鷹鳩と化して大いに恋をせよ 仙田洋子【季語=鷹鳩と化す(春)】


鷹鳩と化して大いに恋をせよ

仙田洋子

 この度のわが人生の節目。自分達では結婚披露パーティーはしなかったが、句会ごとに様々な形で催してくれていて有り難い限りである。雪・霙の中吟行したこともあった。俳人らしい祝い方が痛快。若手句会(by俳人協会)の卒業生による「マンハッタン句会」が「屋根裏バル 鱗kokera」で催してくれた会は、参加者全員の署名による人前式のほか駅をはさんだ「宵待屋珈琲店」店主による手作りケーキへの入刀など、大いに手間暇のかかった暖かい会であった。

 「鱗」での会の当日は浮かれていて全く気がつかなかったのだが、後から聞いた話では独身者も結婚生活のベテランもみんな恋したくなったと話をしていたという。かつて心に深く傷を負った仲間が前向きになっている姿も見た。つくづくこの会を実行してくれた仲間に感謝。みんな、恋しちゃえ!

 社会人を長く続けていると自然発生的な恋にはほとんど出会うことがない。まずは相手が既婚者かどうか確認しなければならず、独身と言うことが確認てきたから「では今から…」と急に好きになれるものでもない。大人になったら降ってくるのを待つだけではなく自分で環境や出会いの機会を整えていく必要がある。

 では私の場合はどうだったのかということを書き連ねると俳句の話に戻ってこれなくなるので割愛いたします。

鷹鳩と化して大いに恋をせよ

 この句で思い出すのは〈これよりは恋や事業や水温む 虚子〉。東京高等商業学校(現一橋大学)の卒業生に贈られた句である。暖かくなってきたことだし、もっと活動的になれば 良い。進学にせよ就職にせよ明日への希望が湧いてくる句である。

 掲句はそこから一歩踏み込み、心を柔軟に構えてうららかな陽気に任せ、何も気にせず恋をしなさい、というより明確なメッセージが読み取れる。鷹が鳩となるような春日和。冒頭には鳥類の名前が並び、鳥の恋も連想させる。

 若くても大御所のような句を作ることはできるが、このように大らかに背中を押してくれるようは一句を授かるにはある程度人生経験が必要である。しかしあまりにも年齢を重ねてしまうと恋せよなどというメッセージは空々しいものになってしまう恐れがある。作者もまた恋をしていそうな程良い年齢であることが肝要だ。

 実はこの記事を書くにあたり同じ句集の別の句にするか迷っていた。そんな時、大谷翔平結婚のニュースが飛び込んできた。野球だけでなく一人の女性にも恋をしていたのだ。人が人を愛しているのを知る事は温かいことだと知り掲句に決めたのである。

『はばたき』(2019年刊)所収。

吉田林檎


【執筆者プロフィール】
吉田林檎(よしだ・りんご)
昭和46年(1971)東京生まれ。平成20年(2008)に西村和子指導の「パラソル句会」に参加して俳句をはじめる。平成22年(2010)「知音」入会。平成25年(2013)「知音」同人、平成27年(2015)第3回星野立子賞新人賞受賞、平成28年(2016)第5回青炎賞(「知音」新人賞)を受賞。俳人協会会員。句集に『スカラ座』(ふらんす堂、2019年)


【吉田林檎さんの句集『スカラ座』(ふらんす堂、2019年)はこちら ↓】



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>>〔53〕雷をおそれぬ者はおろかなり    良寛
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>>〔14〕向いてゐる方へは飛べぬばつたかな 抜井諒一
>>〔13〕膝枕ちと汗ばみし残暑かな     桂米朝
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>>〔7〕してみむとてするなり我も日傘さす 種谷良二
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>>〔3〕呼吸するごとく雪降るヘルシンキ 細谷喨々
>>〔2〕嚔して酒のあらかたこぼれたる  岸本葉子
>>〔1〕水底に届かぬ雪の白さかな    蜂谷一人


【セクト・ポクリット管理人より読者のみなさまへ】

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