【毎日更新】俳人事典(50音順)

*「ハイクノミカタ」(2019年9月1日〜現在)までに取り上げられた俳句を、作者の五十音順にまとめたページです。(一部まだ追加できていません)

【あ行】
青柳飛(あおやぎ・ふぇい)  〈魚は氷に上るや恋の扉開く
赤尾兜子(あかお・とうし)1925年ー1981年 〈煌々と渇き渚・渚をずりゆく艾
秋元不死男 1901年ー1977年 〈楽譜読めぬ子雲をつれて親夏雲〉〈めちやくちやなどぜうの浮沈台風くる〉〈厨房に貝があるくよ雛祭〉〈ひら/\と猫が乳吞む厄日かな〉〈棕梠の葉に高き雨垂れ青峰忌
渥美清(あつみ・きよし)1928年ー1996年 〈赤とんぼじっとしたまま明日どうする
阿部完市(あべ・かんいち)1928年ー2009年 〈すきとおるそこは太鼓をたたいてとおる〉〈すきとおるそこは太鼓をたたいてとおる〉〈しろい小さいお面いっぱい一茶のくに
阿部青鞋(あべ・せいあい)1914年ー1989年 〈指さして七夕竹をこはがる子〉〈或るときのたつた一つの干葡萄〉〈春林をわれ落涙のごとく出る〉〈同じ事を二本のレール思はざる
有馬朗人(ありま・あきと)1930年ー2020年 〈鳥不意に人語を発す更衣〉〈マグダラのマリア恋しや芥子の花〉〈ひざにゐて猫涅槃図に間に合はず〉〈天狼やアインシュタインの世紀果つ
安西水丸(あんざい・みずまる)1942年ー2014年 〈冷やっこ試行錯誤のなかにあり
飯島晴子(いいじま・はるこ)1929年ー2000年 〈泉の底に一本の匙夏了る〉〈かくも濃き桜吹雪に覚えなし〉〈大風の春葱畠真直来よ〉〈二人でかぶる風折烏帽子うぐひすとぶ〉〈蜷のみち淡くなりてより来し我ぞ〉〈雛まつり杉の迅さのくらやみ川〉〈鶯に蔵をつめたくしておかむ〉〈紅梅の気色たゞよふ石の中〉〈辛酸のほどは椿の絵をかけて〉〈白梅や粥の面てを裏切らむ〉〈雪兎なんぼつくれば声通る〉〈髪で捲く鏡や冬の谷底に〉〈ひきつゞき身のそばにおく雪兎〉〈人の日の枯枝にのるひかりかな〉〈年逝くや兎は頰を震はせて
飯田晴(いいだ・はれ)1954年ー 〈菊食うて夜といふなめらかな川〉〈温室の空がきれいに区切らるる
飯田龍太(いいだ・りゅうた)1920年ー2007年 〈黒服の春暑き列上野出づ〉〈大寒の一戸もかくれなき故郷〉〈大年の夜に入る多摩の流れかな〉〈白息の駿馬かくれもなき曠野〉〈抱く吾子も梅雨の重みといふべしや
五十嵐浜藻(いがらし・はまも)1772年ー1848年 〈ふくらかに桔梗のような子が欲しや
池田澄子(いけだ・すみこ)1936年ー 〈泣くときの唇伸びて月夜かな〉〈青嵐神社があったので拝む〉〈死も佳さそう黒豆じっくり煮るも佳し〉〈集いて別れのヨオーッと一本締め 雪か〉〈逢えぬなら思いぬ草紅葉にしゃがみ〉〈椿咲くたびに逢いたくなっちゃだめ〉〈生きるの大好き冬のはじめが春に似て〉〈ごーやーちゃんぷるーときどき人が泣く
石寒太(いし・かんた)1943年ー 〈少年の雨の匂ひやかぶと虫
石田郷子(いしだ・きょうこ)1958年ー 〈さへづりのだんだん吾を容れにけり
石田波郷(いしだ・はきょう) 〈麻薬うてば十三夜月遁走す〉〈葛咲くや嬬恋村の字いくつ〉〈秋めくや焼鳥を食ふひとの恋〉〈起座し得て爽涼の風背を渡る〉〈六月の女すわれる荒筵〉〈プラタナス夜もみどりなる夏は来ぬ〉〈あえかなる薔薇撰りをれば春の雷〉〈ミシン台並びやすめり針供養〉〈琅玕や一月沼の横たはり〉〈風の日や風吹きすさぶ秋刀魚の値
