口笛を吹いて晩夏の雲を呼ぶ
乾佐伎
「風が吹けば桶屋が儲かる」(以下桶屋)とは一つの事象が思わぬ結果を呼ぶことのたとえ。あてにならない期待をすることへの皮肉として使われることもある。二つの事象に距離があり因果関係が疑わしい。
「バタフライ効果」とは小さな事象が大きな出来事のきっかけになること。二つの事象に大小の差があり因果関係がある。
それぞれを代表する句をざっと探してみたが、桶屋俳句は見つかったもののバタフライの方は難しかった。
■桶屋
・因果関係はない。あるとしてもかなり距離がある
鳥わたるこきこきこきと罐切れば 秋元不死男
■バタフライ効果?
・大小の対比は聞いているが結果に抽象性が残る
滝落ちて群青世界とどろけり 水原秋櫻子
大小の対比が際立つ句はあるが、具体的な結果も併存しているものは難しい。ということでこれぞバタフライ効果!という句はまだ捜索中。
そもそも蝶のはばたきが嵐を起すほどの遠い因果関係であればバタフライ効果だったとしても取り合わせと受け取ってしまっているのかもしれない。
口笛を吹いて晩夏の雲を呼ぶ
口笛を吹いたら晩夏の雲が来たのではない。晩夏の雲を呼ぶという意思をもって口笛を吹いたのだ。能動的バタフライ効果とでも呼ぶべきか。
口笛は暗い状況を明るい方に向かわせたい時に吹くことが多い。それだけに口笛を吹くという行為にはどことなく哀愁がある。一方その音色は突き抜けるように明るい。
暑すぎる夏を抜け出したい。この状況を一変させるために口笛を吹く。晩夏の雲としか言っていないが、口笛の音量に見合った、人が一人乗れるくらいの大きさを想像した。
口笛を吹いて雲が来るならその雲に乗ることもできそうだ。
この記事がアップされる日(日本時間)にはパリオリンピック開会式が開催される。聖火台にはどのように点火されるのか?祭前夜に心おどるこの時間も味わいつくしたい。
(吉田林檎)
【執筆者プロフィール】
吉田林檎(よしだ・りんご)
昭和46年(1971)東京生まれ。平成20年(2008)に西村和子指導の「パラソル句会」に参加して俳句をはじめる。平成22年(2010)「知音」入会。平成25年(2013)「知音」同人、平成27年(2015)第3回星野立子賞新人賞受賞、平成28年(2016)第5回青炎賞(「知音」新人賞)を受賞。俳人協会会員。句集に『スカラ座』(ふらんす堂、2019年)。
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>>〔15〕一燈を消し名月に対しけり 林翔
>>〔14〕向いてゐる方へは飛べぬばつたかな 抜井諒一
>>〔13〕膝枕ちと汗ばみし残暑かな 桂米朝
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>>〔11〕秋草のはかなかるべき名を知らず 相生垣瓜人
>>〔10〕卓に組む十指もの言ふ夜の秋 岡本眸
>>〔9〕なく声の大いなるかな汗疹の児 高濱虚子
>>〔8〕瑠璃蜥蜴紫電一閃盧舎那仏 堀本裕樹
>>〔7〕してみむとてするなり我も日傘さす 種谷良二
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【セクト・ポクリット管理人より読者のみなさまへ】