【前口上】銀漢亭とは何だったのか?
東京・神保町の交差点から一本裏に入ったところに、「銀漢亭」という居酒屋がありました。店主は俳人の伊藤伊那男さん。50代前半で脱サラして開店したお店は、次第に話題を呼び、いつしか「俳人の溜まり場」となりました。ふらりと立ち寄れば、誰かしら俳人がカウンターで飲んでいる、あるいは奥で句会をやっている、そんな稀有なお店でした。
しかし、新型コロナウイルス対策のため、都内の飲食店が営業自粛に追い込まれていた今年5月、銀漢亭は突如、閉店。昨年、古稀を迎えた伊那男さんは、賃貸契約の更新となる2021年2月をもって閉店することを心に決めていたようで、決心は揺るがなかったようです。銀漢亭は17年間の営業をもって、ひっそりと看板が下ろされることになりました。
私自身、このお店がなければ俳句を始めなかったでしょうし、本当にいろいろな出会いや別れが、ありました。開かれた句会は数知れず。喧嘩や、修羅場や、数々の事件もありました。毎日のようにこの店に通い詰めた方もいれば、一回しか訪れる機会がなかった、という方もいることでしょう。あるいは、結局は一度も行けなかった、という方も。
しかし、すべてのお客さんには、それぞれの銀漢亭があります。本連載では、銀漢亭にかかわった皆さんに「日替わり」で大切な思い出を語っていただきながら、「銀漢亭とはいったい何であったのか」という問いかけに対する答えを、探すきっかけにしたいと思っています。それは、俳句史の一コマを記録と記憶に残すという作業ともなるはずです。
残念ながら、お店はもう跡形もなくなってしまいました。でも、この連載では毎晩、誰かがカウンターにやってくることになります。誰が来るかは、わかりませんが、一夜限りの「銀漢亭」が毎晩、出現することになります。さて、今夜はどんなお客様が、チリンチリンと鐘を鳴らして、やってくるでしょうか。
【目次】これまでの連載のながれ
【第1回〜第10回】
【はじめに】こしだまほ(「銀漢」同人)「『とりあえず今週休みます』」
【第1回】武田禪次(「銀漢」編集長)「俳人『銀漢亭』の誕生」
【第2回】小滝肇「シャッター」
【第3回】青柳飛(「秋」「天為」同人)「The Milky Way Pub」
【第4回】菊田一平(「唐変木」代表)「あの夜のこと」
【第5回】月野ぽぽな(「海原」同人)「もう一つの故郷」
【第6回】天野小石(「天為」編集長)「『シャンパン5本、入りましたー!』」
【第7回】大塚凱「透明」
【第8回】鈴木てる緒(「銀漢」同人)「銀漢亭」
【第9回】今井麦(「銀漢」同人)「ある銀漢亭スタッフの一日」
【第10回】相沢文子(「ホトトギス」同人)「カウンターの向こう」
【第11回〜第20回】
【第11回】小島健(「河」同人)「銀漢亭に乾杯!🍷」
【第12回】佐怒賀正美(「秋」主宰)「白熱句会の思い出など」
【第13回】谷口いづみ(「銀漢」同人)「銀漢亭・夜明け前」
【第14回】辻村麻乃(「篠」主宰)「ほっとできる場所」
【第15回】屋内修一(「天穹」主宰)「青春時代」
【第16回】仲野麻紀(サックス奏者)「パリ-神保町-銀漢亭」
【第17回】太田うさぎ(「なんぢや」「豆の木」同人、「街」会員)「ナスとカマキリ」
【第18回】谷岡健彦(「銀漢」同人)「飲めるだけのめたるころの銀漢亭」
【第19回】篠崎央子(「未来図」同人)「記憶の故郷へ」
【第20回】竹内宗一郎(「街」編集長、「天為」同人)「銀漢亭コネクション」
【第21回〜第30回】
【第21回】五日市祐介「摩訶不思議な俳句の世界」
【第22回】村上鞆彦(「南風」主宰)「リクルートスーツ」
【第23回】松代展枝(「銀漢」同人)「湯島句会と主宰の料理」
【第24回】近恵(「炎環」「豆の木」同人)「ふらっと入ったらクサヤ」
【第25回】山崎祐子(「りいの」「絵空」同人)「やあ、どうもどうも」
【第26回】千倉由穂(「小熊座」同人)「俳人たちの惑星」
【第27回】安里琉太(「銀化」「群青」「滸」同人)「チャプチェがうまかった」
【第28回】今井肖子(「ホトトギス」同人)「俳縁は永遠」
