数と俳句(一)
小滝肇
「私、数学きらいです。」
穏やかな店の佇まいの中、カウンターのちょっと離れた辺りから、「そうですか」としか返しようのないパンチが飛んでくる。するとその逆方向からも、「私も数学苦手です。」と参戦する声が。お店の方が、筆者が大学の建築学科の出身であると話したら、じゃあ理系なんですね、という流れから発された言葉のようだから、どうも嫌いだったり苦手だったりするのは筆者なのかも。数学にはとんだとばっちりだ。僕の事は嫌いでも、数学の事は嫌いにならないでほしいー前田敦子さんの気持ちがなんだか少しわかるような気がしてきた。
数字はつめたい。
それはそうかも知れない。昭和のサラリーマン映画では小林桂樹さんのようないかにも実直な営業マンに、金子信雄さんのようなかなり底意地の悪そうな上司が、「能書きはいいから数字あげろ、数字を!」などと罵声を浴びせるシーンなどは、頻繁に脚本に織り込まれていた記憶がある。
生身の人間にレッテルを貼るときも数字の独壇場だ。身長、年収、出身校の偏差値―宝飾品のカラット数のように、人の価値は容易に数字に置き換えられてしまう。人そのものに番号をふられる事もある。大学の学籍番号や小中の出席番号などはまだしも、マイナンバーのように国家権力に番号を与えられると、そのうち国民か囚人かわからない世の中になるような気もしてくる。「二〇〇一年宇宙の旅」は一九六〇年代の映画だが、そこで監督のキューブリックはコンピューターのハルが自らの意思を以て人間の指示に反する行動をとるという啓示に満ちた物語を展開した。幸いそうした事例は二〇二三年の今も表立っては聞えてこないが、人間があまねくコンピューターの支配下に置かれるディストピアは、SF小説から飛び出しそろそろ現実になろうとしている。
数字は愛らしい。
これはあまり賛同は得られそうにないが、素数を愛する数学マニアは多い。自然数の中で1とその数自身しか約数がないという処に、なんだか物語を感じる。家族のいないさみしがり屋かもしれない。2や3や5など、小さな素数には倍数がかなり多いのはそんな寂しさの裏返しで、外に絆を求めているように見えてしまう。そういえば3の倍数の時だけアホになります、というのがあった。世界のナベアツと名乗る方のユニークなお笑いのネタで、1から順に数をかぞえ、3の倍数になると思い切りのいい変顔をするのだが、かなりナンセンスで楽しい。こんな数字の楽しみ方があったなんて―え、そんなに楽しくない?うーん、渾身の芸も広い共感とはいかないようだ。
そんな数字だが、短歌や俳句に織り込まれることもある。古来、暦の月を表すにも一月を睦月、二月を如月というよう数字でない表現を用いたりしてきたのはなにか数字につめたさ或いは寒々しさといった「異和感」を私たちの父祖が抱いていた証かもしれない。特に俳句のように全体が短い中に数詞が置かれると、その存在感はかなり強い。まるで扱いにくい変わり者のようだ。しかし他の言葉と融和しがたいその性質は、時に得も言われぬ特異な光を放ち、句を大いに輝かせる場合がある。
鶏頭の十四五本もありぬべし 正岡子規
あまねく知られた近代俳句の祖の一句だが、初めて眼にした時はどう理解してよいか正直分からなかった。「季語が効いてますね」的なよくある評価を真っ向拒絶しているようにも見えてしまう。句がつくられた当初から現在まで議論百出、賛否が分かれるのもなんだか理解できる。しかし頭を働かせるのをやめて、ただ感覚だけを頼りに何度か読み返すと、数字がどかと中七に、しかも概数で居座った大胆な構成がなんだか愛おしくなってくる。鶏頭の本数のことしか言わないなんて、無邪気すぎるし欲がなさすぎるではないか。もしかしたら作者はきわめて無垢な気持ちになってこの句を発したのではないかーならばと筆者も懸命に普段の有り余る邪念を払って句を見つめなおすと、中七のごつごつとした「異和感」が鶏頭の花弁を角ばらせ、さながらキュービズムの静物画のような美しい景を浮かび上がらせているのが見えてくるではないか。凄い。数詞が主役を担った珍しい一例。