磯貝碧蹄館(いそがい・へきていかん)1924年ー2013年 〈啜り泣く浅蜊のために灯を消せよ
池田瑠那(いけだ・るな)1976年ー 〈花散るや金輪際のそこひまで
伊藤伊那男(いとう・いなお)1949年ー 〈奥は雲中千本の桜かな〉〈黴くさし男やもめとなりてより
稲畑廣太郎(いなはた・こうたろう)1957年ー 〈戦艦の生れしドック小鳥来る
◯稲畑汀子(いなはた・ていこ)1931年ー2022年 〈留守の家の金魚に部屋の灯を残し〉〈三椏の花三三が九三三が九〉〈月かげにみな美しき庭のもの〉〈赤ばかり咲いて淋しき牡丹かな〉〈アルプスの雪渓見えてくる離陸〉〈白魚の命の透けて水動く〉〈なぐさめてくるゝあたゝかなりし冬〉〈落椿とはとつぜんに華やげる〉〈この出遭ひこそクリスマスプレゼント〉〈どちらかと言へば麦茶の有難く
乾佐伎(いぬい・さき)1990年ー 〈口笛を吹いて晩夏の雲を呼ぶ
今井杏太郎(いまい・きょうたろう)1928年ー2012年 〈葛切を食べて賢くなりしかな〉〈さういへばもう秋か風吹きにけり〉〈戸隠の山より風邪の神の来る
今井肖子(いまい・しょうこ) 1954年ー 〈ががんぼの何が幸せ不幸せ
今井聖(いまい・せい)1950年ー 〈什器全て鈍器に見えて冬籠〉〈流星も入れてドロップ缶に蓋〉〈永遠に下る九月の明るい坂
岩田奎(いわた・けい)1999年ー 〈寒卵良い学校へゆくために〉〈旅いつも雲に抜かれて大花野
岩田由美(いわた・ゆみ)1961年ー 〈鯖買ふと決めて出てゆく茂かな〉〈卒業歌ぴたりと止みて後は風〉〈恋の句の一つとてなき葛湯かな
上島鬼貫(うえしま・おにつら)1661年ー1738年 〈そよりともせいで秋たつことかいの
上田五千石(うえだ・ごせんごく)1933年ー1997年 〈冴返るまだ粗玉の詩句抱き〉〈水鏡してあぢさゐのけふの色
右城暮石(うしろ・ぼせき)1899年ー1995年 〈数へ日の残り日二日のみとなる〉〈妻の遺品ならざるはなし春星も
宇多喜代子(うだ・きよこ)1935年ー 〈ついそこと言うてどこまで鰯雲〉〈あきざくら咽喉に穴あく情死かな〉〈姦通よ夏木のそよぐ夕まぐれ〉〈黒鯛のけむれる方へ漕ぎ出づる〉〈麦よ死は黄一色と思いこむ〉〈ペスト黒死病コレラは虎列刺コロナは何と〉〈サマーセーター前後不明を着こなしぬ〉〈夏落葉降るや起ちても座りても
内田美紗(うちだ・みさ)1936年ー 〈十六夜や間違ひ電話の声に惚れ
内堀いっぽ(うちぼり・いっぽ) 〈ラベンダー添へたる妻の置手紙
江渡華子(えと・はなこ)1984年ー 〈クリームパンにクリームぎつしり雲の峰
遠藤由樹子(えんどう・ゆきこ)1957年ー 〈血を分けし者の寝息と梟と〉〈きちかうの開きて青き翅脈かな〉〈青嵐神木もまた育ちゆく〉〈江の島の賑やかな日の仔猫かな
大木あまり(おおき・あまり)1941年ー 〈松本清張のやうな口して黒き鯛〉〈寒月下あにいもうとのやうに寝て〉〈金閣をにらむ裸の翁かな
大串章(おおぐし・あきら)1937年ー 〈泉に手浸し言葉の湧くを待つ〉〈絵葉書の消印は流氷の町
太田うさぎ(おおた・うさぎ)1963年ー 〈エリックのばかばかばかと桜降る〉〈Tシャツに曰くバナナの共和国
