真っ白な息して君は今日も耳栓が抜けないと言う 福田若之【季語=真っ白な息(冬)】


真っ白な息して君は今日も耳栓が抜けないと言う

福田若之

明日1月20日は、二十四節気の一つ「大寒」である。一年中で最も寒さが厳しい頃であり、天気予報でも今週末は最高気温が10℃を下回り、寒くなると報じられている。「大寒」で思い出すのは、昔、欧州に住んでいた時に見た、凍ったドナウ川に映る大聖堂である。

その日は、灰色の空が広がる、気温はマイナス20℃ぐらい、耳が千切れるほど痛く感覚がない日であった。ドナウ川にかかる橋を渡るとそこには大きな尖った屋根の大聖堂があった。その尖った矛先は、灰色の空を刺していた。凍ったドナウ川に映る尖塔は、あたかもアイスピックのように、鋭利で冷酷なイメージで氷上に映っていた。「大寒」になるといつもその映像が頭に浮かぶのだが、どこの大聖堂だったか残念ながら思い出せない。SNSや過去の写真を探してみても見つからなかった。一瞬、夢だったのかと思うのだが、拙句が残っているので確かに大聖堂は存在していたのである。いつかその場所を特定し、また、「大寒」の頃に訪れたいと思う。 

真っ白な息して君は今日も耳栓が抜けないと言う  福田若之

掲句はいくつかの「はてな?」があるが、なぜか気になる句である。「真っ白な息」は冬季である。この場所は屋外なのか屋内なのか。普通に考えれば、「真っ白な息」であれば屋外を想像する。もちろん屋内も想像できるが、ヒーターやストーブの無く、寒くて可哀想な部屋を連想させるが、この句は屋外で真っ白な息を見たとするのが自然だろう。次に、「耳栓が抜けないと言う」とあるが、そもそも「君」は耳栓をする生活を送っているんだと少し驚く。どんな生活が耳栓を必要とするのか。音のうるさい工事現場で働く「君」、それとも受験生の「君」。私が耳栓をしたのは、人生の中で大学の受験勉強していた時だけであるので、おそらく「君」は受験生なのだろうか。そして、「今日も」とあるので、昨日も、もしかして、その前の日も、耳栓が抜けない日があったとは驚きである。いったい、今日耳栓が抜けないのは既に何回目?と突っ込みたくなる。また、「君」は耳栓が抜けないまま(つまり耳栓をしたまま)現れたのか。であれば、君は相手の言っていることがよく聞き取れないのではないか。真っ白な息をして君は今日も耳栓が抜けないと言って、相手が言っていることがよく聞こえずに、そのまま通り過ぎて行ってしまった。受験前で忙しいので他人に構っていられない。そんな一瞬のすれ違いを捕らえた句なのかも知れない。だいぶツッコミがいのある句であるが、読者の想像力を駆り立てる面白い句だと感じた。

さて、冒頭の大寒の話であるが、大寒に食べると縁起がいいのは、「餅」だそうだ。薬用効果のある「寒の水」で炊いた米でついた餅を「寒餅」といい、大寒に食べると縁起がいいと言われている。是非、お試し下さい。

塚本武州



【執筆者プロフィール】
塚本武州(つかもと・ぶしゅう)
1969 年、立川市生まれ。書道家の父親が俳号「武州」を命名。茶道家の母親の影響で俳句を始める。2000年〜2006年までイギリス、フランス、2011年〜2020年までドイツ、シンガポール、台湾に駐在。帰国後、本格的に俳句を習い、2021年4月号より俳誌『ホトトギス』へ出句。現在、社会人学生として、京都芸術大学通信教育部文芸コース及び博物館学芸員課程を履修中。国立市在住。妻と白猫(ユキ)の3人暮らし。


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>>〔43〕炎天を山梨にいま来てをりて     千原草之
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>>〔23〕雛納めせし日人形持ち歩く      千原草之
>>〔22〕九頭龍へ窓開け雛の塵払ふ      森田愛子
>>〔21〕梅の径用ありげなる人も行く    今井つる女

>>〔20〕来よ来よと梅の月ヶ瀬より電話   田畑美穂女
>>〔19〕梅ほつほつ人ごゑ遠きところより  深川正一郎
>>〔18〕藷たべてゐる子に何が好きかと問ふ  京極杞陽
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>>〔15〕酒醸す色とは白や米その他     中井余花朗
>>〔14〕去年今年貫く棒の如きもの      高浜虚子
>>〔13〕この出遭ひこそクリスマスプレゼント 稲畑汀子
>>〔12〕蔓の先出てゐてまろし雪むぐら    野村泊月
>>〔11〕おでん屋の酒のよしあし言ひたもな  山口誓子
>>〔10〕ストーブに判をもらひに来て待てる 粟津松彩子
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>>〔8〕浅草をはづれはづれず酉の市   松岡ひでたか
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>>〔5〕手を敷いて我も腰掛く十三夜     中村若沙
>>〔4〕火達磨となれる秋刀魚を裏返す    柴原保佳
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