もう一句。
六月の女すわれる荒筵 石田波郷
有体に言えば電流が背中を走ったーこの句を最初眼にしたときの事だ。作句の状況がどうかとか作者がどんな人かとか、そんな予備知識抜きに大いに心を揺さぶられてしまった。
戦後の日本、焼け跡となった町ではこのような景はそんなに特別ではなかった事はその時代に生きていない世代でも推察可能だし、作者の実景の世界としてももちろん感情移入可能なのだが、この句にはあまねく世代に同時代性を感じさせてしまう力がある。少しばかり齢を重ねた人なら、誰でも似たような景が体験として浮かび上がるのではないか。筆者の幼少の頃、父が経営していた工場と家を火事で失い、じっと火をみつめている自分の横で母が泣き崩れた大地は、荒筵はなくともこの句の女のそれにほかならない。ボブ・ディランが「ライク・ア・ローリング・ストーン」の曲の中で登場させた、転落した女が這うように暮らした路上にも、きっとこんな荒筵のような粗末な何かが敷かれていたに違いない。筆者が学生の頃訪れた北アフリカの街の夕暮の旧市街の、絨毯を売る商店等のならぶ狭い道筋、誰とも合わせぬ遠い眼をした少女が膝をかかえて座っていた路面も、句の中の荒筵の敷かれた大地と変わる処はない。この句は時空を超えて読み手のそれぞれの体験を呼び醒まし、心を揺さぶらずにはおかない。子規の「十四五本」の句では体験できなかった、そんな即効性がある。それを可能ならしめているのは、上五の「六月」だ。風雅に「水無月」ならどうだろう。それも悪くないかもしれない。しかし「六月」の語感の持つつめたさには及ばない。それが「女」を突き放す、ディランが歌詞の中の女を突き放しているように。「七月」はどうか。海水浴の景と思う人もいるかもしれない。「四月」なら。花見を連想させてしまう可能性がある。動きようのない六月―この選択こそが、この数字の持つただならぬ気配が、言い知れぬ凄味を句に付与しているのだ。
あの北アフリカの旧市街の少女はどうなったかーもうすっかり変わってしまったろうが、またあの街を歩きたい。ディランの曲をまた聴こう、きっと曲中の「女」が微笑みかけてくれるに違いないから。
(小滝肇)
【執筆者プロフィール】
小滝肇(こたき・はじめ)
昭和三十年広島市生まれ
平成十六年俳誌「春耕」入会
春耕同人、銀漢創刊同人を経て
現在無所属
平成三十年 第一句集『凡そ君と』
2020年10月からスタートした「ハイクノミカタ」。【シーズン1】は、月曜=日下野由季→篠崎央子(2021年7月〜)、火曜=鈴木牛後、水曜=月野ぽぽな、木曜=橋本直、金曜=阪西敦子、土曜=太田うさぎ、日曜=小津夜景さんという布陣で毎日、お届けしてきた記録がこちらです↓
【2023年6月の火曜日☆北杜駿のバックナンバー】
【2023年6月の火曜日☆北杜駿のバックナンバー】
>>〔1〕田を植ゑるしづかな音へ出でにけり 中村草田男
>>〔2〕妻のみ恋し紅き蟹などを歎かめや 中村草田男
>>〔3〕虹の後さづけられたる旅へ発つ 中村草田男
>>〔4〕鶏鳴の多さよ夏の旅一歩 中村草田男
【2023年6月の水曜日☆古川朋子のバックナンバー】
>>〔6〕妹の手をとり水の香の方へ 小山玄紀
>>〔7〕金魚屋が路地を素通りしてゆきぬ 菖蒲あや
>>〔8〕白い部屋メロンのありてその匂ひ 上田信治
>>〔9〕夕凪を櫂ゆくバター塗るごとく 堀本裕樹
【2023年5月の火曜日☆千野千佳のバックナンバー】
>>〔5〕皮むけばバナナしりりと音すなり 犬星星人
>>〔6〕煮し蕗の透きとほりたり茎の虚 小澤實