太田壽子(おおた・としこ) 〈春雷の一喝父の忌なりけり
大西晶子(おおにし・あきこ) 〈秋の蚊を打ち腹巻の銭を出す
大西泰世(おおにし・やすよ)1949年ー 〈生涯の恋の数ほど曼珠沙華
大野朱香(おおの・しゅか)1955年ー2012年 〈女湯に女ぎつしり豊の秋〉〈飯蛸に昼の花火がぽんぽんと
大野林火(おおの・りんか)1904年ー1982年 〈ねむりても旅の花火の胸にひらく
◯大牧広(おおまき・ひろし)1931年ー2019年 〈若き日の映画も見たりして二日〉〈駅蕎麦の旨くなりゆく秋の風〉〈秋蝶の転校生のやうに来し〉〈夏しんと遠くめぐらす朝の森
大屋達治(おおや・たつはる)1952年ー 〈泥棒の恋や月より吊る洋燈
小川楓子(おがわ・ふうこ)1983年ー 〈にんじんサラダわたし奥様ぢやないぞ〉〈どれも椋鳥ごきげんよう文化祭〉〈秋思かがやくストローを嚙みながら
小澤克己(おざわ・かつみ)1949年ー2010年 〈毛糸玉秘密を芯に巻かれけり
越智友亮(おち・ゆうすけ)1991年ー 〈彼岸花みんなが傘を差すので差す〉〈枇杷の花ふつうの未来だといいな〉〈天高し鞄に辞書のかたくある
小津夜景(おづ・やけい)1973年ー 〈黒繻子にジャズのきこゆる花火かな〉〈秋虱痼
小野裕三(おの・ゆうぞう)1968年ー 〈品川はみな鳥のような人たち
小原大葉(おはら・たいよう) 〈トラツクが西瓜畑に横づけに
恩田侑布子(おんだ・ゆうこ)1956年ー 〈影ひとつくださいといふ雪女〉〈夏草を分けまつさをな妣の国



【か行】
加藤郁乎(かとう・いくや)1929年ー2012年 〈古池やにとんだ蛙で蜘蛛るTELかな〉〈牡丹ていっくに蕪村ずること二三片〉〈ひめはじめ昔男に腰の物〉〈昼顔の見えるひるすぎぽるとがる
加藤楸邨(かとう・しゅうそん)1905年ー1993年 〈汗の女体に岩手山塊殺到す〉〈卒業す片恋少女鮮烈に〉〈百代の過客しんがりに猫の子も〉〈霜夜子は泣く父母よりはるかなものを呼び〉〈隠岐やいま木の芽をかこむ怒濤かな〉〈冴えかへるもののひとつに夜の鼻
加藤三七子(かとう・みなこ)1925年ー2005年 〈誰をおもひかくもやさしき雛の眉
◯角川春樹(かどかわ・はるき)1942年ー 〈宵山の装ひ解かず抱かれけり
金子敦(かねこ・あつし)1959年ー 〈春満月そは大いなる糖衣錠〉〈干されたるシーツ帆となる五月晴
金子兜太(かねこ・とうた)1919年ー2018年 〈冷房とまる高階純愛の男女残し〉〈ほこりつぽい叙情とか灯を積む彼方の街〉〈青年鹿を愛せり嵐の斜面にて〉〈彎曲し火傷し爆心地のマラソン〉〈梅咲いて庭中に青鮫が来ている
鎌田恭輔(かまた・きょうすけ) 〈早乙女のもどりは眼鏡掛けてをり
川田由美子(かわだ・ゆみこ) 〈夏つばめ気流の冠をください
木村定生(きむら・さだお) 〈夕飯よけふは昼寝をせぬままに
金原まさ子(きんばら・まさこ)1911年ー2017年 〈菜の花月夜ですよネコが死ぬ夜ですよ〉〈琴墜ちてくる秋天をくらりくらり〉〈聞えない耳なら石榴ぶらさげよ
国代鶏侍(くにしろ・けいじ)?ー2024年 〈世直しをしてきたやうないぼむしり
◯倉田紘文(くらた・こうぶん)1940年ー2014年  〈夏山に噂の恐き二人かな〉〈かなかなと鳴きまた人を悲します
