ハイクノミカタ

牡蠣舟やレストーランの灯をかぶり      大岡龍男【季語=牡蠣舟(冬)】


牡蠣舟やレストーランの灯をかぶり

大岡龍男(おおおか・たつお))


いやはや、冬に入りました。そうそれは、驚くほどの早さで。

晴れが続いているので、まだましですが、苦手の寒さが間もなくと思うと…。せめて、冬のよきことでも考えて前向きになりたく思うわけでして。

今月から参加している近江文代さんは、よく一緒にものを食べる(俳句関係ないやん)。牡蠣は、食べたことがあるようなないような文代さんが水曜に食べたフライとか、S16がこないだ食べた牡蠣そばとか、いろいろ見ているうちに引き寄せられるようにこの句が…

牡蠣舟やレストーランの灯をかぶり

「restaurant」。そんなに「tau」を伸ばすかなあとは思うものの、まあ、その後ろの「r」と相まって、ちょっと長く聞こえたのかもしれない。そう言っていたこともあったのかもしれない。タレーランって人もいたなあ何と思いつつ、何かこのころのレストーランはフレンチだったんじゃないかななどと。

牡蠣というのもまた、フランスを思わせる。その季節になると、牡蠣売りの屋台というか、テントというかが出る。サイズに応じて区分けされていて、希望のサイズと個数を伝えれば、紙か何かの皿に円状に恭しく並べて、ビニールの風呂敷のようなものに皿ごと包んで渡してくれる。包む前に牡蠣の殻を開けたほうがいいか聞いてくれて、お願いすれば剥いてくれる。といっても、各家庭には牡蠣向きのナイフがあって(私がそのころ住んでいた家具付きフラットにも牡蠣剥きナイフはついていた)、自分で剥く人も多い。レモンと、バターのかけらを散らして食べた。

話が逸れた。牡蠣舟は日本の風物。河川に屋台舟を係留して、牡蠣の料理を出していた船という。河岸にあるレストランから華やいだ灯が川にまで、そしてそこに浮かぶ牡蠣舟にまで及ぶ。借景ならぬ借灯、「かぶる」というほんの少しの作者の意の出た言葉の選択が、くっきりとレストランの灯を映す牡蠣舟の直線的な様子を思わせる。灯は川へも落ちて揺らめくだろう、牡蠣にも灯が届いて輝くかもしれない、川へ向いたレストランと牡蠣舟との近さ、異質な牡蠣舟とレストーランだけれど、いずれもにぎわう人の姿が見える。

今日の昼は牡蠣だな。

『ホトトギス同人句集』(1938年)

阪西敦子


金曜日の種本はこちら↑(早い者勝ちです)

【執筆者プロフィール】
阪西敦子(さかにし・あつこ)
1977年、逗子生まれ。84年、祖母の勧めで七歳より作句、『ホトトギス』児童・生徒の部投句、2008年より同人。1995年より俳誌『円虹』所属。日本伝統俳句協会会員。2010年第21回同新人賞受賞。アンソロジー『天の川銀河発電所』『俳コレ』入集、共著に『ホトトギスの俳人101』など。松山市俳句甲子園審査員、江東区小中学校俳句大会、『100年俳句計画』内「100年投句計画」など選者。句集『金魚』を製作中。

