静臥ただ落葉降りつぐ音ばかり
成田千空
成田千空は俳誌『萬緑』の第四代選者であり、昭和の戦後俳壇を代表する俳人の一人である。また、青森県文化賞、俳人協会賞、詩歌文学館賞、蛇笏賞などの数々の賞を総なめにし、中央からは遠く東北の青森県は五所川原を拠点に活動しながらも、「東北に千空あり」と言わしめるほど、俳壇に確かな痕跡を残した。
この度、「ハイクノミカタ」のマンスリーゲストとして再度執筆の機会を頂けたという事で、俳誌「森の座」の一同人として、拙筆ながら成田千空について書かなければならないと志念した次第である。前回の草田男論同様、私から何か新しい観点を提示するという訳ではなく、先達の方々の知識をお借りしながら、改めて、千空俳句の何たるやをおさらい出来ればと思っている。
☆
成田千空の第一句集『地霊』は昭和51年(1976)、千空55歳の時に刊行された。のちに述べることになるが、千空はまさに第二次世界大戦の渦中昭和16年(1941)20歳の時に俳句を始めており、千空の半生と言っていい三十余年にわたる作品が掲載されている。従って、千空俳句を論ずる場合には自ずと『地霊』の比重が大きくなり、第一句集といえども既に色濃く千空俳句の特徴が表れている。
作品の完成度も含めて、俳壇にも評価されていい句集であったが、句集に対する賞の授賞はなく、俳誌『森の座』代表の横澤放川は「これが俳壇においてなんの授賞対象にもならなかったのは、異様のことであるといわなければならない」と遺憾の意を表している。
また、千空の文学世界を探るうえで重要な局面として、横澤放川は次の三つを挙げている。一つ目は「東北という精神風土」、二つ目「中村草田男の文学世界」、そして三つ目が「戦後を生きるべきいのちの肯定といのちの恢癒」である。単なる風土的な素材に溺れた風土俳句/風土俳人に留まらない千空の普遍的な文学世界を見ていくうえで、この三つ観点から見ていきたいと思うが、第一句集の『地霊』を読み解く前提として、まずは千空の生い立ちから始めていかなければならない。
☆
成田千空は1921年(大正10年)の3月31日、青森県安方に父・成田伝吾、母・ナカの次男として生まれる。当時、生家は農園と万屋を営んでおり、安方に寄港する船に食材等を卸して生計を立てていた。昔ながらの大家族で、祖父母、父母、兄弟姉妹合わせて12人で暮らしていた。
そのような暮らしのさなか、1929年(昭和4年)11月9日千空8歳の時に、祖父母に続き、父・伝吾(45歳)が亡くなってしまう。以来、母ナカは一人で8人もの子供を養っていかなければならない状況に陥ることになる。
その過酷さは想像に難くないであろう。母ナカは夜明け前から夜遅くまで仕事と家事、そして子育てを懸命にこなしていくのであった。そんな母の姿を、千空少年の眼にはどのように映ったのであろうか。ここには、草田男の長子の受圧とはまた違うかたちで、家族に対して、また母ナカに対して、子としての責務ともいうべきものが千空の肩に圧し掛かっていたであろう。
そして、この多子家族による過酷な母子家庭こそが、千空俳句の根源的なエッセンスの一つになっていく。
その後、青森県立青森工業学校機械科に入るが、在学中はひたすら図書館に通いつめて、小説や詩歌などを読み漁り、『交友会会誌』といった雑誌に俳句や詩などを投稿していたという。投稿した詩や俳句は資料として残されており、当時の溌溂とした若き千空青年の感性が窺い知れる。その中で「希望の丘」という詩の一篇を以下に紹介しておこう。
