んでしまったかのようだ。東京にいた頃は、冬には冬の植物を見ることができて、それを俳句に昇華させることが可能だった。ここでは、それはできない。何か咲いているとしても、人工的に環境が整えられた植物園くらいだろう。北海道で花が咲き始めるのは、雪が解けるゴールデンウィークごろ。梅と桜が一気に咲くのである。ゴールデンウィークは、歳時記で考えると晩春・初夏になる。その時期にやっと、花を見て、俳句を詠むことができるようになる。北海道へ来たばかりの頃、北海道の開花事情には、驚きとともに呆れを覚えた。「北海道で俳句を詠むことはやはり難しいのか…」とも思った記憶がある。

　掲句は秋の季語、金木犀の句である。冬真っ只中に秋の俳句を取り上げたこと、どうかご容赦いただきたい。作者は北海道生まれで、『雪華』の同人、俳句集団「itak」幹事である。北海道に生まれた方にとっては、知らない花も少なからずあるのだろう。すべての花には生息地があり、もちろん北限がある。北海道でも咲く花であればいいが、掲句の金木犀も同様で、北海道の寒さでは越冬ができないため、植物園の温室でしか見ることが出来ない。そのような温室で初めて見た時、嗅いだ時に掲句ができたのではないだろうか。

　先日、所属する『雪華』の句会にて、私は「枇杷の花」の句を提出した。その際も、北海道ならではの事象が起こった。「枇杷の花の実物を見たことがない」そうだ。東京にいた頃に、吟行を重ねたことで、冬の季語となる植物をひと通り見ている私にとっては、驚きだった。ただ、これは、仕方のないことだと、今では受け入れることができる。私も北海道に来てから、冬の植物を上手に俳句にすることができなくなっているような気がする。それが掲句の作者のように北海道に生まれた人間、そして私のように北海道に住む人間にとっての宿命のようなものだと思っている。

　植物の季語の少なさをこれまで嘆いてきたが、北海道ならではの季語というものももちろんある。「流氷」は、紋別や網走でなければ見ることはできないし、「鮭」の遡上は石狩川や十勝川で見ることができる。「石狩鍋」は名前の通り、石狩地方由来であるし、「丹頂」は釧路湿原へ住んでいる。「鰊群来」は留萌・増毛で見ることができる。これらの季語は、北海道に来なければ体験できなかった。そう考えれば、北海道も悪くはないのではないか。

（鈴木総史）

【執筆者プロフィール】
鈴木総史（すずき・そうし）
平成8年（1996）東京都狛江市生まれ、26歳。
北海道旭川市在住。現在、製薬会社の営業（MR）として勤務。
平成26年（2014）、第17回俳句甲子園をきっかけに俳句をはじめる。
平成27年（2015）3月、「群青」入会。櫂未知子と佐藤郁良に師事。本格的に作句を開始。
令和元年（2019）、転勤に伴い、北海道旭川市へ移住。
令和3年（2021）10月、「雪華」入会。橋本喜夫に師事。
令和4年（2022）、作品集「微熱」にて、第37回北海道新聞俳句賞を最年少受賞。
令和5年（2023）1月より、「雪華」同人。
現在、「群青」「雪華」同人。俳人協会会員。