>>〔7〕手の甲に子かまきりをり吹きて逃す 土屋幸代
>>〔8〕いつまでも死なぬ金魚と思ひしが 西村麒麟
>>〔9〕夏蝶の口くくくくと蜜に震ふ 堀本裕樹
【2023年5月の水曜日☆古川朋子のバックナンバー】
>>〔1〕遠き屋根に日のあたる春惜しみけり 久保田万太郎
>>〔2〕電車いままつしぐらなり桐の花 星野立子
>>〔3〕葉桜の頃の電車は突つ走る 波多野爽波
>>〔4〕薫風や今メンバー紹介のとこ 佐藤智子
>>〔5〕ハフハフと泳ぎだす蛭ぼく音痴 池禎章
【2023年4月の火曜日☆千野千佳のバックナンバー】
>>〔1〕春風にこぼれて赤し歯磨粉 正岡子規
>>〔2〕菜の花や部屋一室のラジオ局 相子智恵
>>〔3〕生きのよき魚つめたし花蘇芳 津川絵理子
>>〔4〕遠足や眠る先生はじめて見る 斉藤志歩
【2023年4月の水曜日☆山口遼也のバックナンバー】
>>〔6〕赤福の餡べつとりと山雪解 波多野爽波
>>〔7〕眼前にある花の句とその花と 田中裕明
>>〔8〕対岸の比良や比叡や麦青む 対中いずみ
>>〔9〕美しきものに火種と蝶の息 宇佐美魚目
【2023年3月の火曜日☆三倉十月のバックナンバー】
>>〔1〕窓眩し土を知らざるヒヤシンス 神野紗希
>>〔2〕家濡れて重たくなりぬ花辛夷 森賀まり
>>〔3〕菜の花月夜ですよネコが死ぬ夜ですよ 金原まさ子
>>〔4〕不健全図書を世に出しあたたかし 松本てふこ【←三倉十月さんの自選10句付】
【2023年3月の水曜日☆山口遼也のバックナンバー】
>>〔1〕鳥の巣に鳥が入つてゆくところ 波多野爽波
>>〔2〕砂浜の無数の笑窪鳥交る 鍵和田秞子
>>〔3〕大根の花まで飛んでありし下駄 波多野爽波
>>〔4〕カードキー旅寝の春の灯をともす トオイダイスケ
>>〔5〕桜貝長き翼の海の星 波多野爽波
【2023年2月の火曜日☆鈴木総史のバックナンバー】
>>〔6〕立春の零下二十度の吐息 三品吏紀
>>〔7〕背広来る来るジンギスカンを食べに来る 橋本喜夫
>>〔8〕北寄貝桶ゆすぶつて見せにけり 平川靖子
>>〔9〕地吹雪や蝦夷はからくれなゐの島 櫂未知子
【2023年2月の水曜日☆楠本奇蹄のバックナンバー】
>>〔1〕うらみつらみつらつら椿柵の向う 山岸由佳
>>〔2〕忘れゆくはやさで淡雪が乾く 佐々木紺
>>〔3〕雪虫のそつとくらがりそつと口笛 中嶋憲武
>>〔4〕さくら餅たちまち人に戻りけり 渋川京子
【2023年1月の火曜日☆鈴木総史のバックナンバー】
>>〔1〕年迎ふ父に胆石できたまま 島崎寛永
>>〔2〕初燈明背にあかつきの雪の音 髙橋千草
>>〔3〕蝦夷に生まれ金木犀の香を知らず 青山酔鳴
>>〔4〕流氷が繋ぐ北方領土かな 大槻独舟
>>〔5〕湖をこつんとのこし山眠る 松王かをり
【2023年1月の水曜日☆岡田由季のバックナンバー】
>>〔1〕さしあたり坐つてゐるか鵆見て 飯島晴子
>>〔2〕潜り際毬と見えたり鳰 中田剛
>>〔3〕笹鳴きに覚めて朝とも日暮れとも 中村苑子
>>〔4〕血を分けし者の寝息と梟と 遠藤由樹子
【2022年11・12月の火曜日☆赤松佑紀のバックナンバー】
>>〔1〕氷上と氷中同じ木のたましひ 板倉ケンタ
>>〔2〕凍港や旧露の街はありとのみ 山口誓子
>>〔3〕境内のぬかるみ神の発ちしあと 八染藍子
>>〔4〕舌荒れてをり猟銃に油差す 小澤實
>>〔5〕義士の日や途方に暮れて人の中 日原傳
>>〔6〕枯野ゆく最も遠き灯に魅かれ 鷹羽狩行
>>〔7〕胸の炎のボレロは雪をもて消さむ 文挾夫佐恵
>>〔8〕オルゴールめく牧舎にも聖夜の灯 鷹羽狩行
>>〔9〕去年今年詩累々とありにけり 竹下陶子
【2022年11・12月の水曜日☆近江文代のバックナンバー】
>>〔1〕泣きながら白鳥打てば雪がふる 松下カロ
>>〔2〕牡蠣フライ女の腹にて爆発する 大畑等