「希望の丘」
薄暗い室に
長い長い夢はさめて
一点の光明を見出した
時ならぬ目醒の鐘は
強く胸を打つた
噫!人生の荒浪は
憩ひも知らずはてもなく
音すさまじき闇の夜
今ぞ救ひの大舟に
身を委ねつつ行末は
とはに變らぬ松の島
此處ぞ希望の丘と知る
☆
1939年(昭和14年)千空18歳、工業高校卒業と同時に東京の蒲田にある富士航空計器株式会社に就職し、上京。いわば軍需航空計器工場であり、「臨戦態勢下の同社が独逸シミーズと提携開発中のオート・パイロット(無人機)研究部門で、徹夜につづく激務」であったという。その激務による無理が重なり、二年後の1941年(昭和16年)20歳の時に肺結核を患う。当時の肺病は死病とされており、千空の病状も例外ではなく深刻であった。医師からも帰郷をすすめられ、喀血を機に母ナカのいる生家に戻り、療養に専念することになる。
この療養生活は終戦後の1945年(昭和20年)まで4年ほどつづき、千空は出征を経験せずにその青年期を過ごすこととなる。
同年(1941年)、千空は療養中に姉の岡田寿美栄の勧めにより俳句を始める。希望を胸に上京したものの、時代的/社会的荒浪に為す術もなく病床に臥すことになった青年は、何かを念ずるように滾々と俳句を作っていくのである。兄弟は戦争に征き、姉たちは嫁ぎ、生家は母と妹二人と千空だけの四人家族であったが、母ナカは千空が俳句をやっていることを大いに喜び、千空は何度も母に自分の俳句を読んで聞かせていた。妹は地元の小学校の先生に就職した初めての月給で『俳句三代集』を全巻買って千空に贈るなど、家族総出で千空のかすかないのちを繋ぎとめていた。
千空は当時を振り返って、「戦争に堪え、病いに堪えて、二十代の初期を生きていました。どう生きるべきか、毎日本を読み、毎日原稿用紙二、三枚ほど日記を書いていました。」と語る。
この「青春の挫折」、「心身の恢癒への祈り」こそが、千空の文学世界はたや詩精神を形成する要素となってくると言っていいだろう。「青春の挫折」という自己否定と「戦禍」という時代の混乱が、「津軽」もとより「東北」という風土(媒介)に委ねられた時、千空の詩精神はより普遍的な高次な精神へと止揚されるのである。ゆるされとしての風土、自己否定と時代の混乱とが止揚されていく場所としての風土を、横澤放川は「風土のエスプリ」と呼ぶ。そして、その止揚された詩精神の最大の目的が「いのちの肯定」であり、それこそが、千空の師である中村草田男が終生追い求めた詩精神であるということに他ならない。
☆
さて、それでは千空は療養中にどんな俳句を詠んでいたのであろうか。
千空俳句の最初期の句は『地霊』の中には数えるほどしか掲載されていないが、青森文芸出版から発行されている『千空句帖』には昭和16年(1941)から昭和20年(1945)前半までの句が収録されている。この『千空句帖』は戦中に千空が手作りした自選句集であり、もちろん出版はされていなかったが、2016年に有志の尽力のもと、影印本として出版された。当時の千空の直筆で句を読めるのも非常に魅力的な一冊となっている。
構成は春・夏・秋・冬の四部構成で、その四部の中にまたいくつもの小題に分かれ、句が掲載されている。その四部全てに登場する小題が「療養日記」というもので、まさに千空の療養中の様子を窺える句群である。
「春」
木の芽雨明るき午後や検温す
水仙の花の無疵にひらきたり
