北寄貝桶ゆすぶつて見せにけり
平川靖子
『北海道俳句年鑑2022』より
北海道に来て、苦手だったものが大好物に変わった。それは、「貝」である。東京にいた時、食べることができたのは牡蠣・帆立くらいで、その他の貝は苦手だった。特に、つぶ貝・北寄貝・ばい貝などは食べることが出来なかった。これらの貝を食べるようになったきっかけは、「トリトン」という北海道の地場回転寿司チェーンである。北海道の寿司が安くて美味くて、正直、もう東京では寿司を食べることはできないかもしれない…。そんな激ウマの寿司店で出会ったのが、苫小牧産北寄貝である。朝獲れ・産地直送だけあって、新鮮でめちゃめちゃ美味しかった。ここの出会いから貝が一気に好物に変わった。
北寄貝を少し紹介したい。アイヌ語では「ポクセイ」や「トゥットゥレプ」と呼ばれるそう。北に寄ると書くだけあって、冷水域を好む貝である。北海道の産地では、苫小牧が最も有名なのではないだろうか。苫小牧の市の貝に指定されている。北斗市のゆるキャラに「ずーしーほっきー」という気持ち悪い奴がいるので検索してみてほしい。こちらは、北寄貝の寿司をモチーフにしたゆるキャラだそう。とにかく気持ち悪い。ちなみに、北寄貝はタウリンが豊富で、北寄貝50gには、タウリンが1300㎎ほど入っている。タウリン1000㎎配合と謳う「リポビタンD」1本よりもタウリンが多い。リポD飲むくらいなら、北寄貝食べよう!というわけである。(どういうわけなのか)
また、北寄貝好きが高じて、旭川から4時間かけて苫小牧まで食べに行ったことがある。行ったお店は「マルトマ食堂」。このお店の名物は「ホッキ丼」と「ホッキカレー」。テレビでも取り上げられることが多いため、ご存知の方もいるのではないか。日曜に訪れたのだが、2時間以上は待つことになる。北海道に来て、長時間並ぶなんてことは一度も無かった。マルトマ食堂を、北海道のディズニーランドとでも呼ぼうじゃないか。2時間並んでまで食べたホッキ丼は、格別の美味しさだったということは言うまでもない。
掲句の作者は、「秋麗」・「壺」所属の平川靖子さん。桶とあるので、市場の魚屋で売られているのだろうか。「北寄貝獲れたてだよ~安いよ~」という魚屋の声が今にも聞こえてきそうである。北寄貝は派手な貝ではない。ゆすぶって見せるところに、少しでも良く見せたいという思いが滲み出ている。そこが可笑しさでもあるのではないだろうか。「食べ物は美味しそうに詠むこと」と師である櫂未知子先生に口酸っぱく言われているが、掲句はそれに適っていると思う。間違いなくこの北寄貝は美味しいのである。
北寄貝は冬の季語であるが、旬は12月~5月である。まさに、北海道の冬の期間=北寄貝の旬といったところだろうか。北海道の冬、どれだけ長いんだ…。まだまだ、北寄貝の旬は続いていくので、ぜひ皆さん北海道まで食べに来てほしい。4月か5月がおススメだ。4月くらいなら、雪がそろそろ解け始めてくる頃だろう。明日は、北寄貝を食べに、寿司屋にでも行こうか。もちろん「トリトン」に。
(鈴木総史)
【執筆者プロフィール】
鈴木総史(すずき・そうし)
平成8年(1996)東京都狛江市生まれ、26歳。
北海道旭川市在住。現在、製薬会社の営業(MR)として勤務。
平成26年(2014)、第17回俳句甲子園をきっかけに俳句をはじめる。
平成27年(2015)3月、「群青」入会。櫂未知子と佐藤郁良に師事。本格的に作句を開始。
令和元年(2019)、転勤に伴い、北海道旭川市へ移住。
令和3年(2021)10月、「雪華」入会。橋本喜夫に師事。
令和4年(2022)、作品集「微熱」にて、第37回北海道新聞俳句賞を最年少受賞。
令和5年(2023)1月より、「雪華」同人。
現在、「群青」「雪華」同人。俳人協会会員。
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2020年10月からスタートした「ハイクノミカタ」。【シーズン1】は、月曜=日下野由季→篠崎央子(2021年7月〜)、火曜=鈴木牛後、水曜=月野ぽぽな、木曜=橋本直、金曜=阪西敦子、土曜=太田うさぎ、日曜=小津夜景さんという布陣で毎日、お届けしてきた記録がこちらです↓
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>>〔3〕ひざにゐて猫涅槃図に間に合はず 有馬朗人
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>>〔4〕嗚呼これは温室独特の匂ひ 田口武
【2022年1月の水曜日☆吉田林檎のバックナンバー】
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【2021年12月の火曜日☆小滝肇のバックナンバー】
>>〔1〕柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺 正岡子規
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>>〔3〕鏡台や猟銃音の湖心より 藺草慶子
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>>〔2〕木枯やたけにかくれてしづまりぬ 芭蕉
>>〔3〕葱白く洗ひたてたるさむさ哉 芭蕉
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【セクト・ポクリット管理人より読者のみなさまへ】