流氷が繋ぐ北方領土かな　大槻独舟【季語＝流氷（春）】　

2023.01.24
ハイクノミカタマンスリーゲスト

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流氷が繋ぐ北方領土かな

大槻独(どく)舟(しゅう)
（「北海道俳句年鑑2022」より）

　私は、流氷大好き人間である。北海道に来て今シーズンが4回目の冬になるが、流氷は毎年見に行っている。句集上梓に向け、自身の俳句を整理しているが、流氷の句がどかどかと出てくる。流氷の面白いところは、年によって接岸の量が全く異なり、色んな流氷の姿を目にすることができる。

　今年は、1月20日から、網走の観光砕氷船「おーろら」の運行が開始したそうだ。with コロナ時代となり、人々の往来が増えてゆく中、今季はすでに18万人の乗船予約があるそうだ。

　そんな中、「流氷初日」という言葉を最近ニュースで耳にする。今年は、1月下旬ごろが、その「流氷初日」になるのではと予想されているようだ。北海道に住んでいる人間であれば、もちろん知っている言葉と思うが、内地の人はなかなか耳にしない言葉ではないだろうか。私も、初めて聞いたときは、不思議に思った。

　この「流氷初日」は、陸上の観測地点から肉眼ではじめて流氷が見えた日と定義されているようだ。つまり、流氷初日の時点では、まだ観光船から、沖遠くの流氷を眺めることしかできないのである。

　では、いつからが流氷の見頃なのか…。それは、「流氷接岸初日」である。これは、観測ポイントからみて、沿岸の海が流氷で覆われて通常の船舶は航行できなくなった最初の日と定義されている。昨年の網走での流氷接岸初日は、2月頭ごろだったかと思う。毎年、3月初めごろに見に行くため、流氷の接岸が早いのか、遅いのかが気になって仕方ない。前述した観光砕氷船「おーろら」は、通常の船舶ではないので、ここからが腕の見せ所といった感じだろうか。「おーろら」は、接岸した流氷をバリバリと割りながら、1時間ほどオホーツク海を案内してくれる。流氷だけなく、尾白鷲や大鷲などの鳥も見られるため、俳人にはおススメの吟行スポットだ。ぜひ訪れていただきたい。

　今回は、「玉藻」・「花鳥」の大槻独舟さんの一句。

　掲句は、知床から見た流氷だろう。流氷はシベリア沿岸、つまりロシア領土からやってくる。それが北方領土を経由して、日本へ接岸する。掲句を政治的に読むのは、いささかもったいないとは思うが、こういった情勢の中では、致し方ないのかもしれない。この句からは、流氷と一緒に北方領土が戻ってくるのではないかというわずかな希望を感じられる。「繋ぐ」という言葉の力だろうか。

　今年の冬は、家庭環境の変化もあり、遠出は難しそうである。北海道に来てはじめて、流氷を見ないシーズンなりそうだ。今年は、流氷と名の付くビールやらカレーやらを食べ、思いを馳せたいと思う。最後に…網走の流氷シーズンの気温は、まだ氷点下である。流氷を見に行くときは、もちろん防寒ばっちりだ。それなのに、流氷は、仲春の季語。なんだか違う気がする。

（鈴木総史）

【執筆者プロフィール】
鈴木総史（すずき・そうし）
平成8年（1996）東京都狛江市生まれ、26歳。
北海道旭川市在住。現在、製薬会社の営業（MR）として勤務。
平成26年（2014）、第17回俳句甲子園をきっかけに俳句をはじめる。
平成27年（2015）3月、「群青」入会。櫂未知子と佐藤郁良に師事。本格的に作句を開始。
令和元年（2019）、転勤に伴い、北海道旭川市へ移住。
令和3年（2021）10月、「雪華」入会。橋本喜夫に師事。
令和4年（2022）、作品集「微熱」にて、第37回北海道新聞俳句賞を最年少受賞。
令和5年（2023）1月より、「雪華」同人。
現在、「群青」「雪華」同人。俳人協会会員。