>>〔3〕誕生日の切符も自動改札に飲まれる 岡田幸生
>>〔4〕雪が降る千人針をご存じか 堀之内千代
>>〔5〕トローチのすつと消えすつと冬の滝 中嶋憲武
>>〔6〕鱶のあらい皿を洗えば皿は海 谷さやん
>>〔7〕橇にゐる母のざらざらしてきたる 宮本佳世乃
>>〔8〕セーターを脱いだかたちがすでに負け 岡野泰輔
>>〔9〕動かない方も温められている 芳賀博子
【2022年10月の火曜日☆太田うさぎ(復活!)のバックナンバー】
>>〔92〕老僧の忘れかけたる茸の城 小林衹郊
>>〔93〕輝きてビラ秋空にまだ高し 西澤春雪
>>〔94〕懐石の芋の葉にのり衣被 平林春子
>>〔95〕ひよんの実や昨日と違ふ風を見て 高橋安芸
【2022年9月の水曜日☆田口茉於のバックナンバー】
>>〔5〕運動会静かな廊下歩きをり 岡田由季
>>〔6〕後の月瑞穂の国の夜なりけり 村上鬼城
>>〔7〕秋冷やチーズに皮膚のやうなもの 小野あらた
>>〔8〕逢えぬなら思いぬ草紅葉にしゃがみ 池田澄子
【2022年9月の火曜日☆岡野泰輔のバックナンバー】
>>〔1〕帰るかな現金を白桃にして 原ゆき
>>〔2〕ビル、がく、ずれて、ゆくな、ん、てきれ、いき、れ なかはられいこ
>>〔3〕サフランもつて迅い太子についてゆく 飯島晴子
>>〔4〕琴墜ちてくる秋天をくらりくらり 金原まさ子
【2022年9月の水曜日☆田口茉於のバックナンバー】
>>〔1〕九月来る鏡の中の無音の樹 津川絵理子
>>〔2〕雨月なり後部座席に人眠らせ 榮猿丸
>>〔3〕秋思かがやくストローを嚙みながら 小川楓子
>>〔4〕いちじくを食べた子供の匂ひとか 鴇田智哉
【2022年6月の火曜日☆杉原祐之のバックナンバー】
>>〔1〕仔馬にも少し荷を付け時鳥 橋本鶏二
>>〔2〕ほととぎす孝君零君ききたまへ 京極杞陽
>>〔3〕いちまいの水田になりて暮れのこり 長谷川素逝
>>〔4〕雲の峰ぬつと東京駅の上 鈴木花蓑
【2022年6月の水曜日☆松野苑子のバックナンバー】
>>〔1〕でで虫の繰り出す肉に後れをとる 飯島晴子
>>〔2〕襖しめて空蟬を吹きくらすかな 飯島晴子
>>〔3〕螢とび疑ひぶかき親の箸 飯島晴子
>>〔4〕十薬の蕊高くわが荒野なり 飯島晴子
>>〔5〕丹田に力を入れて浮いて来い 飯島晴子
【2022年5月の火曜日☆沼尾將之のバックナンバー】
>>〔1〕田螺容れるほどに洗面器が古りし 加倉井秋を
>>〔2〕桐咲ける景色にいつも沼を感ず 加倉井秋を
>>〔3〕葉桜の夜へ手を出すための窓 加倉井秋を
>>〔4〕新綠を描くみどりをまぜてゐる 加倉井秋を
>>〔5〕美校生として征く額の花咲きぬ 加倉井秋を
【2022年5月の水曜日☆木田智美のバックナンバー】
>>〔1〕きりんの子かゞやく草を喰む五月 杉山久子
>>〔2〕甘き花呑みて緋鯉となりしかな 坊城俊樹
>>〔3〕ジェラートを売る青年の空腹よ 安里琉太
>>〔4〕いちごジャム塗れとおもちゃの剣で脅す 神野紗希
【2022年4月の火曜日☆九堂夜想のバックナンバー】
>>〔1〕回廊をのむ回廊のアヴェ・マリア 豊口陽子
>>〔2〕未生以前の石笛までも刎ねる 小野初江
>>〔3〕水鳥の和音に還る手毬唄 吉村毬子
>>〔4〕星老いる日の大蛤を生みぬ 三枝桂子
【2022年4月の水曜日☆大西朋のバックナンバー】
>>〔1〕大利根にほどけそめたる春の雲 安東次男
>>〔2〕回廊をのむ回廊のアヴェ・マリア 豊口陽子
>>〔3〕田に人のゐるやすらぎに春の雲 宇佐美魚目
>>〔4〕鶯や米原の町濡れやすく 加藤喜代子
【2022年3月の火曜日☆松尾清隆のバックナンバー】
>>〔1〕死はいやぞ其きさらぎの二日灸 正岡子規
>>〔2〕菜の花やはつとあかるき町はつれ 正岡子規