黒岩徳将(くろいわ・とくまさ)1990年ー 〈白玉やバンド解散しても会ふ
神野紗希(こうの・さき)1983年ー 〈すこし待ってやはりさっきの花火で最後〉〈許したい許したい真っ青な毛糸〈初夢のあとアボカドの種まんまる〉〈永遠とポップコーンと冬銀河〉〈窓眩し土を知らざるヒヤシンス〉〈いちごジャム塗れとおもちゃの剣で脅す〉〈胎動に覚め金色の冬林檎〉〈カンバスの余白八月十五日〉〈ひきだしに海を映さぬサングラス
小池文子(こいけ・ふみこ)1920年ー2001年 〈花いばら髪ふれあひてめざめあふ
古勝敦子(こがち・あつこ) 〈泣き止めばいつもの葡萄ではないか
後閑達雄(ごかん・たつお)1969年ー 〈鈴虫や母を眠らす偽薬〉〈ポケットにギターのピック鰯雲
小浜杜子男(こはま・としお) 〈マンホール出て蝙蝠となる男
後藤夜半(ごとう・やはん)1895年ー1976年 〈針供養といふことをしてそと遊ぶ〉〈紙魚の跡たどりて紙魚に逢はんとす〉〈風邪を引くいのちありしと思ふかな〉〈からたちの花のほそみち金魚売〉〈又の名のゆうれい草と遊びけり
このはる紗耶(このはる・さや)1974年ー 〈星座になれば幸せですか秋の果
小山玄紀(こやま・げんき)1997年ー 〈しろがねの盆の無限に夏館〉〈百合のある方と狐のゐる方と〉〈妹は滝の扉を恣〉〈妹の手をとり水の香の方へ

【さ行】
三枝桂子(さえぐさ・けいこ)〈星老いる日の大蛤を生みぬ
酒井湧水(さかい・ゆうすい) 〈朝涼や平和を祈る指の節
阪西敦子(さかにし・あつこ)1977年ー 〈身支度は誰より早く旅涼し〉〈蜃気楼博士ばかりが現れし〉〈ラガーらの目に一瞬の空戻る
◯坂本宮尾(さかもと・みやお)1945年ー 〈ぬばたまの夜やひと触れし髪洗ふ〉〈冬銀河旅鞄より流れ出す
佐藤智子(さとう・ともこ)1980年ー 〈新蕎麦や全部全部嘘じゃないよ南無〉〈薫風や今メンバー紹介のとこ
塩見恵介(しおみ・けいすけ)1971年ー 〈スタートライン最後に引いて運動会〉〈忘年会みんなで逃がす青い鳥〈いちじくはジャムにあなたは元カレに
清水径子(しみず・けいこ)1911年ー2005年 〈山椒の実噛み愛憎の身の細り
下村梅子(しもむら・うめこ)1912年−2014年 〈をとこをみな明日なきごとく踊るかな
◯菅波祐太(すがなみ・ゆうた)1983年ー 〈裁判所金魚一匹しかをらず
杉浦圭祐(すぎうら・けいすけ)1968年ー 〈他人とは自分のひとり残る雪
鈴木総史(すずき・そうし)1996年ー 〈メロン食ふたちまち湖を作りつつ
鈴木六林男(すずき・むりお)1919年ー2004年 〈昼寝よりさめて寝ている者を見る〉〈蛇を知らぬ天才とゐて風の中〉〈かなしきかな性病院の煙出〉〈暗闇の眼玉濡さず泳ぐなり
涼野海音(すずの・うみね)1981年ー 〈蓑虫の蓑脱いでゐる日曜日〉〈秋草の揺れの移れる体かな〉〈待ち人の来ず赤い羽根吹かれをり
攝津幸彦(せっつ・ゆきひこ)1947年ー1999年 〈弟へ恋と湯婆ゆづります〉〈幾千代も散るは美し明日は三越〉〈幾千代も散るは美し明日は三越〉〈糸電話古人の秋につながりぬ
仙田洋子(せんだ・ようこ)1962年ー 〈鷹鳩と化して大いに恋をせよ〉〈さくら貝黙うつくしく恋しあふ〉〈どつさりと菊着せられて切腹す〉〈じゆてーむと呟いてゐる鯰かな〉〈原爆忌誰もあやまつてはくれず〉〈肩につく影こそばゆし浜日傘