もの想ひをれば陽炎われを巻き
春近き風聞きをれば心澄む「夏」
衣更へてわが胸うすくなりにけり
かつこうや静臥の息をととのふる
日焼濃き友の見舞をうけにけり
肋かぞふ癖の身につき夏終る
黒き蟻手にのぼりくるうれしさは「秋」
白菊のいたく白かり喀血す
鵙日和やまひの掟ひたに守る
朝鵙に細々と澄む脈をとる
鈴蟲の一つ遠きに眼をつむる
あはれ母鈴蟲の籠吊りたまふ
ちちろひそと夜風の底に鳴いてゐる「冬」
病み堪へて心待つある霜明り
霜けさの白さに癒ゆを疑はず
置く霜の朝あかねせる消えずあれ
冱ての中摩擦のほてりのぼりくる
あの声量の大きい千空俳句の片鱗をほとんど感じさせない、非常に細みのある句群である。
掲句も「秋」の部の「療養日記」に掲載されたものの一つ。下五は定番化したフレーズながらも、毎日いのちを繋ぎ留めながら、まさになにかを念ずるように句を作っていたであろうことがひしと伝わってくる。この「いのちの恢癒」への祈りこそが、後年の千空の詩精神の奥処に存在していくことになる。
(北杜駿)
【執筆者プロフィール】
北杜駿(ほくと・しゅん)
1989年生まれ。千葉県出身。現在は山梨県在住。2019年「森の座」入会、横澤放川に師事。2022年星野立子新人賞受賞。2023年森の座新人賞受賞。「森の座」同人。
Email: shun.hokuto@outlook.com
2020年10月からスタートした「ハイクノミカタ」。【シーズン1】は、月曜=日下野由季→篠崎央子(2021年7月〜)、火曜=鈴木牛後、水曜=月野ぽぽな、木曜=橋本直、金曜=阪西敦子、土曜=太田うさぎ、日曜=小津夜景さんという布陣で毎日、お届けしてきた記録がこちらです↓
【2023年10・11月の火曜日☆西生ゆかりのバックナンバー】
>>〔1〕猫と狆と狆が椎茸ふみあらす 島津亮
>>〔2〕赤福のたひらなへらもあたたかし 杉山久子
>>〔3〕五つずつ配れば四つ余る梨 箱森裕美
>>〔4〕湯の中にパスタのひらく花曇 森賀まり
>>〔5〕しやぼんだま死後は鏡の無き世界 佐々木啄実
>>〔6〕待春やうどんに絡む卵の黄 杉山久子
【2023年9・10月の水曜日☆伊藤幹哲のバックナンバー】
>>〔1〕暮るるほど湖みえてくる白露かな 根岸善雄
>>〔2〕雨だれを聴きて信濃の濁り酒 德田千鶴子
>>〔3〕雨聴いて一つ灯に寄る今宵かな 村上鬼城
>>〔4〕旅いつも雲に抜かれて大花野 岩田奎
>>〔5〕背広よりニットに移す赤い羽根 野中亮介
>>〔6〕秋草の揺れの移れる体かな 涼野海音
>>〔7〕横顔は子規に若くなしラフランス 広渡敬雄
>>〔8〕萩にふり芒にそそぐ雨とこそ 久保田万太郎
【2023年10・11月の木曜日☆野名紅里のバックナンバー】
>>〔1〕黒岩さんと呼べば秋気のひとしきり 歌代美遥
>>〔2〕ロボットの手を拭いてやる秋灯下 杉山久子
>>〔3〕秋・紅茶・鳥はきよとんと幸福に 上田信治
>>〔4〕秋うらら他人が見てゐて樹が抱けぬ 小池康生
>>〔5〕縄跳をもつて大縄跳へ入る 小鳥遊五月
【2023年8・9月の火曜日☆吉田哲二のバックナンバー】
>>〔1〕中干しの稲に力を雲の峰 本宮哲郎
>>〔2〕裸子の尻の青あざまてまてまて 小島健
>>〔3〕起座し得て爽涼の風背を渡る 肥田埜勝美
>>〔4〕鵙の朝肋あはれにかき抱く 石田波郷
>>〔5〕たべ飽きてとんとん歩く鴉の子 高野素十
>>〔6〕葛咲くや嬬恋村の字いくつ 石田波郷