【第29回】広渡敬雄(「沖」同人「塔の会」幹事)「俳句を愛する人達に乾杯!」
【第30回】今泉礼奈(「南風」同人)「学生バイト」
【第31回〜第40回】
【第31回】鈴木忍(朔出版社主、元角川「俳句」編集長)「俳句とつないでくれた場所」
【第32回】筑紫磐井(「豈」発行人)「麒麟がいる」
【第33回】馬場龍吉(「蒐」代表)「リアル銀漢亭とバーチャル銀漢亭」
【第34回】鈴木琢磨(毎日新聞記者)「神保町の流れ星」
【第35回】松川洋酔(「銀漢」「春耕」同人)「私と銀漢亭」
【第36回】内村恭子(「天為」同人)「行きつけの酒場……?」
【第37回】朽木直(「銀漢」同人)「銀漢亭 Oh!句会をもう一度」
【第38回】柚口満(「春耕」事務局長)「銀漢亭、開店の頃」
【第39回】石井隆司(元「俳句研究」編集長)「かつ結びて」
【第40回】青木亮人(愛媛大学准教授)「Where were you while we were getting high?――銀漢亭に立ち寄った3月のことなど」
【第41回〜第50回】
【第41回】矢野玲奈(「玉藻」「天為」同人)「小道具いろいろ」
【第42回】黒岩徳将(「いつき組」所属「街」同人)「先輩と後輩」
【第43回】浅川芳直(「駒草」所属)「楯野川」
【第44回】西村麒麟(「古志」同人)「冬の夜」
【第45回】西村厚子(西村麒麟マネージャー)「実山椒」
【第46回】小野寺清人(「銀漢」「春耕」同人)「酒と魚と焼ソバと」
【第47回】吉田千嘉子(「たかんな」主宰)「花は種に」
【第48回】松尾清隆(「松の花」同人)「田村さん」
【第49回】岸本尚毅(「天為」「秀」同人)「「銀漢亭」について」
【第50回】望月周(「百鳥」編集長)「星降るお店」
【第51回〜第60回】
【第51回】大野田井蛙(「銀漢」同人)「始まりは同窓会」
【第52回】大和田アルミ(「唐変木」編集人)「土下座の件について」
【第53回】しなだしん(「青山」主宰)「伝説の句会」
【第54回】倉田有希(「写真とコトノハ展」代表) 「写真とコトノハ展@銀漢亭」
【第55回】小川洋(「天為」同人・事業部長)「哀しいことに。 」
【第56回】池田のりを(「ふう」同人)「オールディズ」
【第57回】卓田謙一(「りいの」編集長)「超結社・呑兵衛俳人の聖地」
【第58回】守屋明俊(「未来図」同人)「銀漢亭という故郷」
【第59回】鈴木節子(「門」名誉主宰)「鷹夫の指のトゲ」
【第60回】片山一行(「銀漢」「麦」同人)「川柳もあった銀漢亭」
【第61回〜第70回】
【第61回】松野苑子(「街」同人会長)「けれど、水は流れる」
【第62回】山田真砂年(「稲」主宰)「DNAの共鳴」
【第63回】三輪初子(「炎環」同人、「わわわ」句会代表)「わたしの中の「銀漢亭」」
【第64回】城島徹(毎日新聞編集委員)「鈴木琢磨と伊藤祐三」
【第65回】柳元佑太(「澤」)「コンビーフ」
【第66回】阪西敦子(「ホトトギス」同人「円虹」所属)「「銀漢亭よくいる俳人」ができるまで」
【第67回】鷲巣正徳(「街」同人)「三人の師と銀漢亭の素敵な人々」
【第68回】堀田季何(「楽園」主宰)「銀河系のとある酒場」
【第69回】山岸由佳(「炎環」「豆の木」同人)「銀漢の片隅に」
【第70回】唐沢静男(「銀漢」「春耕」同人)「銀漢亭の黎明期」
【第71回〜第80回】
【第71回】遠藤由樹子「角を曲がれば」
【第72回】本井英(「夏潮」主宰)「銀漢亭のおみそ」
【第73回】芥ゆかり(「天為」同人)「鮮やかな幕引き」
【第74回】木暮陶句郎(「ひろそ火」主宰・「ホトトギス」同人)「銀漢亭の想い出」
【第75回】近江文代(「野火」「猫街」同人)「銀漢亭それは… 」
【第76回】種谷良二(「櫟」東京支部長)「どこでもドア」
【第77回】小沢麻結(「知音」同人)「みんな、星のひかり」
【第78回】脇本浩子(「海」同人)「断捨離をまぬがれたもの」
【第79回】佐怒賀直美(「橘」主宰)「火の会と芋焼酎と鱲子と」
