初花や竹の奥より朝日かげ
川端茅舎
みなさん、いかがおすごしでしたか。いやはや、1年3か月とは長いような短いような、いずれにしても、お久しぶりでございます。セクト・ポクリットも3年半が経ったとか、ずいぶん立派になられて、近づきがたいやら、がたくないやら。そんなこんなの花の頃、2か月の火曜日枠をいただきました。火曜日って、なかなかどうして中途半端ですね。
サグラダファミリアも間もなく完成するとかいうこのところ、訳あって呼んでいただいたわけなのですが、まあ、その辺はあまり深く考えず、引き続いて「ホトトギス同人句集(1913年)」の前回の先を読んでまいります。そう、本日はこの人から。
初花や竹の奥より朝日かげ
早い早いと言われていた今年の桜、10日後だってさ、来週だってさと言っているうちに、なんだかチロチロとしか咲かなくて、三月も末になって、やっと開花したとおもったら、夏のような週末が来て、急に開き出した。そうこうするうちにあっという間に四月が来て(この頃の時間は本当に早い)このままいくと、入学式にも四月八日の虚子忌にも、どうやら花が持ちそうだ。
高く伸びた竹林の手前の桜は、植え方としてそんなに珍しくはないのだろう。竹の壁に対して、差し掛かるような桜は、絵の中のひと筆のようでもある。その筆遣いまでは、少し絵心があれば浮かぶかもしれないけれど、その竹のさらに向こうから朝日が差す瞬間はなかなかに描けまい。竹の間を抜けてこちらへ届く光の筋が、その日、初めて開いた花を背後から照らす。まさに「天然後光」(©Atsuko Sakanishi)だ。竹にさえぎられて薄暗い桜が少しずつ日にひたされていく何分かの、どの一瞬でもある。高浜虚子が「茅舎浄土」と呼んだ世界観の一端だ。
うちの近くの桜には竹林はないけれど、せっかく遅れた花時に間に合ったのだから、今日は川に行こうと思います。
みなさんもよい花の一週間を。
(阪西敦子)
【執筆者プロフィール】
阪西敦子(さかにし・あつこ)
1977年、逗子生まれ。84年、祖母の勧めで七歳より作句、『ホトトギス』児童・生徒の部投句、2008年より同人。1995年より俳誌『円虹』所属。日本伝統俳句協会会員。2010年第21回同新人賞受賞。アンソロジー『天の川銀河発電所』『俳コレ』入集、共著に『ホトトギスの俳人101』など。松山市俳句甲子園審査員、江東区小中学校俳句大会、『100年俳句計画』内「100年投句計画」など選者。2024年4月、句集『金魚』を上梓。俳壇のサグラダ・ファミリア!
ついに刊行!!◆第一句集
ラガーらの目に一瞬の空戻る
稲畑汀子の言葉として「見るから観るへ」というのがある。これはただ眺めるだけではなく、その奥にある季題の本質を探ることが大切であるという意味だが、まさにそれを実践した素晴らしい作品群である。
(跋より・稲畑廣太郎)
【阪西敦子のバックナンバー】
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>>〔42〕ビール買ふ紙幣をにぎりて人かぞへ 京極杞陽
>>〔41〕フラミンゴ同士暑がつてはをらず 後藤比奈夫
>>〔40〕夕焼や答へぬベルを押して立つ 久保ゐの吉
>>〔39〕夾竹桃くらくなるまで語りけり 赤星水竹居
>>〔38〕父の日の父に甘えに来たらしき 後藤比奈夫
>>〔37〕麺麭摂るや夏めく卓の花蔬菜 飯田蛇笏
>>〔36〕あとからの蝶美しや花葵 岩木躑躅
>>〔35〕麦打の埃の中の花葵 本田あふひ
>>〔34〕麦秋や光なき海平らけく 上村占魚
>>〔33〕酒よろしさやゑんどうの味も好し 上村占魚
>>〔32〕除草機を押して出会うてまた別れ 越野孤舟
>>〔31〕大いなる春を惜しみつ家に在り 星野立子
>>〔30〕燈台に銘あり読みて春惜しむ 伊藤柏翠
>>〔29〕世にまじり立たなんとして朝寝かな 松本たかし
>>〔28〕ネックレスかすかに金や花を仰ぐ 今井千鶴子
>>〔27〕芽柳の傘擦る音の一寸の間 藤松遊子
>>〔26〕日の遊び風の遊べる花の中 後藤比奈夫
>>〔25〕見るうちに開き加はり初桜 深見けん二
>>〔24〕三月の又うつくしきカレンダー 下田実花
>>〔23〕雛納めせし日人形持ち歩く 千原草之
>>〔22〕九頭龍へ窓開け雛の塵払ふ 森田愛子
>>〔21〕梅の径用ありげなる人も行く 今井つる女
>>〔20〕来よ来よと梅の月ヶ瀬より電話 田畑美穂女
>>〔19〕梅ほつほつ人ごゑ遠きところより 深川正一郎
>>〔18〕藷たべてゐる子に何が好きかと問ふ 京極杞陽
>>〔17〕酒庫口のはき替え草履寒造 西山泊雲
>>〔16〕ラグビーのジヤケツの色の敵味方 福井圭児
>>〔15〕酒醸す色とは白や米その他 中井余花朗
>>〔14〕去年今年貫く棒の如きもの 高浜虚子
>>〔13〕この出遭ひこそクリスマスプレゼント 稲畑汀子
>>〔12〕蔓の先出てゐてまろし雪むぐら 野村泊月
>>〔11〕おでん屋の酒のよしあし言ひたもな 山口誓子
>>〔10〕ストーブに判をもらひに来て待てる 粟津松彩子
>>〔9〕コーヒーに誘ふ人あり銀杏散る 岩垣子鹿
>>〔8〕浅草をはづれはづれず酉の市 松岡ひでたか
>>〔7〕いつまでも狐の檻に襟を立て 小泉洋一
>>〔6〕澁柿を食べさせられし口許に 山内山彦
>>〔5〕手を敷いて我も腰掛く十三夜 中村若沙
>>〔4〕火達磨となれる秋刀魚を裏返す 柴原保佳
>>〔3〕行秋や音たてて雨見えて雨 成瀬正俊
>>〔2〕クッキーと林檎が好きでデザイナー 千原草之
>>〔1〕やゝ寒し閏遅れの今日の月 松藤夏山
【セクト・ポクリット管理人より読者のみなさまへ】