>>〔7〕秋風や眼中のもの皆俳句 高浜虚子
>>〔8〕なきがらや秋風かよふ鼻の穴 飯田蛇笏
>>〔9〕百方に借あるごとし秋の暮 石塚友二
【2023年8月の木曜日☆宮本佳世乃のバックナンバー】
>>〔1〕妹は滝の扉を恣 小山玄紀
>>〔2〕すきとおるそこは太鼓をたたいてとおる 阿部完市
>>〔3〕葛の花来るなと言つたではないか 飯島晴子
>>〔4〕さういへばもう秋か風吹きにけり 今井杏太郎
>>〔5〕夏が淋しいジャングルジムを揺らす 五十嵐秀彦
>>〔6〕蟷螂にコップ被せて閉じ込むる 藤田哲史
>>〔7〕菊食うて夜といふなめらかな川 飯田晴
>>〔8〕片足はみづうみに立ち秋の人 藤本夕衣
>>〔9〕逢いたいと書いてはならぬ月と書く 池田澄子
【2023年7月の火曜日☆北杜駿のバックナンバー】
>>〔5〕「我が毒」ひとが薄めて名薬梅雨永し 中村草田男
>>〔6〕白夜の忠犬百骸挙げて石に近み 中村草田男
>>〔7〕折々己れにおどろく噴水時の中 中村草田男
>>〔8〕めぐりあひやその虹七色七代まで 中村草田男
【2023年7月の水曜日☆小滝肇のバックナンバー】
>>〔5〕数と俳句(一)
>>〔6〕数と俳句(二)
>>〔7〕数と俳句(三)
>>〔8〕数と俳句(四)
【2023年7月の木曜日☆近江文代のバックナンバー】
>>〔10〕来たことも見たこともなき宇都宮 筑紫磐井
>>〔11〕「月光」旅館/開けても開けてもドアがある 高柳重信
>>〔12〕コンビニの枇杷って輪郭だけ 原ゆき
>>〔13〕南浦和のダリヤを仮のあはれとす 摂津幸彦
【2023年6月の火曜日☆北杜駿のバックナンバー】
>>〔1〕田を植ゑるしづかな音へ出でにけり 中村草田男
>>〔2〕妻のみ恋し紅き蟹などを歎かめや 中村草田男
>>〔3〕虹の後さづけられたる旅へ発つ 中村草田男
>>〔4〕鶏鳴の多さよ夏の旅一歩 中村草田男
【2023年6月の水曜日☆古川朋子のバックナンバー】
>>〔6〕妹の手をとり水の香の方へ 小山玄紀
>>〔7〕金魚屋が路地を素通りしてゆきぬ 菖蒲あや
>>〔8〕白い部屋メロンのありてその匂ひ 上田信治
>>〔9〕夕凪を櫂ゆくバター塗るごとく 堀本裕樹
【2023年5月の火曜日☆千野千佳のバックナンバー】
>>〔5〕皮むけばバナナしりりと音すなり 犬星星人
>>〔6〕煮し蕗の透きとほりたり茎の虚 小澤實
>>〔7〕手の甲に子かまきりをり吹きて逃す 土屋幸代
>>〔8〕いつまでも死なぬ金魚と思ひしが 西村麒麟
>>〔9〕夏蝶の口くくくくと蜜に震ふ 堀本裕樹
【2023年5月の水曜日☆古川朋子のバックナンバー】
>>〔1〕遠き屋根に日のあたる春惜しみけり 久保田万太郎
>>〔2〕電車いままつしぐらなり桐の花 星野立子
>>〔3〕葉桜の頃の電車は突つ走る 波多野爽波
>>〔4〕薫風や今メンバー紹介のとこ 佐藤智子
>>〔5〕ハフハフと泳ぎだす蛭ぼく音痴 池禎章
【2023年4月の火曜日☆千野千佳のバックナンバー】
>>〔1〕春風にこぼれて赤し歯磨粉 正岡子規
>>〔2〕菜の花や部屋一室のラジオ局 相子智恵
>>〔3〕生きのよき魚つめたし花蘇芳 津川絵理子
>>〔4〕遠足や眠る先生はじめて見る 斉藤志歩
【2023年4月の水曜日☆山口遼也のバックナンバー】
>>〔6〕赤福の餡べつとりと山雪解 波多野爽波
>>〔7〕眼前にある花の句とその花と 田中裕明
>>〔8〕対岸の比良や比叡や麦青む 対中いずみ