【第80回】佐藤文香(「翻車魚」「鏡」同人)「友達になるかもしれない人」
【第81回〜第90回】
【第81回】髙栁俊男(法政大学国際文化学部教授)「唯一の行きつけの店だった銀漢亭」
【第82回】歌代美遥(「ホトトギス」「玉藻」「篠」同人)「大人の遊び場」
【第83回】対馬康子(「麦」会長・「天為」最高顧問)「青春しました」
【第84回】飯田冬眞(「磁石」編集長)「神々の目撃者」
【第85回】土肥あき子(「絵空」同人)「放課後の楽しみ」
【第86回】有澤志峯(「銀漢」同人)「ひとり酒」
【第87回】笹木くろえ(「鏡」同人)「窓と万華鏡」
【第88回】潮田幸司(「銀化」編集長) 「つながりと後悔と」
【第89回】広渡詩乃(「栞」同人) 「銀漢亭の一皿、俳人の味。」
【第90回】矢野春行士(「玉藻」同人) 「玲奈パパ」
【第91回〜第100回】
【第91回】北大路翼(「街」同人、「屍派」家元)「超個人的雑感」
【第92回】行方克巳(「知音」代表)「銀漢亭閉店と俳人伊藤伊那男」
【第93回】井上弘美(「汀」主宰)「白熱の場」
【第94回】檜山哲彦(「りいの」主宰) 「銀漢陽之介 またの名を、伊藤伊那男」
【第95回】若井新一(「香雨」同人)「銀漢亭と巾着なす」
【第96回】中嶋憲武(「炎環」「豆の木」)「チカチカ青い星」
【第97回】岸田祐子(「ホトトギス」)「俳句以外の」
【第98回】森羽久衣(「銀漢」同人)「会いにいける主宰」
【第99回】川島秋葉男(「銀漢」副編集長)「銀漢亭はハブ空港!そして超結社句会「湯島句会」」
【第100回】伊藤政三(「銀漢」同人)「〝銀漢亭の日〟始めました。」
【第101回〜第110回】
【第101回】田村元(歌人・「りとむ」「太郎と花子」)「交流という遺産」
【第102回】小泉信一(朝日新聞編集委員)「語ってくれた井月の魅力」
【第103回】中島三紀(「俳句αあるふぁ」編集人)「銀漢亭の午後、「一句一菜」の時は流れて」
【第104回】坂崎重盛(エッセイスト)「銀漢亭の片隅で」
【第105回】藤森荘吉(「ホトトギス」「花鳥」「夏潮」)「瓢箪から駒」
【第106回】後藤章(「自鳴鐘」同人)「妄想の二階」
【第107回】石川洋一(歌人・「未來短歌会」)「銀漢亭と鎌倉」
【第108回】麻理伊(「や」同人)「立春にはシャンパン」
【第109回】川嶋ぱんだ(つくえの部屋Founder)「松野のうなぎと、ちょっぴり浸かる」
【第110回】今井康之(岩波書店社友)「伊藤医院の息子 ――伊那男」
【第111回〜第120回】
【第111回】宮澤正明(写真家)「注文の多い立ち飲み屋店」
【第112回】伊達浩之(「銀化」同人) 「彼女」
【第113回】佐古田亮介(「けやき書店」店主)「銀漢亭のこと」
【第114回】中村かりん(「稲」同人)「私の銀漢亭ものがたり」
【第115回】今田宗男(元「卯波」店主)「銀漢亭 vs. 卯波」
【第116回】入沢 仁 (通り掛かり)「丑年と銀漢亭」
【第117回】北村皆雄 (井上井月顕彰会会長)「銀漢亭放浪」
【第118回】前北かおる (「夏潮」会員)「閏の会」
【第119回】木戸敦子(「銀化」会員)「聖地巡礼」
【第120回】吉田類(ライター、酒場詩人)「酔いどれて「銀漢亭」」
【第121回〜第127回】
【第121回】堀江美州(「銀漢」同人、「和」副主宰)「出会いと別れ」
【第122回】樫本由貴(「小熊座」)「間に合った銀漢亭」
【第123回】大住光汪(「銀漢」同人)「ヴーヴクリコを もう一本!」
【第124回】髙坂小太郎(「銀漢」「牧」所属)「行きつ戻りつ銀漢亭」
【第125回】峯尾文世(「銀化」同人)「イエローラベル」
【第126回】坪井研治(「銀漢」同人)「エピソード」
【第127回】鳥居真里子(「門」主宰)「とある酒場とちりめんじゃこ」
【第128回】井越芳子(「青山」副主宰)「光の輪」
【第129回】朝妻力(「雲の峰」主宰)「ほのぼのと」
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