夏が淋しいジャングルジムを揺らす　五十嵐秀彦【季語＝夏（夏）】

もう8月が終わるけれど、前日からちょっと喉が痛い。それだけなのにCOVIDかと思ってしまう。でも食欲は旺盛だし、発熱も全くないし、唾液を利用した抗原キットもマイナス。もしかして、疑心暗鬼かも。

ひとりで暮らしていると、病気やケガの時が本当に困る。思えば雪で転んで左手首を捻挫したとき、職場の制服のファスナーを同僚に上げてもらった。風邪くらいなら、なんとかなりそうだが。

ふだんは人並みにさみしいけれど、こころや身体が弱ると、途端にさみしさ倍増装置が作動してしまうように思う。

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夏が淋しいジャングルジムを揺らす　　　五十嵐秀彦

子どもの頃は、夏休みの終わり、東京でいえば8月31日までが夏だと思っていた。

夏休みの最後はやっぱり切ないような、でも暇を持て余す時間がなくなるから二学期が楽しみでもあり、何とも言い難い気持ちだった。

小学校の校庭や、公園などにある遊具はときに人を呼び込むが、ときに生死にも関係する、思いもよらない事故を起こすほど凶暴な面があるように思う。

本句は、はっきりと「夏が淋しい」と言っているところが清々しい。（だから）ジャングルジムが自動詞として「揺れる」のではなく、他動詞として「揺らす」のだ。けれども、ジャングルジムは地に足をつけたままで移動しないから、揺らした側のこころは揺さぶられたままなのである。「淋」の文字も、気持ちを増す要素だ。

夏、暑い盛りだからこその行き場のないさみしさがあるのはよく分かる気がする。だが、この句からは昏くなりきらない、夏の夜の少しすかすかした明りを思った。

帯には急逝された「藍生」の黒田杏子主宰の序句

青嵐五十嵐秀彦屹立　　杏子

がある。揺らがない師弟の信頼関係がうかがえる。

ではでは、また来週です。

よい週末を。

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【執筆者プロフィール】
宮本佳世乃（みやもと・かよの）
「炎環」同人、同人誌「オルガン」編集担当、「豆の木」に参加。
合同句集『きざし』（2010、ふらんす堂）、第一句集『鳥飛ぶ仕組み』（2012、現代俳句協会）、第二句集『三〇一号室』（2019、港の人）。
第11回炎環新人賞、第19回炎環賞、第35回現代俳句新人賞。

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