>>〔9〕美しきものに火種と蝶の息 宇佐美魚目
【2023年3月の火曜日☆三倉十月のバックナンバー】
>>〔1〕窓眩し土を知らざるヒヤシンス 神野紗希
>>〔2〕家濡れて重たくなりぬ花辛夷 森賀まり
>>〔3〕菜の花月夜ですよネコが死ぬ夜ですよ 金原まさ子
>>〔4〕不健全図書を世に出しあたたかし 松本てふこ【←三倉十月さんの自選10句付】
【2023年3月の水曜日☆山口遼也のバックナンバー】
>>〔1〕鳥の巣に鳥が入つてゆくところ 波多野爽波
>>〔2〕砂浜の無数の笑窪鳥交る 鍵和田秞子
>>〔3〕大根の花まで飛んでありし下駄 波多野爽波
>>〔4〕カードキー旅寝の春の灯をともす トオイダイスケ
>>〔5〕桜貝長き翼の海の星 波多野爽波
【2023年2月の火曜日☆鈴木総史のバックナンバー】
>>〔6〕立春の零下二十度の吐息 三品吏紀
>>〔7〕背広来る来るジンギスカンを食べに来る 橋本喜夫
>>〔8〕北寄貝桶ゆすぶつて見せにけり 平川靖子
>>〔9〕地吹雪や蝦夷はからくれなゐの島 櫂未知子
【2023年2月の水曜日☆楠本奇蹄のバックナンバー】
>>〔1〕うらみつらみつらつら椿柵の向う 山岸由佳
>>〔2〕忘れゆくはやさで淡雪が乾く 佐々木紺
>>〔3〕雪虫のそつとくらがりそつと口笛 中嶋憲武
>>〔4〕さくら餅たちまち人に戻りけり 渋川京子
【2023年1月の火曜日☆鈴木総史のバックナンバー】
>>〔1〕年迎ふ父に胆石できたまま 島崎寛永
>>〔2〕初燈明背にあかつきの雪の音 髙橋千草
>>〔3〕蝦夷に生まれ金木犀の香を知らず 青山酔鳴
>>〔4〕流氷が繋ぐ北方領土かな 大槻独舟
>>〔5〕湖をこつんとのこし山眠る 松王かをり
【2023年1月の水曜日☆岡田由季のバックナンバー】
>>〔1〕さしあたり坐つてゐるか鵆見て 飯島晴子
>>〔2〕潜り際毬と見えたり鳰 中田剛
>>〔3〕笹鳴きに覚めて朝とも日暮れとも 中村苑子
>>〔4〕血を分けし者の寝息と梟と 遠藤由樹子
【2022年11・12月の火曜日☆赤松佑紀のバックナンバー】
>>〔1〕氷上と氷中同じ木のたましひ 板倉ケンタ
>>〔2〕凍港や旧露の街はありとのみ 山口誓子
>>〔3〕境内のぬかるみ神の発ちしあと 八染藍子
>>〔4〕舌荒れてをり猟銃に油差す 小澤實
>>〔5〕義士の日や途方に暮れて人の中 日原傳
>>〔6〕枯野ゆく最も遠き灯に魅かれ 鷹羽狩行
>>〔7〕胸の炎のボレロは雪をもて消さむ 文挾夫佐恵
>>〔8〕オルゴールめく牧舎にも聖夜の灯 鷹羽狩行
>>〔9〕去年今年詩累々とありにけり 竹下陶子
【2022年11・12月の水曜日☆近江文代のバックナンバー】
>>〔1〕泣きながら白鳥打てば雪がふる 松下カロ
>>〔2〕牡蠣フライ女の腹にて爆発する 大畑等
>>〔3〕誕生日の切符も自動改札に飲まれる 岡田幸生
>>〔4〕雪が降る千人針をご存じか 堀之内千代
>>〔5〕トローチのすつと消えすつと冬の滝 中嶋憲武
>>〔6〕鱶のあらい皿を洗えば皿は海 谷さやん
>>〔7〕橇にゐる母のざらざらしてきたる 宮本佳世乃
>>〔8〕セーターを脱いだかたちがすでに負け 岡野泰輔
>>〔9〕動かない方も温められている 芳賀博子
【2022年10月の火曜日☆太田うさぎ(復活!)のバックナンバー】
>>〔92〕老僧の忘れかけたる茸の城 小林衹郊
>>〔93〕輝きてビラ秋空にまだ高し 西澤春雪
>>〔94〕懐石の芋の葉にのり衣被 平林春子