>>〔3〕春や昔十五万石の城下哉 正岡子規
>>〔4〕蛤の吐いたやうなる港かな 正岡子規
>>〔5〕おとつさんこんなに花がちつてるよ 正岡子規
【2022年3月の水曜日☆藤本智子のバックナンバー】
>>〔1〕蝌蚪乱れ一大交響楽おこる 野見山朱鳥
>>〔2〕廃墟春日首なきイエス胴なき使徒 野見山朱鳥
>>〔3〕春天の塔上翼なき人等 野見山朱鳥
>>〔4〕春星や言葉の棘はぬけがたし 野見山朱鳥
>>〔5〕春愁は人なき都会魚なき海 野見山朱鳥
【2022年2月の火曜日☆永山智郎のバックナンバー】
>>〔1〕年玉受く何も握れぬ手でありしが 髙柳克弘
>>〔2〕復讐の馬乗りの僕嗤っていた 福田若之
>>〔3〕片蔭の死角から攻め落としけり 兒玉鈴音
>>〔4〕おそろしき一直線の彼方かな 畠山弘
【2022年2月の水曜日☆内村恭子のバックナンバー】
>>〔1〕琅玕や一月沼の横たはり 石田波郷
>>〔2〕ミシン台並びやすめり針供養 石田波郷
>>〔3〕ひざにゐて猫涅槃図に間に合はず 有馬朗人
>>〔4〕仕る手に笛もなし古雛 松本たかし
【2022年1月の火曜日☆菅敦のバックナンバー】
>>〔1〕賀の客の若きあぐらはよかりけり 能村登四郎
>>〔2〕血を血で洗ふ絨毯の吸へる血は 中原道夫
>>〔3〕鉄瓶の音こそ佳けれ雪催 潮田幸司
>>〔4〕嗚呼これは温室独特の匂ひ 田口武
【2022年1月の水曜日☆吉田林檎のバックナンバー】
>>〔1〕水底に届かぬ雪の白さかな 蜂谷一人
>>〔2〕嚔して酒のあらかたこぼれたる 岸本葉子
>>〔3〕呼吸するごとく雪降るヘルシンキ 細谷喨々
>>〔4〕胎動に覚め金色の冬林檎 神野紗希
【2021年12月の火曜日☆小滝肇のバックナンバー】
>>〔1〕柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺 正岡子規
>>〔2〕内装がしばらく見えて昼の火事 岡野泰輔
>>〔3〕なだらかな坂数へ日のとある日の 太田うさぎ
>>〔4〕共にゐてさみしき獣初しぐれ 中町とおと
【2021年12月の水曜日☆川原風人のバックナンバー】
>>〔1〕綿入が似合う淋しいけど似合う 大庭紫逢
>>〔2〕枯葉言ふ「最期とは軽いこの音さ」 林翔
>>〔3〕鏡台や猟銃音の湖心より 藺草慶子
>>〔4〕みな聖樹に吊られてをりぬ羽持てど 堀田季何
>>〔5〕ともかくもくはへし煙草懐手 木下夕爾
【2021年11月の火曜日☆望月清彦のバックナンバー】
>>〔1〕海くれて鴨のこゑほのかに白し 芭蕉
>>〔2〕木枯やたけにかくれてしづまりぬ 芭蕉
>>〔3〕葱白く洗ひたてたるさむさ哉 芭蕉
>>〔4〕埋火もきゆやなみだの烹る音 芭蕉
>>〔5-1〕蝶落ちて大音響の結氷期 富沢赤黄男【前編】
>>〔5-2〕蝶落ちて大音響の結氷期 富沢赤黄男【後編】
【2021年11月の水曜日☆町田無鹿のバックナンバー】
>>〔1〕秋灯机の上の幾山河 吉屋信子
>>〔2〕息ながきパイプオルガン底冷えす 津川絵理子
>>〔3〕後輩の女おでんに泣きじゃくる 加藤又三郎
>>〔4〕未婚一生洗ひし足袋の合掌す 寺田京子
【2021年10月の火曜日☆千々和恵美子のバックナンバー】
>>〔1〕橡の実のつぶて颪や豊前坊 杉田久女
>>〔2〕鶴の来るために大空あけて待つ 後藤比奈夫
>>〔3〕どつさりと菊着せられて切腹す 仙田洋子
>>〔4〕藁の栓してみちのくの濁酒 山口青邨
【2021年10月の水曜日☆小田島渚のバックナンバー】
>>〔1〕秋の川真白な石を拾ひけり 夏目漱石
>>〔2〕稻光 碎カレシモノ ヒシメキアイ 富澤赤黄男
>>〔3〕嵐の埠頭蹴る油にもまみれ針なき時計 赤尾兜子
>>〔4〕野分吾が鼻孔を出でて遊ぶかな 永田耕衣
【セクト・ポクリット管理人より読者のみなさまへ】