【阪西敦子のバックナンバー】

>>〔110〕梁折れて頬を打つあり鶉追ふ                三溝沙美
>>〔109〕桔梗やさわや/\と草の雨                楠目橙黄子
>>〔108〕鳥屋の窓四方に展けし花すゝき         丹治蕪人
>>〔107〕秋めくやあゝした雲の出かゝれば          池内たけし
>>〔106〕コスモスのゆれかはしゐて相うたず      鈴鹿野風呂
>>〔105〕淋しさに鹿も起ちたる馬酔木かな      山本梅史
>>〔104〕蜩や久しぶりなる井の頭                     柏崎夢香
>>〔103〕おやすみ
>>〔102〕月代は月となり灯は窓となる         竹下しづの女
>>〔101〕おやすみ
>>〔100〕おやすみ
>>〔99〕おやすみ
>>〔97〕七夕のあしたの町にちる色帋               麻田椎花
>>〔96〕大阪の屋根に入る日や金魚玉                 大橋櫻坡子
>>〔95〕盥にあり夜振のえもの尾をまげて          柏崎夢香
>>〔94〕行く涼し谷の向うの人も行く                  原石鼎
>>〔93〕山羊群れて夕立あとの水ほとり            江川三昧
>>〔92〕思ひ沈む父や端居のいつまでも             石島雉子郎
>>〔91〕麦藁を束ねる足をあてにけり                    奈良鹿郎
>>〔90〕はしりすぎとまりすぎたる蜥蜴かな        京極杞陽
>>〔89〕船室の梅雨の鏡にうつし見る     日原方舟
>>〔88〕さくらんぼ洗ひにゆきし灯がともり  千原草之
>>〔87〕おやすみ
>>〔86〕まどごしに與へ去りたる螢かな   久保より江
>>〔85〕日蝕の鴉落ちこむ新樹かな     石田雨圃子
>>〔84〕白牡丹四五日そして雨どつと    高田風人子
>>〔83〕春暁のカーテンひくと人たてり   久保ゐの吉
>>〔82〕かゝる世もありと暮しぬ春炬燵   松尾いはほ
>>〔81〕纐纈の大座布団や春の宵      真下喜太郎

>>〔80〕先生はいつもはるかや虚子忌来る  深見けん二
>>〔79〕夜着いて花の噂やさくら餅      關 圭草
>>〔78〕花の幹に押しつけて居る喧嘩かな   田村木國
>>〔77〕お障子の人見硝子や涅槃寺      河野静雲
>>〔76〕東京に居るとの噂冴え返る      佐藤漾人
>>〔75〕落椿とはとつぜんに華やげる     稲畑汀子
>>〔74〕見てゐたる春のともしびゆらぎけり 池内たけし
>>〔73〕諸事情により、おやすみ
>>〔72〕春雪の一日が長し夜に逢ふ      山田弘子
>>〔71〕早春や松のぼりゆくよその猫    藤田春梢女
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>>〔68〕左義長のまた一ところ始まりぬ      三木
>>〔67〕絵杉戸を転び止まりの手鞠かな    山崎楽堂
>>〔66〕年を以て巨人としたり歩み去る     高浜虚子
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>>〔64〕突として西洋にゆく暖炉かな     片岡奈王
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>>〔28〕ネックレスかすかに金や花を仰ぐ  今井千鶴子
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>>〔20〕来よ来よと梅の月ヶ瀬より電話   田畑美穂女
>>〔19〕梅ほつほつ人ごゑ遠きところより  深川正一郎
>>〔18〕藷たべてゐる子に何が好きかと問ふ  京極杞陽
>>〔17〕酒庫口のはき替え草履寒造      西山泊雲
>>〔16〕ラグビーのジヤケツの色の敵味方   福井圭児
>>〔15〕酒醸す色とは白や米その他     中井余花朗
>>〔14〕去年今年貫く棒の如きもの      高浜虚子
>>〔13〕この出遭ひこそクリスマスプレゼント 稲畑汀子
>>〔12〕蔓の先出てゐてまろし雪むぐら    野村泊月
>>〔11〕おでん屋の酒のよしあし言ひたもな  山口誓子
>>〔10〕ストーブに判をもらひに来て待てる 粟津松彩子
>>〔9〕コーヒーに誘ふ人あり銀杏散る    岩垣子鹿
>>〔8〕浅草をはづれはづれず酉の市   松岡ひでたか
>>〔7〕いつまでも狐の檻に襟を立て     小泉洋一
>>〔6〕澁柿を食べさせられし口許に     山内山彦
>>〔5〕手を敷いて我も腰掛く十三夜     中村若沙
>>〔4〕火達磨となれる秋刀魚を裏返す    柴原保佳
>>〔3〕行秋や音たてて雨見えて雨      成瀬正俊
>>〔2〕クッキーと林檎が好きでデザイナー  千原草之
>>〔1〕やゝ寒し閏遅れの今日の月      松藤夏山




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