ハイクノミカタ

福笹につけてもらひし何やかや 高濱年尾【季語=福笹(冬)】


福笹につけてもらひし何やかや

高濱年尾

今日は、13日の金曜日、なんとも不気味な日である。この日に、イエス・キリストが磔刑されたので、クリスチャンにとっては忌むべき日である。ただ、1980年代アメリカで「Friday the 13th」というホラー映画がヒットしたことで、この日が世界中に不気味な日として広がったのではと筆者は考えている。ちなみに、この「Friday the 13th」のシリーズは、1984年に一旦完結するが、翌年の1985年に新シリーズが始まり、結局、2009年まで続いたロングランである。著者は13日の金曜日をあまり意識していないが、それでもこの日の出張を極力避けたりしている。皆さんはどうお過ごしでしょうか。

福笹につけてもらひし何やかや 高濱年尾

今年は3年ぶりに、1月9日月曜日から11日水曜日まで、兵庫県西宮市のえびす宮総本山西宮神社で「十日戎(とおかえびす)」が開催された。西宮神社の十日戎は、よくマスコミに報道される、「開門神事・福男選び」が有名である。1月10日朝6時、大太鼓の音と「かいもーん」の掛け声を合図に表大門(赤門)が開門し、走力に自信のある参拝者が、表大門(赤門)から参拝経路「福の道」を抜けて、本殿への230メートルを猛ダッシュし、上位3名がその年の「福男」として選ばれる、あの行事である。今年は、一番福が大学生(22歳)、二番福が兵庫県警機動隊員(25歳)、三番福が大学生(19歳)であった。

著者は、1月9日が成人の日の祝日であったので、初めての西宮神社十日戎詣だったが、この宵戎に出かけてみた(9日が宵戎、10日が十日戎、11日が残り福という)。当日、朝寝したので昼過ぎに到着したのだが、既に西宮神社は入場規制をしており、表大門から本殿までの230メートルを、のろのろと歩いたり止まったりしながら、結局、1時間ぐらいかかった。「福男」はだいたい30秒ぐらいで駆け抜けるところをである。

本殿の参拝後、掲句にもある「福笹」を購入。福笹は、笹にえびす様のおふだ、鯛、小判などの福々しい飾り(吉兆)をつけた縁起物で、えびす様のご利益から、商売繁盛、家内安全、開運招福などのあらゆる福を招くとされている。昔に参拝した大阪の今宮戎神社は、掲句の通り、「福娘」が「商売繁盛で笹もってこい」と手招きし、福笹に「何やかや(吉兆)」をつけてもらったのを記憶している。今回の西宮神社は既に、何やかやがついた状態の福笹を、ビジネスライクな福娘から購入したので、何となく寂しい気持ちになった。そっか、掲句は今宮戎神社の十日戎で作った句なのかと後で気づいた次第である。

さて、参拝後の楽しみである屋台飯であるが、今回、甘酒とゆで卵のセットを注文(そもそもこんなセットある?と思いながら)。注文の仕方も、単に、「いちいち」と言うだけで、甘酒1杯、ゆで卵1個が注文できるらしい。来年は、通っぽく、「いちいち」と注文しようと固く決心して帰路についた。

塚本武州


【執筆者プロフィール】
塚本武州(つかもと・ぶしゅう)
1969 年、立川市生まれ。書道家の父親が俳号「武州」を命名。茶道家の母親の影響で俳句を始める。2000年〜2006年までイギリス、フランス、2011年〜2020年までドイツ、シンガポール、台湾に駐在。帰国後、本格的に俳句を習い、2021年4月号より俳誌『ホトトギス』へ出句。現在、社会人学生として、京都芸術大学通信教育部文芸コース及び博物館学芸員課程を履修中。神戸市在住。妻と白猫(ユキ)の3人暮らし。

【塚本武州のバックナンバー】

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【初代金曜日・阪西敦子のバックナンバー】

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>>〔7〕いつまでも狐の檻に襟を立て     小泉洋一
>>〔6〕澁柿を食べさせられし口許に     山内山彦
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>>〔4〕火達磨となれる秋刀魚を裏返す    柴原保佳
>>〔3〕行秋や音たてて雨見えて雨      成瀬正俊
>>〔2〕クッキーと林檎が好きでデザイナー  千原草之
>>〔1〕やゝ寒し閏遅れの今日の月      松藤夏山




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