メロン食ふたちまち湖を作りつつ 鈴木総史【季語=メロン(夏)】


メロン食ふたちまち湖を作りつつ

鈴木総史

好きな食べ物を好きな食べ方でいただくことほど幸せなことはない。では、今その願いが叶うとしたら?好きなものが多すぎてこれまではそれが全く思いつかなかった。まあ、問われることもないのだけど。しかしもし今そのありえない質問を受けたとしたら迷わず言える。「半分に切ったメロン」と。

メロン食ふたちまち湖を作りつつ

一玉のメロンを半分に切って食べる。メロンを食べる時の最も幸せな切り方である。種を取り除き(あるいはこの状態で供されたのかもしれない)、スプーンで一口また一口と食べ進めるほどにメロンの果汁が真ん中の空洞にたまっていく。それを湖に見立てたのだ。「湖を作りつつ」とは、果肉を掘り、果汁をためていくことなのである。

ものを食する時に一口をどのくらいにするかによって味が変わる気がするのは心理的なものも大きいが、実際に物理的量が多い方が情報量も多く、美味しく感じることが多いはずである。薄切りのメロンでは果汁をためて、その果汁に果肉をひたしながら食べるという贅沢を味わうことができない。句集の中には「贅沢」という言い回しが複数回登場し、作者にとって「贅沢」がある時期のテーマになっていたことが読み取れた。

さてこの句、「食べ物俳句は美味しそうに」を楽々クリアーしているのだが、私にはどうしてもひっかかる点があった。「たちまち」と「作りつつ」の相性の悪さだ。「たちまち」は短時間のこと、「作りつつ」は長時間のこと。『てにをは辞典』(三省堂)で「たちまち」をひくと受ける語として例が挙がっているのは「相手にしなくなる/青くなる/いい心持ちになる/行き詰まる/意気投合する/一致団結する…」などいずれも継続的ではない動作ばかりだ。その前提に立つと「たちまち」を受けるのは「出来上がる」などと短時間案件であって欲しいところに「作りつつ」という長時間案件がきていて違和感がある。

メロン食ひたちまち湖の出来上がる

例えばその感覚を生かしてこんな作り方をしたらどうだろう。因果関係の有無をさしおいても出来上がった湖を見つめるだけで食べ進んでいないことになり美味しそうではない。たちまち出来上がり、食べ進み、再びたちまち出来上がる。それを繰り返している作者の姿が見えてくるからこそ読む者のメロン欲を刺激するのだ。やはり「出来上がる」ではなく「作りつつ」でなくてはならない。

また、この引っかかりがなかったらこの句は半玉のメロンを湖に喩えただけの句になってしまう。それはそれで魅力的なのだが、さらにその背後にある食べ進める行為があるからこそ「美味しそう」が際立っているのだ。

『氷湖いま』(2024年刊)所収。

吉田林檎


【執筆者プロフィール】
吉田林檎(よしだ・りんご)
昭和46年(1971)東京生まれ。平成20年(2008)に西村和子指導の「パラソル句会」に参加して俳句をはじめる。平成22年(2010)「知音」入会。平成25年(2013)「知音」同人、平成27年(2015)第3回星野立子賞新人賞受賞、平成28年(2016)第5回青炎賞(「知音」新人賞)を受賞。俳人協会会員。句集に『スカラ座』(ふらんす堂、2019年)


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>>〔1〕水底に届かぬ雪の白さかな    蜂谷一人


【セクト・ポクリット管理人より読者のみなさまへ】

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