草子洗(そうしあらい)1975年ー 〈草木のすつと立ちたる良夜かな

【た行】
対中いずみ(たいなか・いずみ)1956年ー 〈菱形に赤子をくるみ夏座敷〉〈対岸の比良や比叡や麦青む〉〈浅春の岸辺は龍の匂ひせる
高濱虚子(たかはま・きょし)1874年ー1959年 〈よし切りや水車はゆるく廻りをり〉〈春風や闘志いだきて丘に立つ〉〈龍の玉深く蔵すといふことを〉〈なく声の大いなるかな汗疹の児〉〈秋風や眼中のもの皆俳句〉〈巡査つと来てラムネ瓶さかしまに〉〈鎌倉を驚かしたる余寒あり〉〈先生が瓜盗人でおはせしか〉〈蛇の衣傍にあり憩ひけり〉〈春山もこめて温泉の国造り〉〈ばばばかと書かれし壁の干菜かな〉〈年を以て巨人としたり歩み去る〉〈旗のごとなびく冬日をふと見たり〉〈一月や去年の日記なほ机辺〉〈子規逝くや十七日の月明に〉〈去年今年貫く棒の如きもの〉〈うつくしき羽子板市や買はで過ぐ〉〈大空に伸び傾ける冬木かな〉〈はなびらの垂れて静かや花菖蒲〉〈川を見るバナナの皮は手より落ち
◯髙柳克弘(たかやなぎ・かつひろ)1980年ー 〈神は死んだプールの底の白い線
高山れおな(たかやま・れおな)1968年ー 〈七夕や若く愚かに嗅ぎあへる
瀧井孝作(たきい・こうすけ)1894年ー1984年 〈海苔あぶる手もとも袖も美しき
田島健一(たじま・けんいち)1973年ー 〈妻となる人五月の波に近づきぬ〉〈霧晴れてときどき雲を見る読書
田中裕明(たなか・ひろあき)1959年ー2004年 〈空へゆく階段のなし稲の花〉〈本の背は金の文字押し胡麻の花〉〈いつまでもからだふるへる菜の花よ〉〈眼前にある花の句とその花と〉〈古きよき俳句を読めり寝正月〉〈目のなかに芒原あり森賀まり〉〈くらき瀧茅の輪の奥に落ちにけり〉〈好きな繪の賣れずにあれば草紅葉〉〈渚にて金澤のこと菊のこと〉〈食欲の戻りてきたる子規忌かな〉〈悉く全集にあり衣被
田村奏天(たむら・かなめ)2000年ー 〈つめたいてのひら 月が淋しくないように
津川絵理子(つがわ・えりこ)1968年ー 〈生きのよき魚つめたし花蘇芳〉〈時雨るるや新幹線の長きかほ〉〈九月来る鏡の中の無音の樹〉〈息ながきパイプオルガン底冷えす〉〈止まり木に鳥の一日ヒヤシンス〉〈軋みつつ花束となるチューリップ〉〈革靴の光の揃ふ今朝の冬
対馬康子(つしま・やすこ)1953年ー 〈純愛や十字十字の冬木立〉〈耳立てて林檎の兎沈めおり
寺澤始(てらさわ・はじめ)1970年ー 〈顔を見て出席を取る震災忌
寺田京子(てらだ・きょうこ)1922年ー1976年 〈金色の種まき赤児がささやくよ〉〈未婚一生洗ひし足袋の合掌す〉〈死なさじと肩つかまるゝ氷の下
峠谷清広(とうげたに・きよひろ)1957年ー 〈東京や涙が蟻になってゆく
◯土橋螢(どばし・けい)〈切腹をしたことがない腹を撫で
富澤赤黄男(とみざわ・かきお)1902年ー1962年 〈赤い月にんげんしろき足そらす〉〈稻光 碎カレシモノ ヒシメキアイ
富永寒四郎(とみなが・かんしろう)1913年ー1986年 〈緋のカンナ夜の女体とひらひらす
鳥居真里子(とりい・まりこ)1948年ー 〈鳥の恋いま白髪となる途中

【な行】
中井余花朗(なかい・よかろう) 〈酒醸す色とは白や米その他