>>〔95〕ひよんの実や昨日と違ふ風を見て 高橋安芸
【2022年9月の水曜日☆田口茉於のバックナンバー】
>>〔5〕運動会静かな廊下歩きをり 岡田由季
>>〔6〕後の月瑞穂の国の夜なりけり 村上鬼城
>>〔7〕秋冷やチーズに皮膚のやうなもの 小野あらた
>>〔8〕逢えぬなら思いぬ草紅葉にしゃがみ 池田澄子
【2022年9月の火曜日☆岡野泰輔のバックナンバー】
>>〔1〕帰るかな現金を白桃にして 原ゆき
>>〔2〕ビル、がく、ずれて、ゆくな、ん、てきれ、いき、れ なかはられいこ
>>〔3〕サフランもつて迅い太子についてゆく 飯島晴子
>>〔4〕琴墜ちてくる秋天をくらりくらり 金原まさ子
【2022年9月の水曜日☆田口茉於のバックナンバー】
>>〔1〕九月来る鏡の中の無音の樹 津川絵理子
>>〔2〕雨月なり後部座席に人眠らせ 榮猿丸
>>〔3〕秋思かがやくストローを嚙みながら 小川楓子
>>〔4〕いちじくを食べた子供の匂ひとか 鴇田智哉
【2022年6月の火曜日☆杉原祐之のバックナンバー】
>>〔1〕仔馬にも少し荷を付け時鳥 橋本鶏二
>>〔2〕ほととぎす孝君零君ききたまへ 京極杞陽
>>〔3〕いちまいの水田になりて暮れのこり 長谷川素逝
>>〔4〕雲の峰ぬつと東京駅の上 鈴木花蓑
【2022年6月の水曜日☆松野苑子のバックナンバー】
>>〔1〕でで虫の繰り出す肉に後れをとる 飯島晴子
>>〔2〕襖しめて空蟬を吹きくらすかな 飯島晴子
>>〔3〕螢とび疑ひぶかき親の箸 飯島晴子
>>〔4〕十薬の蕊高くわが荒野なり 飯島晴子
>>〔5〕丹田に力を入れて浮いて来い 飯島晴子
【2022年5月の火曜日☆沼尾將之のバックナンバー】
>>〔1〕田螺容れるほどに洗面器が古りし 加倉井秋を
>>〔2〕桐咲ける景色にいつも沼を感ず 加倉井秋を
>>〔3〕葉桜の夜へ手を出すための窓 加倉井秋を
>>〔4〕新綠を描くみどりをまぜてゐる 加倉井秋を
>>〔5〕美校生として征く額の花咲きぬ 加倉井秋を
【2022年5月の水曜日☆木田智美のバックナンバー】
>>〔1〕きりんの子かゞやく草を喰む五月 杉山久子
>>〔2〕甘き花呑みて緋鯉となりしかな 坊城俊樹
>>〔3〕ジェラートを売る青年の空腹よ 安里琉太
>>〔4〕いちごジャム塗れとおもちゃの剣で脅す 神野紗希
【2022年4月の火曜日☆九堂夜想のバックナンバー】
>>〔1〕回廊をのむ回廊のアヴェ・マリア 豊口陽子
>>〔2〕未生以前の石笛までも刎ねる 小野初江
>>〔3〕水鳥の和音に還る手毬唄 吉村毬子
>>〔4〕星老いる日の大蛤を生みぬ 三枝桂子
【2022年4月の水曜日☆大西朋のバックナンバー】
>>〔1〕大利根にほどけそめたる春の雲 安東次男
>>〔2〕回廊をのむ回廊のアヴェ・マリア 豊口陽子
>>〔3〕田に人のゐるやすらぎに春の雲 宇佐美魚目
>>〔4〕鶯や米原の町濡れやすく 加藤喜代子
【2022年3月の火曜日☆松尾清隆のバックナンバー】
>>〔1〕死はいやぞ其きさらぎの二日灸 正岡子規
>>〔2〕菜の花やはつとあかるき町はつれ 正岡子規
>>〔3〕春や昔十五万石の城下哉 正岡子規
>>〔4〕蛤の吐いたやうなる港かな 正岡子規
>>〔5〕おとつさんこんなに花がちつてるよ 正岡子規
【2022年3月の水曜日☆藤本智子のバックナンバー】
>>〔1〕蝌蚪乱れ一大交響楽おこる 野見山朱鳥
>>〔2〕廃墟春日首なきイエス胴なき使徒 野見山朱鳥
