蟷螂にコップ被せて閉じ込むる　藤田哲史【季語＝蟷螂（秋）】

2023.09.07
ハイクノミカタマンスリーゲスト

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蟷螂にコップ被せて閉じ込むる

藤田哲史

近所の学校では文化祭の準備が始まり、電車にも学生が戻ってきた。先日はきれいな満月だったし、やっぱり今は9月なのだ、と思う。不思議だけれど、8月よりも日々の時間が長く感じる。野菜も果物もみずみずしくいただけて、ありがたい。

句集にはそれぞれ、一番似合う季節がある気がする。代表句があるとか、その時期の句が多いというよりも句集が持つ雰囲気というか、そういうもの。

秋に読みたい句集を考えてみる。

静謐で、なめらかで、手触りのある句集。それでいてすこし硬さもありつつ。

今手に取っているのは、『楡の茂る頃とその前後』（藤田哲史）。

この句集は、ほんとうに白い。カバーも、帯も、見返しも扉も本文の用紙も。でも、それぞれの白さの硬軟や紙質が違うから、カバーの少しの白の色味が、大きな差異を感じさせるようにいざなってくる。そう、ものそのものがいざなう感じ。

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蟷螂にコップ被せて閉じ込むる　　藤田哲史

叢で跳ねている蟷螂を見つけて、そこにあったコップを被せてみた。

屋外で何人かで食事をしているなら、このコップは紙コップだろうか。蟷螂にとっては、驚きの出来事だ。緑内障のようにふいに視界が狭まり、周囲が真っ暗になるのだから。怖がってうごめくはず。その蟷螂の動きを、人は視覚で捉えるのではなく、聴覚や触覚で捉える。蟷螂の姿が目に映ることを遮っているのは、透明でない白い紙。それでも、人間にとっては、小さくて軽い紙コップ。

もちろん、コップの中の空気がなくなるわけではないだろうから、蟷螂は死なない。すぐにコップを持ち上げて、蟷螂の存在を人に見せたりするのだろうが、もしコップを持ち上げなければ、ただの意地悪だ。

この句集からは、今くらいの秋を感じる。

装丁からも、句のたたずまいからも、章立てからも。

鰯雲ライターの火に手を盾に　　　哲史

秋風や汝の臍に何植ゑん

いざよいの白い布巾に白い卵らん

気づけば、足の爪に縦線が入っていた。

ではでは、また来週です。

よい週末を。

（宮本佳世乃）

【宮本佳世乃さんの句集『三〇一号室』もぜひ！】

【執筆者プロフィール】
宮本佳世乃（みやもと・かよの）
「炎環」同人、同人誌「オルガン」編集担当、「豆の木」に参加。
合同句集『きざし』（2010、ふらんす堂）、第一句集『鳥飛ぶ仕組み』（2012、現代俳句協会）、第二句集『三〇一号室』（2019、港の人）。
第11回炎環新人賞、第19回炎環賞、第35回現代俳句新人賞。

【お知らせ】
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