中西亮太(なかにし・りょうた) 1992年ー 〈秋の蚊の志なく飛びゆけり
中原道夫(なかはら・みちお)1951年ー 〈白魚のさかなたること略しけり〉〈天使魚の愛うらおもてそして裏〉〈血を血で洗ふ絨毯の吸へる血は〉〈萩に雨こんな日もなければ困る
中村汀女(なかむら・ていじょ)1900年ー1988年 〈あひふれしさみだれ傘の重かりし〉〈小燕のさヾめき誰も聞き流し
中村憲子(なかむら・のりこ) 〈恋の刻急げ アリスの兎もぐもぐもぐ
夏井いつき(なつい・いつき)1957年ー 〈抱きしめてもらへぬ春の魚では〉〈はるかよりはるかへ蜩のひびく
行方克巳(なめかた・かつみ)1944年ー 〈冬河原のつぴきならぬ恋ならめ〉〈生涯のいま午後何時鰯雲
西村麒麟(にしむら・きりん)1983年ー 〈酒足りてゐるか新米まだあるか〉〈いつまでも死なぬ金魚と思ひしが〉〈馬鈴薯の一生分が土の上〉〈アロハ来て息子の嫁を眺めをり
抜井諒一(ぬくい・りょういち)1982年ー 〈向いてゐる方へは飛べぬばつたかな〉〈対岸や壁のごとくに虫の闇
能村登四郎(のむら・としろう)1911年ー2001年 〈巴里祭わが巴里の日も遠ざかる〉〈季すぎし西瓜を音もなく食へり〉〈跳ぶ時の内股しろき蟇〉〈梅漬けてあかき妻の手夜は愛す〉〈蓮ほどの枯れぶりなくて男われ〉〈略図よく書けて忘年会だより

【は行】
◯橋本蝸角 〈今もある須磨療養所獺祭忌
橋本小たか(はしもと・こたか)1974年ー 〈曼珠沙華傾くまいとしてをりぬ
橋本喜夫(はしもと・よしお)1957年ー 〈聴診に一生の秋を聴きにけり
長谷川秋子(はせがわ・あきこ)1926年ー1973年 〈愛に安心なしコスモスの揺れどほし〉〈秋鰺の青流すほど水をかけ
◯畑耕一(はた・こういち)1886年ー1957年 〈恋人はめんどうな人さくらんぼ
波多野爽波(はたの・そうは)1923年ー2001年 〈まひるまの秋刀魚の長く焼かれあり
秦夕美(はた・ゆみ)1938年ー2023年 〈海市あり別れて匂ふ男あり〉〈ものゝふの掟はしらず蜆汁〉〈付喪神いま立ちかへる液雨かな
八田木枯(はった・こがらし)1925年ー2012年 〈八月は常なる月ぞ耐へしのべ〉〈立読みの少年夏は斜めに過ぎ
服部郁史(はっとり・いくし) 〈マンゴー売るペットの鸚鵡肩に止め
馬場叶羽(ばば・かなう)2004年ー 〈火ぶくれの地球の只中に日傘
原子公平(はらこ・こうへい)1919年ー2004年 〈街の縮図が薔薇挿すコップの面にあり
原裕(はら・ゆたか)1930年ー1999年 〈おとろへし親におどろく野分かな
◯林誠司(はやし・せいじ)1965年ー 〈母の日の義母にかなしきことを告ぐ
◯日下野由季(ひがの・ゆき)1977年ー 〈これ以上愛せぬ水を打つてをり
日野草城(ひの・そうじょう)1901年ー1956年 〈樹も草もしづかにて梅雨はじまりぬ〉〈ラヂオさへ黙せり寒の曇り日を〉〈〉
平田修(ひらた・しゅう)ー2006年 〈六畳葉っぱの死ねない唇の元気〉〈かがみ込めば冷たい水の水六畳〉〈握れば冷たい個人の鍵と富士宮〉〈生まれて来たか九月に近い空の色〉〈身の奥の奥に蛍を詰めてゆく〉〈芥回収ひしめくひしめく楽アヒル〉〈えんえんと僕の素性の八月へ〉〈まなぶたを薄くめくった海がある〉〈夏まっさかり俺さかさまに家離る〉〈純粋な水が死に水花杏〉〈かなしみへけん命になる螢でいる