>>〔3〕春天の塔上翼なき人等 野見山朱鳥
>>〔4〕春星や言葉の棘はぬけがたし 野見山朱鳥
>>〔5〕春愁は人なき都会魚なき海 野見山朱鳥
【2022年2月の火曜日☆永山智郎のバックナンバー】
>>〔1〕年玉受く何も握れぬ手でありしが 髙柳克弘
>>〔2〕復讐の馬乗りの僕嗤っていた 福田若之
>>〔3〕片蔭の死角から攻め落としけり 兒玉鈴音
>>〔4〕おそろしき一直線の彼方かな 畠山弘
【2022年2月の水曜日☆内村恭子のバックナンバー】
>>〔1〕琅玕や一月沼の横たはり 石田波郷
>>〔2〕ミシン台並びやすめり針供養 石田波郷
>>〔3〕ひざにゐて猫涅槃図に間に合はず 有馬朗人
>>〔4〕仕る手に笛もなし古雛 松本たかし
【2022年1月の火曜日☆菅敦のバックナンバー】
>>〔1〕賀の客の若きあぐらはよかりけり 能村登四郎
>>〔2〕血を血で洗ふ絨毯の吸へる血は 中原道夫
>>〔3〕鉄瓶の音こそ佳けれ雪催 潮田幸司
>>〔4〕嗚呼これは温室独特の匂ひ 田口武
【2022年1月の水曜日☆吉田林檎のバックナンバー】
>>〔1〕水底に届かぬ雪の白さかな 蜂谷一人
>>〔2〕嚔して酒のあらかたこぼれたる 岸本葉子
>>〔3〕呼吸するごとく雪降るヘルシンキ 細谷喨々
>>〔4〕胎動に覚め金色の冬林檎 神野紗希
【2021年12月の火曜日☆小滝肇のバックナンバー】
>>〔1〕柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺 正岡子規
>>〔2〕内装がしばらく見えて昼の火事 岡野泰輔
>>〔3〕なだらかな坂数へ日のとある日の 太田うさぎ
>>〔4〕共にゐてさみしき獣初しぐれ 中町とおと
【2021年12月の水曜日☆川原風人のバックナンバー】
>>〔1〕綿入が似合う淋しいけど似合う 大庭紫逢
>>〔2〕枯葉言ふ「最期とは軽いこの音さ」 林翔
>>〔3〕鏡台や猟銃音の湖心より 藺草慶子
>>〔4〕みな聖樹に吊られてをりぬ羽持てど 堀田季何
>>〔5〕ともかくもくはへし煙草懐手 木下夕爾
【2021年11月の火曜日☆望月清彦のバックナンバー】
>>〔1〕海くれて鴨のこゑほのかに白し 芭蕉
>>〔2〕木枯やたけにかくれてしづまりぬ 芭蕉
>>〔3〕葱白く洗ひたてたるさむさ哉 芭蕉
>>〔4〕埋火もきゆやなみだの烹る音 芭蕉
>>〔5-1〕蝶落ちて大音響の結氷期 富沢赤黄男【前編】
>>〔5-2〕蝶落ちて大音響の結氷期 富沢赤黄男【後編】
【2021年11月の水曜日☆町田無鹿のバックナンバー】
>>〔1〕秋灯机の上の幾山河 吉屋信子
>>〔2〕息ながきパイプオルガン底冷えす 津川絵理子
>>〔3〕後輩の女おでんに泣きじゃくる 加藤又三郎
>>〔4〕未婚一生洗ひし足袋の合掌す 寺田京子
【2021年10月の火曜日☆千々和恵美子のバックナンバー】
>>〔1〕橡の実のつぶて颪や豊前坊 杉田久女
>>〔2〕鶴の来るために大空あけて待つ 後藤比奈夫
>>〔3〕どつさりと菊着せられて切腹す 仙田洋子
>>〔4〕藁の栓してみちのくの濁酒 山口青邨
【2021年10月の水曜日☆小田島渚のバックナンバー】
>>〔1〕秋の川真白な石を拾ひけり 夏目漱石
>>〔2〕稻光 碎カレシモノ ヒシメキアイ 富澤赤黄男
>>〔3〕嵐の埠頭蹴る油にもまみれ針なき時計 赤尾兜子
>>〔4〕野分吾が鼻孔を出でて遊ぶかな 永田耕衣
【セクト・ポクリット管理人より読者のみなさまへ】