紫陽花のパリーに咲けば巴里の色
星野椿
紫陽花が見頃を迎えつつある。先日、神戸市立森林植物園へ紫陽花を観に行ってきた。ここには、ガクアジサイ、ヤマアジサイ、エゾアジサイ、タマアジサイ、中国系アジサイなど25種350品種、約5万株のアジサイの仲間が見られる。あじさい坂やアナベルの丘など森の中に咲くアジサイの景色とともに、さまざまな形や模様、色合いを楽しめる。毎年、あじさい散策のイベントが開催され、多くの来場者が訪れる人気スポットである。筆者が訪れた時、この散策イベントの初日であったためか、多くの紫陽花はまだ淡い色のままであったが、ヒメアジサイは六甲ブルーに輝いていた。ヒメアジサイは、ホンアジサイとともに日本の固有二大アジサイで、現在放送中のNHK連続テレビ小説のモデルである「牧野富太郎博士」が1929年(昭和4年)に発表した品種だそうだ。お姫様のような優美な姿から名付けたと言われている。六甲山のヒメアジサイはその鮮やかな青色が「六甲ブルー」と呼ばれ、神戸市の市花として親しまれている。
紫陽花のパリーに咲けば巴里の色
星野椿
掲句は星野立子の娘、星野椿の句である。星野椿は40代のころ、何人かと一緒にパリを旅した。泊まった宿の近くに紫陽花が咲いていた。星野椿はその紫陽花を宿への道の目印とした。宿を出ては紫陽花を見て、また、宿へ戻る時は、紫陽花を目印に帰る。そうして、パリの紫陽花が脳裏に焼き付いた。旅を終えて帰国後、鎌倉の紫陽花を見た。そうしたら、鎌倉の紫陽花の色はパリの紫陽花の色と違っていた。同じ青でも鎌倉とパリでは異なる。鎌倉とパリの空の色も異なる。そういう色の違いに気づいた。掲句は、日本に帰ってからその感動をもとに作句したと本人は語っている。
紫陽花は、日本から中国を経由して、18世紀末に欧州へ渡ったと言われている。咲き始めは淡色、時が経つと濃い碧紫色になり、花期の終わりには赤みを帯びてくるので「七変化」とも呼ばれている。日本では色が変わることが心変わりと結びつけられ、人気がなかったようだが、欧州では色変わりを面白がり、大いに改良が進められ、現代の日本に逆輸入された品種もあるらしい。パリの紫陽花は改良品種ゆえ、「パリーに咲けば巴里の色」になるのだが、同じ紫陽花なのに、巴里の色合いに心惹かれている。その土地にはその土地に似合う色があり、そこに発見と感動が宿ったのである。六甲には六甲ブルーがよく似合うということである。
さて、あじさい散策のイベント期間中に、紫陽花の傘のフォトコンテストが行われる。紫陽花柄の傘を事務所で借りて、その傘と一緒に写真を撮り、SNSで「#紫陽花傘フォトコン」をつけてTwitterやInstagramへ投稿すれば参加できる。グランプリと入賞には豪華賞品がもらえる。ご興味がある方は検索を。Bon week-end !
【執筆者プロフィール】
塚本武州(つかもと・ぶしゅう)
1969 年、立川市生まれ。書道家の父親が俳号「武州」を命名。茶道家の母親の影響で俳句を始める。2000年〜2006年までイギリス、フランス、2011年〜2020年までドイツ、シンガポール、台湾に駐在。帰国後、本格的に俳句を習い、2021年4月号より俳誌『ホトトギス』へ出句。現在、社会人学生として、京都芸術大学通信教育部文芸コース及び博物館学芸員課程を履修中。神戸市在住。妻と白猫(ユキ)の3人暮らし。
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>>〔52〕子規逝くや十七日の月明に 高浜虚子
>>〔51〕えりんぎはえりんぎ松茸は松茸 後藤比奈夫
>>〔50〕横ざまに高き空より菊の虻 歌原蒼苔
>>〔49〕秋の風互に人を怖れけり 永田青嵐
>>〔48〕蟷螂の怒りまろびて掃かれけり 田中王城
>>〔47〕手花火を左に移しさしまねく 成瀬正俊
>>〔46〕置替へて大朝顔の濃紫 川島奇北
>>〔45〕金魚すくふ腕にゆらめく水明り 千原草之
>>〔44〕愉快な彼巡査となつて帰省せり 千原草之
>>〔43〕炎天を山梨にいま来てをりて 千原草之
>>〔42〕ビール買ふ紙幣をにぎりて人かぞへ 京極杞陽
>>〔41〕フラミンゴ同士暑がつてはをらず 後藤比奈夫
>>〔40〕夕焼や答へぬベルを押して立つ 久保ゐの吉
>>〔39〕夾竹桃くらくなるまで語りけり 赤星水竹居
>>〔38〕父の日の父に甘えに来たらしき 後藤比奈夫
>>〔37〕麺麭摂るや夏めく卓の花蔬菜 飯田蛇笏
>>〔36〕あとからの蝶美しや花葵 岩木躑躅
>>〔35〕麦打の埃の中の花葵 本田あふひ
>>〔34〕麦秋や光なき海平らけく 上村占魚
>>〔33〕酒よろしさやゑんどうの味も好し 上村占魚
>>〔32〕除草機を押して出会うてまた別れ 越野孤舟
>>〔31〕大いなる春を惜しみつ家に在り 星野立子
>>〔30〕燈台に銘あり読みて春惜しむ 伊藤柏翠
>>〔29〕世にまじり立たなんとして朝寝かな 松本たかし
>>〔28〕ネックレスかすかに金や花を仰ぐ 今井千鶴子
>>〔27〕芽柳の傘擦る音の一寸の間 藤松遊子
>>〔26〕日の遊び風の遊べる花の中 後藤比奈夫
>>〔25〕見るうちに開き加はり初桜 深見けん二
>>〔24〕三月の又うつくしきカレンダー 下田実花
>>〔23〕雛納めせし日人形持ち歩く 千原草之
>>〔22〕九頭龍へ窓開け雛の塵払ふ 森田愛子
>>〔21〕梅の径用ありげなる人も行く 今井つる女
>>〔20〕来よ来よと梅の月ヶ瀬より電話 田畑美穂女
>>〔19〕梅ほつほつ人ごゑ遠きところより 深川正一郎
>>〔18〕藷たべてゐる子に何が好きかと問ふ 京極杞陽
>>〔17〕酒庫口のはき替え草履寒造 西山泊雲
>>〔16〕ラグビーのジヤケツの色の敵味方 福井圭児
>>〔15〕酒醸す色とは白や米その他 中井余花朗
>>〔14〕去年今年貫く棒の如きもの 高浜虚子
>>〔13〕この出遭ひこそクリスマスプレゼント 稲畑汀子
>>〔12〕蔓の先出てゐてまろし雪むぐら 野村泊月
>>〔11〕おでん屋の酒のよしあし言ひたもな 山口誓子
>>〔10〕ストーブに判をもらひに来て待てる 粟津松彩子
>>〔9〕コーヒーに誘ふ人あり銀杏散る 岩垣子鹿
>>〔8〕浅草をはづれはづれず酉の市 松岡ひでたか
>>〔7〕いつまでも狐の檻に襟を立て 小泉洋一
>>〔6〕澁柿を食べさせられし口許に 山内山彦
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>>〔4〕火達磨となれる秋刀魚を裏返す 柴原保佳
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>>〔1〕やゝ寒し閏遅れの今日の月 松藤夏山