広渡敬雄(ひろわたり・たかお)1951年ー 〈ゴーヤチャンプルなるやうにしかならぬ〉〈あり余る有給休暇鳥の恋〉〈横顔は子規に若くなしラフランス〉〈犬の仔のすぐにおとなや草の花
深見けん二(ふかみ・けんじ)1922年ー2021年 〈ふところに四万六千日の風〉〈人はみななにかにはげみ初桜〉〈薄氷の吹かれて端の重なれる〉〈先生はいつもはるかや虚子忌来る〉〈見るうちに開き加はり初桜〉〈ふくしまに生れ今年の菊膾〉〈こまごまと大河のごとく蟻の列
福田若之(ふくだ・わかゆき)1991年ー 〈僕のほかに腐るものなく西日の部屋
藤井あかり(ふじい・あかり)1980 年ー 〈もの書けば余白の生まれ秋隣〉〈人悼む時のみぞおち青嵐
藤木倶子(ふじき・ともこ)1931ー2018年 〈瀧壺を離れし水に歩を合はす
藤田哲史(ふじた・さとし)1987年ー 〈蟷螂にコップ被せて閉じ込むる
藤田直子(ふじた・なおこ) 1950年ー 〈秋麗の柩にもたれ眠りけり
藤本夕衣(ふじもと・ゆい)1979年ー 〈片足はみづうみに立ち秋の人〉〈どの絵にも前のめりして秋の人
佛原明澄(ぶつはら・めいちょう)1934年ー 〈一つだに動かぬ干梅となりて
古沢太穂(ふるさわ・たいほ)1913年ー2000年 〈赤んぼころがり昼寝の漁婦に試射砲音
冬野虹(ふゆの・にじ)1943年ー2002年 〈向日葵の闇近く居る水死人〉〈つゆくさをちりばめここにねむりなさい
坊城俊樹(ぼうじょう・としき)1957年ー 〈永遠のステンドグラス秋日濃し〉〈鴨が来て池が愉快となりしかな
星野立子(ほしの・たつこ)1904年ー1984年 〈いつの間にがらりと涼しチョコレート〉〈吾も春の野に下りたてば紫に〉〈電車いままつしぐらなり桐の花〉〈誰もみなコーヒーが好き花曇〉〈雛節句一夜過ぎ早や二夜過ぎ〉〈来て見れば来てよかりしよ梅椿〉〈しんしんと寒さがたのし歩みゆく〉〈美しき緑走れり夏料理〉〈大いなる春を惜しみつ家に在り〉〈雛飾りつゝふと命惜しきかな〉〈春雷や刻来り去り遠ざかり〉〈幻影の春泥に投げ出されし靴〉〈悲しみもありて松過ぎゆくままに
堀井春一郎(ほりい・しゅんいちろう)1927年ー1976年 〈クリスマス「君と結婚していたら」〉〈太宰忌や誰が喀啖の青みどろ
堀切克洋(ほりきり・かつひろ)1983年ー 

【ま行】
前北かおる(まえきた・かおる)1978年ー 〈大空へ解き放たれし燕かな
正岡子規(まさおか・しき)1867年ー1902年 〈十一人一人になりて秋の暮
正木ゆう子(まさき・ゆうこ)1952年ー 〈魔がさして糸瓜となりぬどうもどうも〉〈寒いねと彼は煙草に火を点ける〉〈やがてわが真中を通る雪解川
松本恭子(まつもと・きょうこ)1958年ー 〈恋ふたつ レモンはうまく切れません
松本たかし(まつもと・たかし)1906年ー1956年 〈雨音のかむさりにけり虫の宿〉〈金魚大鱗夕焼の空の如きあり〉〈とつぷりと後ろ暮れゐし焚火かな〉〈仕る手に笛もなし古雛〉〈世にまじり立たなんとして朝寝かな〉〈水仙や古鏡の如く花をかかぐ
三島広志(みしま・ひろし)1954年ー 〈また一人看取の汗を拭いて来し
三橋敏雄(みつはし・としお)1920年ー2001年 〈いつせいに柱の燃ゆる都かな〉〈初場所の力士顚倒し顚倒し〉〈橘や蒼きうるふの二月尽〉〈生前の長湯の母を待つ暮春〉〈両の眼の玉は飴玉盛夏過ぐ
峯尾文世(みねお・ふみよ)1964年ー 〈桐の実の側室ばかりつらなりぬ
宮坂静生(みやさか・しずお)1937年ー 〈デモすすむ恋人たちは落葉に佇ち
宮崎大地(みやざき・だいち) 〈七月へ爪はひづめとして育つ
宮崎斗士(みやざき・とし)1962年ー 〈柿の色とにかく生きなさいの色〉〈この三人だから夕立が可笑しい
宮田朗風(みやた・ろうふう) 〈白芙蓉今日一日は恋人で
宮本佳世乃(みやもと・かよの)1974年ー 〈万緑やご飯のあとのまたご飯〉〈橇にゐる母のざらざらしてきたる〉〈卒業の歌コピー機を掠めたる
村上鞆彦(むらかみ・ともひこ)1979年ー 〈五月雨や掃けば飛びたつ畳の蛾
村上瑠璃甫(むらかみ るりほ) 1968年ー 〈釣銭のかすかな湿り草紅葉
森賀まり(もりが・まり)1960年ー 〈夜の子の明日の水着を着てあるく〉〈湯の中にパスタのひらく花曇〉〈家濡れて重たくなりぬ花辛夷〉〈洗顔のあとに夜明やほととぎす
森川暁水(もりかわ・ぎょうすい)1901年ー1976年 〈夜なべしにとんとんあがる二階かな
森田愛子(もりした・あいこ)1917年ー1947年 〈美しき時雨の虹に人を待つ〉〈九頭龍へ窓開け雛の塵払ふ
森竹須美子(もりたけ・すみこ) 〈忽然と昭和をはりぬ夕霧忌
森瑞穂(もり・みずほ)1972年ー 〈東京の空の明るき星祭

【や行】
矢島渚男(やじま・なぎさお)1935年ー 〈節分や海の町には海の鬼〉〈さみだれの電車の軋み君が許へ〉〈父がまづ走つてみたり風車
安井浩司(やすい・こうじ)1936年ー2022年 〈鵺一羽はばたきおらん裏銀河〉〈ひるすぎの小屋を壊せばみなすすき
矢野玲奈(やの・れいな)1975年ー 〈とんばうの集ふあたりに加はる子〉〈数へ日を二人で数へ始めけり〉〈ガンダムの並ぶ夜業の机かな
山上樹実雄(やまがみ・きみお) 〈耳飾るをとこのしなや西鶴忌〉〈さくら仰ぎて雨男雨女
山崎聰(やまざき・さとし)1931年ー 〈順番に死ぬわけでなし春二番
山田牧(やまだ・ぼく)1972年ー 〈嚙み合はぬ鞄のチャック鳥曇
山口青邨(やまぐち・せいそん)1892年ー1988年 〈蛍火や飯盛女飯を盛る〉〈春立つと拭ふ地球儀みづいろに〉〈雲の中瀧かゞやきて音もなし〉〈藁の栓してみちのくの濁酒
山口優夢(やまぐち・ゆうむ) 1985年ー 〈婚約とは二人で虹を見る約束〉〈あぢさゐはすべて残像ではないか
雪我狂流(ゆきが・ふる) 1948年ー 〈猿負けて蟹勝つ話亀鳴きぬ
吉田哲二(よしだ・てつじ)1980年ー 〈父の手に負へぬ夜泣きや夏の月

【ら行】
羅蘇山人(ら・そさんじん) 〈恋にしてわざと敗けたるかるた哉

【わ行】
若杉朋哉(わかすぎ・ともや)1975年ー 〈寝ようかと思うてすごす夜長かな〉〈寝そべつてゐる分高し秋の空〉〈みかんむくとき人の手のよく動く
渡部有紀子(わたべ・ゆきこ)1979年ー 〈土のこと水のこと聞き苗を買ふ
渡辺一二三(わたなべ・ひふみ) 〈缶ビールあけて東京ひびきけり

【AーZ】
Zéno Bianu 1950年ー 〈男はよろめき/星空はぐるぐる/かくも詩人の/天と地は/ひっくりかえり/星たちはアラブの/僧のように踊る